表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
128/198

60 .賑やかで朗らかな日常

夜更かしをしてクロームとラシャンと同じ部屋で眠り、翌日は家族全員で近くの街を散策した。

カディスたちへのお土産を忘れずに購入し、今回の旅行の記念になりそうな小さなお皿を買った。

小物置きとして使ってもいいそうなので、アトリエに飾ろうと思っている。


そして、遅くなりすぎないようにと、昼食後にタウンハウスに向けて出発した。

行き同様豊かな景色を眺めつつ、プテレヴィの手綱を握るチャイブに話しかける。


「ねぇ、チャイブ。まだまだたっくさん知らないことってあるんだね」


「突然、どうした?」


「ずっと旅をしていたから、お兄様より色んなことを体験していると思っていたの。でも、お兄様の方が物知りだから、私は知らないことが多いんだって思ったの。後、これから楽しいことをいっぱい知ることができるんだって嬉しくなったの」


「楽しみなことが増えてよかったな」


「うん」


「でも、1つ訂正だ」


「なに?」


「今回の旅行先は貴族御用達の場所なんだよ。平民に紛れて生活していた時には知らなくていいことだから、興味を持たないように平民に必要ないことは俺は教えていない。そして、また逆も然りだな。これから貴族の生活を続ければ貴族のことに詳しくはなるが、平民の流行りには疎くなる。どこで生きているか、ただその違いってだけだ」


「そっか。ずっとアムブロジア王国にいたから、セルリアン王国について知らないことが多いのと一緒なんだね」


「ああ、そうだな」


「じゃあ、色んなことを知りたかったら、たくさんの場所に旅行すればいいの?」


「うーん、実際に行けることができれば素敵だろうが、小さい今では難しいな。学園もあるからな」


「そっかー。ダメなんだろうけど、勉強よりも色んなところに行きたいな」


「大人になって時間がある時に出かければいいんだよ。今はまだ色んな国の本を読んで、どんな国にどんな名産があるのか知っていけばいい」


「本はもう無理だよー」


「どうしてだ?」


「だって、今歴代のご先祖様たちの人生を読んでいるんだもん。先に読み終わりたいし、絵も描きたいもん」


「そういえば、最近珍しい花を描きはじめてたよな? あの花は何だ?」


「あの花はね、薬なんだよ」


「薬?」


「うん、大昔に喉が腫れて呼吸困難になる風邪が流行ったらしいの。ラーシラフレ病っていうらしいよ。薬になる花の名前は、ラーシラフレ病から取られてラフレって命名されたんだって。夜になると咲いて、朝には枯れるの。でね、その花が咲いている時に採れる蜜が薬になるんだよ」


「へー、ご先祖様はその薬の開発者とかだったのか?」


「ううん、資金提供者だったみたい。だから、綺麗な花だったっていうお話は書かれていたけど、薬の作り方は書いてなかったの」


「なるほど。それなら全ての公爵家が協力し合っていそうだな」


「そうだね。でも、そういうことは書かれていなかったよ」


のんびりとチャイブとの会話を楽しみながらタウンハウスに到着すると、帰ってくるのが分かっていたかのようにカディスとレガッタがやってきた。

笑顔の2人に瞳を瞬かせてしまったのは、アイビーだけではないはずだ。


さすがに追い返すことはできないので、ラシャンと一緒に2人を温室に案内することにした。


「殿下、普通は来ませんからね」


「僕は止めたよ。でも、レガッタが1人だと行きにくいからって僕を引っ張ったんだよ」


「まぁ! お兄様、ひどいですわ。お誘いしましたらノリノリで来てくださいましたのに」


「合っているでしょ。誘ってきたのはレガッタなんだから」


「どっちもどっちですよ」


ラシャンが呆れたように言うが、カディスは肩をすくめるだけだし、レガッタは「ラシャン様もひどいですわ」と頬を膨らませていて、気まずそうにする素振りさえない。


温室に着くと、すぐにルアンがお茶の支度をしてくれ、買ってきたお土産をチャイブが盛り付けてくれた。


「たまご?」


少量の黄金のスープに入れられている白身から黄身の色が透けて見える卵が、順番に目の前に配られていく。


「やわやわたまごって名前らしいですよ」


「紅茶にたまご?」


「オレンジジュースとクッキーも用意していますよ」


「お兄様、いらないならくださいまし」


「食べないとは言っていないよ」


旅行先で1年を振り返ったから長い時間を経て成長したように感じていたが、いつもと変わらない3人のやり取りに何も変わっていないと気づいた。

賑やかで朗らかな日常に戻ってきたと、アイビーは1人でほっこりしていた。


「まぁ! 濃厚で美味しいですわ!」


「生に近いような気がするほど柔らかいね。付け合わせのスープが、たまごの甘さを引き立てているんだね」


「向こうでも食べましたが、このトロット感が癖になりますよね」


そう、アイビーとラシャンは朝から2個も食べていて、本日3個目なる。

それでも、口に含むと、中から黄身が溢れ出しスープと混ざり合う味が美味しすぎて、目を細めてしまう。


「アイビーみたいに1口で食べればよかったよ」


「私もそう思いましたわ。残念です」


「1人2個の計算で買ってきましたので、もう1つずつありますよ。夕食時にでも食べてください」


「本当ですの!? 嬉しいですわ!」


「うーん、僕は明日の朝食べようかな。パンに付けても美味しそうな気がするし」


「まぁ、お兄様。悩むようなことを言わないでくださいまし」


誰もがオレンジジュースで口の中をリセットしてから、クッキーに手を伸ばしている。


旅行先でどのようなことをしたのかの話で盛り上がり、カディスとレガッタは「王宮でやわやわたまごを1口で食べると怒られるから」と理由をつけて、夕食をヴェルディグリ公爵家で食べてから帰っていった。






来週火曜日は1話のみの投稿になります。


いいねやブックマーク登録、読んでくださっている皆様、本当にありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ