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59 .アイビーが帰ってきた記念日

陛下の誕生日までに肖像画は間に合い、喜んでくれた陛下は早速回廊に飾ってくれたそうだ。


両陛下を祝うパーティーは、大人だけが参加できるパーティーになっているので、成人していないと参加できない。

カディスとレガッタも壇上で行う挨拶の数分だけ顔を出し、すぐに退場するそうだ。

パーティーに関しては、カディスとレガッタが揃って学園を休んだ日に、ルージュが教えてくれた内容になる。


そして、あまり日にちを開けず、今度はイエーナの誕生日パーティーが催された。

陛下の誕生日パーティーと違い、参加者のほとんどが子供になる。

正式なパーティーというよりお祭りに近い催しなので、開催されている時間内に訪れてお祝いを述べるだけでいいとのこと。

アイビーはラシャンと一緒に30分だけ参加して、すぐにクレッセント公爵家を後にした。

時間は合わなかったが、カディスとレガッタ、そしてルージュも短い滞在で終わらせたそうだ。


カディスやレガッタの誕生日パーティーとあまりにも違うので、帰りの馬車の中でラシャンに尋ねたら、「殿下たちが特殊なんだよ。あの2人はあれでも王族だからね」と笑った後、「僕の誕生日もイエーナと変わらないよ。家同士を繋げたいとか、仲良くなりたいと近寄ってくる人以外は、本当に顔を出す程度だからね。みんなそれぞれ楽しんで帰っていくだけだよ」と教えてくれた。


みんなをどれだけ楽しませられるかで、家の力を示すそうだ。

大体は、ホールでダンスと楽団、庭のあちこちでミニ楽団と大道芸人によるパフォーマンスが行われているらしい。

料理も至る所に配膳されるため、使用人たちの腕の見せどころなんだそうだ。

どれだけ優秀な使用人を雇えているかも、家の評判に繋がるからとのこと。


「誕生日パーティー1つにしても、楽しいだけではダメなんですね」と驚くと、「本当に面倒くさいよね。僕はアイビーと過ごせるだけでいいのに」とラシャンに手を繋がれたのだった。


そんなこんなで、お祝い事が続いた裏でラシャンが中心となって家族と計画していた『アイビーが帰ってきた記念日』の旅行が決行された。

週末にクロームが休みを取って、家族全員参加の1泊2日の旅行になっている。


秋になり涼しくなってきたので、プテレヴィで数時間の移動で訪れられるリゾート地、温かいお湯の湖に遊びに来ている。

湖の近くの屋敷を1棟まるまる借りていて、そこで湖に入るための専用の服に着替え、馬車で移動をした。

専用の服は、少し分厚めのカットソーと膝までのズボンになる。


「うわー! 湖っていうより海みたいですね!」


「アイビー! 走ったら危ないよ!」


馬車から降りるなり駆け出すと、ラシャンが慌てて追いかけてきた。

ポルネオたちの楽しそうな笑い声が、後ろから聞こえてくる。


湖の縁にギリギリで立ち止まり、覗き込むようにしゃがんだ。

すぐにラシャンが隣に腰を下ろしてきた。


「一面水色で底が見えませんが、深くありませんか? 入っても大丈夫ですか?」


「大丈夫だよ。ここから50メートルくらいは太ももまでの深さだからね。でも、それよりも奥は深くなっていくから絶対に行かないでね」


「はい、分かりました」


真剣に頷いてから、恐る恐る足を入れてみた。

少し温いくらいの温度だが、十分温かく感じる。


「うわー! すごい! お湯です!!」


初めての体験に顔を輝かせながら、ゆっくりと腰を下ろした。

湖の中で座り、泳ぐわけではないが両手を大きく動かしてしまう。

ラシャンは戸惑わずに入ってきて、クロームたちも順番に体を浸けている。


「アイビーちゃん、ここの泥は美容にいいのよ。だから、ご婦人たちはみんな浸かりに来るのよ」


「お祖母様が綺麗な秘訣ですか?」


「あら、嬉しいことを言ってくれるのね」


「ローヌは若い時も可愛らしかったが、今も綺麗で魅力的だからな」


「あなたったら。恥ずかしいから止めてくださいな」


図らずも祖父母のイチャイチャを見せられたが、反抗期の少年少女はここにはいないので穏やかな雰囲気が流れる。

のんびりと浸かったり、底から泥を掬い体に塗りあったりして、和やかな時間を過ごしたのだった。


夜はいつもより豪勢な食卓で、長い時間をかけて夕食をとった。

アイビーが帰ってきてからの1年をみんなで振り返り、この先もずっと一緒にいようと約束をした。


「絶対だよ、アイビー。絶対だからね。どこにも嫁がずに僕の側にいるんだよ」


真剣な面持ちのラシャンに、一瞬目を点にしてしまった。

しっかりと頷いているクロームたちの姿も視界の端に映っている。


本来なら重すぎる愛に引くところなのかもしれないが、アイビーはものすっごく嬉しかった。

毎日惜しみなく大切にしてくれる家族が大好きで、アイビーもずっと一緒に居たいと思っている。

幸せな毎日を心に刻み、与えてくれる気持ち以上の想いを返していこうと決めている。


「お兄様、大好きです」


「うん、僕もアイビーが大好きだよ」


「お父様もお祖父様もお祖母様も、みんな大好きです」


3人からも「大好き」と返される。


「私、ずっと家族に憧れていたんです。だから、大好きなお兄様たちが私の家族で本当に嬉しいです。たくさんの幸せをもらって、いつも感謝してしています。お祖父様、お祖母様、お父様、お兄様、私を愛してくれてありがとうございます。本当にみんなのことが大好きです」


大粒の涙を流しはじめたラシャンの涙を慌てて手で拭うと、微笑んだラシャンに同じように頬を拭われた。

アイビーも胸がいっぱいで泣いてしまっていたし、クロームたちも全員涙している。

照れたように微笑み合って、みんなで小さな笑い声を漏らした。






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