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56 .放課後デート

学園が終わり、アイビーとカディスは制服のまま王家の馬車に乗っている。

フィルンは御者と一緒に御者席にいる。


「疲れた……あの2人はしつこいよ……」


向かい側の席に座り、太ももに肘をついて前屈みで項垂れるカディスに、アイビーは苦笑いしてしまう。


「お兄様とレガッタ様は寂しがり屋さんですから」


「『極度』のね。あー、本当に疲れた。ケーキ2個は食べられるよ」


週明け早々のお昼休み(本日のお昼休憩時)に、カディスから「アイビー、今日2人で出かけよう。昨日なんとかってお店に行きたいって言ってたでしょ。そこに行ってもいいし、買い物してもいいし」という言葉が飛び出したのだ。

もちろん反対をしたのはラシャンとレガッタで、後期から一緒に食べているイエーナは騒がなかったが誘ってほしそうにしていた。

ルージュは、いつも通り我関せずを貫いていた。


「あの場で言われるんじゃなくて手紙をくだされば、まだマシだったと思いますよ」


「手紙だと、出発する時に馬車道前で大騒ぎになるでしょ。事前の告知も兼ねてラシャンたちの前で言ったんだよ」


「……確かに」


カディスは、疲れを吐き出すように息をし、体を起こして窓の外に視線を向けた。


「貴族街って、本当派手だよね」


「平民街が真っ白に青い屋根ばかりだから、そう思われるんじゃないですか? アムブロジア王国はもっと派手でしたよ」


「あの国は織物を飾る風習が強いから、色がゴチャゴチャしているんだよ」


「そう言われたらそうですね。大掃除の時期の洗濯物が干されている景色は目が痛いくらいでした」


「圧巻だろうね」


楽しそうに笑いながら言うカディスに、アイビーは「笑い事じゃないくらい、本当に色とりどりなんですよ」と真剣に伝えて、よりカディスの笑いを誘ってしまったのだった。


昨日マーリーが教えてくれたカフェに到着すると、予約をしてくれていたようで、すんなりとテラスに通してもらえた。

周りから見えないわけではないが、テーブルが間引きされていると思うほど、テーブルとテーブルの距離が空いている。


このカフェは、紅茶の種類が豊富なことと、直径7センチの小さなホールケーキが宝石のように綺麗だという理由から、とても人気があるそうだ。


カディスが代表しておすすめの紅茶と人気が高いケーキを2個頼んでくれている時、誰かがテラスに案内されてきた。

カディスの向こう側を見て吹き出したアイビーを不思議に思ったのか、カディスが後ろを振り返った。

そして、体全体を使って息を吐き出しながら座り直している。


「無視だよ、無視」


「ふふふ。お兄様とレガッタ様の執念を感じますね」


「一緒に来ているんだから、イエーナとルージュも本音では来たかったんだろうね」


「イエーナ様は分かりやすかったですけど、ルージュ様もとは少し驚きました」


カディスと笑い合っていると、突然カディスが首や肩をほぐすように鎖骨周りを動かした。


「ものすっごく恨みを感じるんだけど、これ絶対にラシャンとレガッタが睨んでいるよね?」


「正解です。お兄様たちの目が据わっています」


「怖いよねぇ。僕、一応王子なんだけどな」


「見た目は立派な王子様ですよ」


「中身もだよ」


「一応って言われたのはカディス様なのに」


言い返されたから不貞腐れてみた。

視線を合わせたまま1拍置いた後、同時に笑い出す。


ラシャンの顔が悔しそうに歪んでいるが、レガッタはもうケーキに夢中なようで明るい顔で注文している。


アイビーたちの紅茶とケーキが運ばれてきて、青いケーキがアイビーの前に、緑色のケーキがカディスの前に置かれた。


「すごいです! 宝石というより綺麗な夜空ですね」


「僕のは宝石って言葉がぴったりだよ。夫人や令嬢に人気なのも納得だね」


お互いのケーキを見て感想を述べていると、「まぁ! 可愛いですわ!」というレガッタの興奮している声が響き渡った。

向こうのテーブルを見やると、4人のはずなのに6個のケーキが置かれている。


「あれ、絶対大目玉食らうよ」


「怒られると分かっているからこそ、どうせならという考えじゃないでしょうか」


「あー、ね。あり得るね。レガッタも頭使うようになっちゃって」


呆れたように言いながら1口口に運んだカディスは、少し難しい顔をした。

そして、フォークを置いた。


「どうされました?」


「食べてみたら分かるよ」


首を傾げながら食べたアイビーは、カディスが言いたいことをすぐに理解した。


——あっっっっっっっまい! なにこれ、なにこれ、なにこれ!? 甘すぎて舌がピリピリする。これが人気なの? どうして? 嘘だよね? ないよ、ない。


この甘いだけのケーキが、本当に人気なんだろうかと、瞳だけで周りを見渡し、目を剥いてしまう。

アイビーは飲み込めないのに、みんな楽しげにお喋りしながらケーキを食べているのだ。


——私がおかしいのかな? ううん、カディス様もフォーク置いたもの。


紅茶でなんとか流し込み、鼻から息を吐き出した。


「バーチメントは味について言ってなかったの?」


「はい。美味しいとも不味いとも言っていませんでした」


「そう。レガッタたちは食べてる?」


「……レガッタ様だけ食べていて、ルージュ様は顔を青くしています。お兄様とイエーナ様は固まっていますね」


「ああ、うん、目に浮かぶよ」


黄昏れるように言うカディスが面白いのか、レガッタだけが食べている光景が可笑しいのか、はたまたケーキが甘すぎることがツボに嵌まったのか、無性に笑いが込み上げてきた。

何が笑いを誘っているのかが分からないから手で口元を隠して耐えようとしたのに、我慢できず声が漏れてしまう。

目をパチクリしたカディスも楽しそうに笑い出し、「もう1口食べてみようか」と挑戦しては苦い顔をし合い、また笑い合った。






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