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55 .お友達になってください

悲しそうに唇を震わせるマーリーは、今にも泣いてしまいそうに見える。


「どういうことでしょうか?」


「ダフニさんはダフニさんでカディス殿下の婚約者を狙ってされたことだと思います。しかし、あの子たちはダフニさんを持ち上げるために協力したのではなく、私が婚約者になれるんじゃないかと考え協力をしたそうなんです」


「まぁ、お兄様の婚約者候補と噂される令嬢は大勢いましたものね。その誰もが、お兄様とダンスすら踊ったことがない令嬢ばかりでしたけど」


「はい。私も両親に言われるまま夢を見ておりました。『血が濃くなりすぎるのは政界のバランスを崩してしまうから、今回は侯爵家から選ばれるだろう』という言葉を信じて、努力してきました。あの麗しい方の隣に立つためには自分を律しないとと。あの子たちもご両親から似たようなことを聞いていたんだと思います。そして、努力する私を見ていてくれたのでしょう。ヴェルディグリ公爵令嬢が外されたら私がなれると信じて疑わなかったようです」


マーリーの顔の角度が深くなり、表情を窺えなくなった。


「努力したことを後悔していませんが、そんな勘違いを引き起こさせてしまったことは反省しております。私がもっときちんとヴェルディグリ公爵令嬢を祝い、カディス殿下に未練はないと伝えないといけませんでした。今一度、謝らせてください。本当に申し訳ございませんでした」


マーリーは、綺麗に立ち上がり、ゆっくりと慎重に深く頭を下げた。


「話は分かりました。謝罪を受け入れますが、1つお願いがあります」


「何なりとお申しください」


「では、マーリー様。私とお友達になってください」


「え?」


マーリーをじっくり観察したのは今日が初めてで、出迎えた時からずっと所作が綺麗すぎると思っていた。

今も勢いよく頭を上げたのに、本当に日頃から努力しているのが分かるほど、マーリーの背筋は伸びている。

頑張れる人は好ましいし、心から素直に謝ってくれる人に悪い人はいないはずだ。


「私のことはアイビーでお願いします。これからは、お茶をしたり買い物をしたりと、私に色々と流行りを教えてください。まだまだ社交界のことは疎いんです。だから、お願いします」


マーリーの側までいき、右手を差し出した。

マーリーは、握手を求めるアイビーの手を見つめている。


「私はたくさんのことを見落としてきすぎでしたね。優しいアイビー様に感謝いたします。ぜひ私とお友達になってください」


震える手で手を握られ、強く握り返した。

瞳を潤ませているマーリーが柔らかく微笑むから、アイビーも自然と頬を緩ませる。


チャイブがマーリーにハンカチを差し出したので、手が離れたタイミングでアイビーは自席に戻った。

マーリーが涙を拭ってから座り直すと、ルアンが新しいお茶を淹れてくれる。


「アイビーと友達になったのなら、私とも友人ですからね。アイビーを招待する時は私も呼んでくださいましね」


「ありがとうございます、レガッタ殿下。必ずご招待いたします」


顔を斜め上に向け満足そうに頷くレガッタが可愛らしくて、笑ってしまいそうになる。


「マーリーはお兄様を諦めたと言いましたよね。では、ラシャン様を狙っているというのは本当ですの?」


乾いた笑いを浮かべたマーリーは、首を小さく横に振った。


「両親はどうにかねじ込みたいと思っているようですので、パーティーの時は一応声かけをしていますが、私としてはラシャン公子様は綺麗すぎて隣に立てそうにありません。今以上の努力にも耐えられそうにありませんので、私は平凡な方に嫁ぎたいと思っています」


「あら、そうなのですのね。やっぱりある程度の令嬢は、ご両親の意向が強いんですのね」


「名門貴族に嫁げたら幸せになれると盲信している部分はありますから。お恥ずかしいことに、私も信じていた人間ですので偉そうなことは言えませんが」


「どうして考えが変わったんですか?」


「アイビー様が現れたからですよ」


言われている意味が分からなくて、頬に指を添えて首を傾げる。


「ラシャン公子様は、嘘偽りなく寒々しい空気を纏っていた代表だったんです」


アイビーは瞳を瞬かせるが、レガッタは笑いながら「そうでしたわね」と口元を隠している。


「でも、アイビー様が王都に来られてからは、神々しい光を纏わられるほど柔らかくなられて、笑顔を見せられることが増えました。家族だからと言ってしまえばそれまでなんですが、私には青天の霹靂で『あの笑顔を私に向けてほしい』ではなく、『あの笑顔を引き出させないのなら不幸になる』という恐怖の対象になってしまったんです」


レガッタが、お腹を抱えて笑っている。

チャイブとルアンは、笑わないように顔に力を入れているのだろう。

なんとか唇はひき結ばれているが、残念なことに体が小刻みに揺れている。


「だから、公爵家に嫁げたら幸せになれるなんて盲信だと気づけ、誰にでも優しい方と結婚できたらいいなと思うようになりました。まぁ、家格の問題がありますので、そんな方が侯爵家伯爵家にいてほしいと願うばかりです」


「それは違いますわよ、マーリー。少し前のイエーナみたいな男も誰にでも優しいって言えますのよ。誰にでも優しいのではなく、人として礼儀や配慮がある方にしないといけませんわ」


イエーナのことを持ち出されて、どう返せばいいのかと狼狽えたようで、マーリーは喉を詰まらせながら「そ、そうですね」とだけ返していた。


その後も恋愛話を混じえながら、有名なカフェや予約が取りづらいレストランを教えてもらったり、恋人のお出かけスポットの話題で盛り上がったりと、今日1日でマーリーとの距離をぐんと縮めたのだった。






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