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12 .アイビーを守るために

チャイブがアイビーを部屋まで運び戻ってくると、クロームとラシャンが加わった夕食が始まった。

ポルネオは、執事のジョイとチャイブだけを残し、侍女や侍従を下がらせた。


「まだ子供のラシャンに伝えるべきかどうか悩んだが、ラシャンもアイビーを守りたいだろうからな。一緒に作戦会議をしよう」


「お祖父様、ありがとうございます」


「意気込むこともいいけれど、ご飯はきちんと食べましょうね」


「はい、お祖母様。強くなるために食事を抜くことはしません」


「えらいわ」


照れたように頬を染めるラシャンに、大人たちの心は癒されていく。

気を張り詰めすぎていたと、体と心を緩めることができたのだ。


ポルネオが「手紙にも書いたが」と、アイビーが公爵家に帰ってきたことから話しはじめた。

ポルネオの話が終わると、ローヌが精霊魔法のことと、先ほどアイビーが寝落ちした理由を伝えた。


クロームとラシャンの食べる手は止まっていて、顔から憤りが滲み出ている。


「あの時、他に選択肢はなかったのかと悔やむばかりです」


「私も同じ気持ちだよ」


クロームとポルネオの後悔が含まれる声色に、ローヌも悲しそうに視線を下げている。

唇を噛み締めていたラシャンが大きく頷いて、ポルネオたちを見渡した。


「2度とアイビーが離れて暮らさなくていいように、僕が強くなります。もう誰にも邪魔させません。それが王族であってもです。僕が守ります」


ポルネオたちは、慈しむようにラシャンに微笑みかける。

ポルネオたちにとったら、ラシャンもまた守るべき存在だ。

心優しく妹想いの子に育ってくれていることが、愛しくてたまらない。


「ラシャン1人が頑張る必要はない。私は老いぼれだが、まだまだ強いんだぞ」


「私だって強いんだよ。歴代最強は伊達じゃないんだからね」


「あら、私は魔法を無効化できるのよ。歴代最強のクロームよりも強いわ」


「お義母様には勝てません。戦う前に白旗をあげますよ」


「ふふふ」と茶目っ気たっぷりに口元を緩ませるローヌに、ポルネオとクロームも小さく笑っている。

ラシャンも口を大きく広げていて、楽しそうな雰囲気に変わった。


「それでだな、私なりにアイビーを守るためにどうすればと考えたんだが……公国として独立するのはどうかと思ったんだ」


「お義父様、本気ですか?」


「本気も本気だ。セルリアンの王族は我らを守る義務はあるが、所詮大勢のうちの数名だ。そのために最も危険がなく、被害が少ないことを選ぶだろう。政権交代はしているが、そう変わるまい。もしもの時はティールと同じことが起こる。そして、我らも従うしかない」


クロームは辛そうに目を伏せたが、すぐに視線を上げた。


「そうですね。大切な人を2度と手放さないためにも必要だと思います」


「私も公国は賛成ですが、難しいんじゃないかしら。クロームは魔術師団師団長ですし、精霊魔法を使える私とアイビーを繋ぎ止めておきたいはずよ」


「繋ぎ止めておきたいのなら、もしもの時に戦争になってもいい覚悟でいるべきなんだ。でも、あやつらはすぐに手のひらを返すぞ。私には分かる。甘い蜜を吸いたいだけの奴が多くて気に食わん」


吐き捨てるように言い切るポルネオに、ローヌとクロームが苦笑いを浮かべている。


「しかし、旦那様。公国という考えは素晴らしいと存じますが、時間がかかりすぎではありませんか? お嬢様用の洋服や日用品を購入しております。アイビーお嬢様の存在は、すぐに知れ渡ることになりますよ」


冷静なジョイの言葉に、ポルネオは腕を組んで、顰めた顔を僅かに俯かせた。


「確かになぁ。穏便に独立したいからなぁ」


そう、独立するために武力による戦争などしたくない。

経済戦争ならばと思わなくないが、別に王家と仲が悪いわけでもないのだから、平和的に同盟国として独立したいのだ。


どのように交渉すれば穏便に済むのかと、誰もが考えを巡らせようとした時、クロームが思い出したように「そういえば」と話しだした。


「王子殿下が来るみたいですよ」


「何をしにだ?」


「視察を理由にラシャンの側にいたいのでしょう」


「違いますよ。父様に適当にあしらわれた仕返しをしに来るんですよ」


「どっちでもいいが、早々にアイビーのことが王家に伝わるのか」


ポルネオのため息に、クロームとラシャンが立ち上がった。


「殿下がいる間はアイビーを隠しましょう!」


「父様に賛成です」


今度は、ローヌが呆れたように息を吐き出している。


「どこに隠すと言うの? 隔離するなんて可哀想なことできませんよ」


「ですが……」


ローヌの叱責するような顔に、クロームは意気消沈して椅子に座り直した。

ラシャンも肩を落としながら腰を下ろしている。


頭を抱えていたポルネオが、愚痴を溢すように言葉を吐き出した。


「あの子は、本当にヴェルディグリ公爵家が好きだなぁ。他の2個の公爵家と懇意にすればいいものを」


「クレッセント公爵家もスペクトラム公爵家も、うちと違って歓迎してくれるでしょうにね」


全員ため息を吐き出したのだが、吐き出すタイミングが同時だったことが何だかおかしくて、顔を合わせて笑い合った。

家族の笑顔や笑い声は、陰鬱な空気を吹き飛ばしてくれる。

楽しい時間を連れてきてくれる。


意見交換をした夕食が終わっても、アイビーについての話し合いは行われた。

結果、どう転んでもいいように公国になるための準備を進めることになり、アイビーの精霊魔法についてはアイビーが成人するまで秘密にすることになったのだった。






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