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42 .インディアカ

午前中は動物がいる森に散歩に行き、昼からは体を動かす遊びを中心に長期休暇を満喫している。

王妃の目がない分、レガッタものびのびとしていて毎日楽しそうだ。

ラシャンとカディスは、訓練もあって人一倍動いているが疲れた様子など微塵も感じさせない。

それなのに、いつもイエーナだけは、夕方になると疲労困憊でソファに倒れている。


「イエーナ、少しは体力つけなよ。何かあった時にレガッタを守れないとか、笑えないからね」


「殿下……人には向き不向きがあるんですよ。私に至っては運動全般苦手なんです。その代わり、ナンキンがとびきり優秀な騎士なんです。適材適所なんです」


「だとしても、逃げるためには走る体力くらいいるからね」


「私は誰かに狙われません。大丈夫です」


「公爵令息が何を言ってるんだか」


呆れたように吐き出すカディスに、レガッタも困ったようにイエーナを見ている。


「お兄様の言う通りですわよ。下衆なことを考える輩は多いんですから、イエーナは気をつけないといけませんわ」


「僕もそう思います。公爵家を失脚させようとする人たち以上に、イエーナは女の子に刺される確率が高いですからね」


「またラシャンが私を虐めてくるー。どこまで私が嫌いなんですか?」


「好きだなんて言ったことも思ったこともないからね」


爽やかに微笑みながら言い切るラシャンに、イエーナはとうとう泣き真似をしだした。

「ひどい……ラシャンは本当にひどい……」と呟いているが、誰もが分かる嘘泣きなので涙なんて1粒も落ちてこない。


「イエーナ様、大丈夫ですか? 明日のインディアカ(羽付きシャトルを手で打ち合うスポーツ)、参加できそうですか?」


「アイビー、普段から運動していないイエーナが悪いんだから、気を使わなくていいよ。明日は4人でしよう」


ラシャンの言葉に、カディスとレガッタも頷いている。

自由に遊べる今、存分に動きたいのだろう。


アイビーとしても3人に同意見なのだが、苦手だと分かっている人を連れまわして巻き込んでいいものかと気になったのだ。

だからといって、やらないだろうという決めつけや押し売りは、チャイブに注意された虐めと何ら変わりない。

みんなで楽しく遊べるのなら、運動でもボードゲームでも何でもいい。


「私は審判をしますよ。みんなについていくのは無理ですからね」


嫌がっているようには見えないイエーナの面持ちに、アイビーは「だったら、思いっきり遊ぼう」と心を軽くしていた。


そんなやり取りをした翌日、巷で流行りはじめたというインディアカをするため、全員で訓練場の一角にやって来た。


正確なルールはきちんとした陣地があり、4対4でローテーション組んで戦う種目なのだが、今回は自由に動き、どれだけラリーを続けられるかという耐久ルールで遊んだ。


ただ言わずもながら、アイビーとラシャンとカディスは、日頃の訓練のおかげかコツを掴んでから落とすことはなくなった。

体力も、そこら辺の子供より大分とある。


だが、レガッタは人一倍元気なだけで3人に比べれば疲れるのは早いし、中々コツを掴めない。

となると、どうしてもレガッタが落としてしまう。


「悔しいですわー!」


「レガッタ、一旦休憩したら? 水分補給しなよ」


「そうしますわ。でも、次こそは落としませんわよ」


点数を競っているわけじゃないが、自分だけが落としてしまうという事実が納得できないのだろう。

負けん気が強いレガッタは休憩中も、アイビーたち3人の動きを必死の形相で観察している。


レガッタと交代したイエーナは、数回繰り返したところで「面白いけど、もう無理……」とヘロヘロになっていた。


「僕たちも、少し休憩しよっか」


「そうですね。今日は雪菓子を用意してくれているそうですよ」


ラシャンが言った雪菓子とは、魔術道具でジュースを雪のように変えたもので、ヴェルディグリ公爵家タウンハウスで食べたカディスも気に入っているものになる。


「それは嬉しいね。師団長にお願いしたけど、『アイビーのために作った物ですから』って作ってくれなかったんだよね」


カディスは苦笑いしながらも瞳を輝かせているので、また食べたいお菓子ランキングの上位に入っていたのだろう。

そんなカディスを見たレガッタが、不思議そうにアイビーに尋ねてきた。


「アイビー、雪菓子ってなんですの? 美味しいですの?」


「暑い日にぴったりな冷たいお菓子で美味しいですよ。お父様の力作です」


すぐに準備され、大きく口を開けてスプーンいっぱい食べたレガッタは、頬に手をあてて悶えた。

隣に座っているカディスの腕を叩いた後、1口食べて顔を伸ばしているイエーナと高速で頷き合っている。


カディスはレガッタに取られると思ったのか、レガッタから少し距離を取っていた。


アイビーは桃味の雪菓子の美味しさに目を細め、ラシャンは自分の分をアイビーに差し出そうとして「食べすぎるとお腹が冷えますから」とチャイブに止められていた。


何も気にせず、ただただみんなと笑いながら過ごせる長期休暇は、今まで生きてきた夏の中で1番楽しい日々になるはずだった。






金曜日はバイオレット目線の1話のみの更新になります。


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