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40 .悪女と聖女

チャイブは、説明するように落ち着いた声で話し出した。


「殿下。私とお嬢様はヴェルディグリ公爵家に戻る直前、バイオレット・メイフェイアに探された場所が、今回被害があったムスタヨケルの街になります」


「それって……」


「たぶんお嬢様を助けて恩を売りたかったのでしょう。メイフェイア公爵家に招かれ仲良くなれば、アムブロジア王家と関わる機会はいくらでも訪れます。エーリカ・フォンダントは、もしもの時の保険だったのではないでしょうか? お嬢様が見つからなかった場合、バイオレット・メイフェイアがセルリアン王国に来るためには、お嬢様の代わりが必要になりますから」


「だったら、アイビーと仲良くなろうとしている今もなお、その道は諦めていないってことだよね」


「いえ、今は殿下と婚約をしている状態ですから、お嬢様と仲良くしたいのはラシャン様を狙っているからだと思います。ただ他に目を向けてもらっている方が楽にセルリアン王国に来れますので、利用をしようとは思っているかもしれませんが」


カディスが、嫌気が差したように大袈裟に息を吐き出した。


「もうさ、バイオレット・メイフェイアが希代の悪女にしか思えない予想ばかりだよね。僕も嫌な想像しかできないけどさ。でも、レガッタやアイビーと同じまだ12歳だよ。本当にそこまでの悪女なのかな? ただの馬鹿な子とかの可能性はないのかな?」


ポルネオが、ゆるゆると首を横に振った。


「殿下、陛下のことを忘れたわけではありませんよね」


「忘れてないよ。あの件で、僕は会ったこともないバイオレット・メイフェイアが嫌いなんだから。でも、自分の2年前を考えると、そこまで考える力があったかなって思うんだよね」


「彼女は自分以外のことを全く思いやれないから、悪に突き進むことができるんですよ」


カディスはわずかに首を傾げるが、ラシャンは小さく頷いている。


「バイオレット・メイフェイアは自身の名声が上がることはしておりますが、目の前にいる者や不幸が分かっている者を救おうとはしていないんですよ。ソレイユ殿下はもちろんのこと、見つけたエーリカ・フォンダントにさえ手を貸していないんです。聖女として見つけられたのに、いまだに力を手に入れられていないエーリカ・フォンダントは肩身が狭い思いをしているそうです」


「バイオレット・メイフェイアが崇め讃えられるほど、比較されて後ろ指をさされているんだね」


「ええ、そうです。アイビーのためになればと、フォンダント公爵家と陰で親交を持つようになりましたが、やり取りをすればするほど胸が痛くなりますよ。同じパーティーに出席しても挨拶さえしないのに、バイオレット・メイフェイアはエーリカ・フォンダントが優秀だと褒めるんだそうです」


「なるほどね。惨めな気持ちになるだろうね。まだまだ貴族の世界の礼儀を勉強中だろうに、完璧な聖女に優秀だなんて言われるなんてね。そういう虐めなのかって思っちゃうね」


「社交界らしい、そういう意地悪でしょう。歯を食いしばって頑張っている姿を見る度、見つからなかった方がよかったんじゃないかと思うほどだそうです」


重たい空気を纏いながら、ポルネオがラシャンを見やった。

目が合ったラシャンは、ポルネオに優しく微笑んでいる。


「殿下、ラシャンの婚約が決まります」


「は? え? ちょっと待って。そんな話一切していなかったよね?」


ポルネオは、驚いているカディスに視線を送ることなく、ラシャンの頭を撫でた。


「相手はエーリカ・フォンダントになります。フォンダント公爵からの打診になり、エーリカを心無い国に居させときたくないからだそうです。汚名を着せられてしまった両親の分も幸せになってほしいんだそうです」


「そりゃ、ヴェルディグリ公爵家なら地位も財力もあるし、セルリアン王国内でも穏やかで安全な領地だけど……そこまでアムブロジア王国は落ちたってこと?」


「元々あんな国に良いところなんてありませんよ」


苦々しく言うポルネオの瞳には、死んでしまったティールが写っているように思える。


「ラシャンは、それでいいの?」


ラシャンは柔らかく微笑んでいて、顔を強張らせているカディスの方が嘆いているように見える。


「会ったこともない子と婚約って不思議な気分ですが、はじめから家のために結婚はしようと考えていましたので構いません。だって、アイビーより可愛くて優しくて元気で明るい人がいいという願いは叶わないでしょうから」


「狂っているようなこと言わないでよ。冗談でも笑えない」


「殿下は、いつも笑ってくださらないじゃないですか」


「今、そういう話をしてないよ」


「まぁ、本当に結婚するかどうかは分かりませんし、性格が悪くなければ婚約くらいいいですよ。婚約中にアイビーと仲良くできそうだと分かれば結婚していいですし」


「ラシャンの何が怖いって、全部本気で言ってるところだよね」


カディスがいつも通り白けた顔をすると、ラシャンは楽しそうに笑った。


「それに、バイオレット・メイフェイアが僕を狙っているなら、エーリカ・フォンダントと婚約することで回避できますからね。色んな意味でいい選択なんじゃないでしょうか」


「公爵家とラシャンがいいのならいいよ。父上も許すと思う」


「1番の難関は父様だと思います。お祖父様と決めたことですので、今頃王都で発狂しているかもしれません」


「師団長ならあり得そうだね。で、アイビーにはいつ言うの?」


「アイビーには長期休暇中に伝えます。両国の陛下の許可が下り次第、正式に婚約しますので」


「そう、分かった。発表されたら一気に騒がしくなりそうだね」


「殿下とアイビーの時ほどじゃないですよ」


ポルネオのラシャンを見る瞳には慈しみが溢れているが、その中にやりきれないというような辛さを堪える色が窺える。


たぶん「こういう話が出ている」というただの報告会で、ラシャンがアイビーを守れるのならと言い出したことなんだろう。


フォンダント公爵家と仲良くなれば、アムブロジア王国内での強力な味方を得たことになる。

それも、メイフェイア公爵家をよく思っていない貴族が協力者になるのだから、これほどの良案はない。


カディスは「師団長よりも、自己犠牲させていると思ったアイビーが怒りそうだけど」と思いながら、決意を固めてしまっているラシャンを見ていた。






ラシャンの婚約によって色んな波乱が巻き起こる!……かもです。


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