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39 .襲われた街

「殿下、移動で疲れていらっしゃるのに申し訳ございません」


「いいよ。大切な話ってなに?」


ポルネオとローヌも参加した、ほのぼのとした夕食会が終わると全員で娯楽室で遊び、そろそろ入浴をして明日に備えようと解散した。


その後すぐに、カディスはラシャンに呼ばれ、フィルンを伴って再び娯楽室を訪れていた。

部屋にはカディス・ポルネオ・ラシャンと、フィルン・ジョイ・チャイブがいる。


「今頃、陛下の耳にも入っていると思いますが、アムブロジア王国ムスタヨケルの街が魔物の群れに襲われました」


ゆったりと座っていたカディスの背筋が、驚きで伸びた。


「街の被害は、バイオレット・メイフェイアが待機させていた騎士たちによって、3分の1ほどで済んだそうです」


「もし騎士がいなかったら、どれだけの被害だったか分かる?」


「街は無くなっていただろうとのことです」


重い息を吐き出しながら、カディスはソファの背もたれに体を預ける。


「そう……本当に何者なんだろうね」


「バイオレット・メイフェイアが何者だろうと関係ありません。問題は、かの者が本格的に聖女と崇められはじめたことと、我が国も今まで以上に魔物に注意しなくてはいけなくなったことです」


「僕は今年初めての遠征でしたが、聞いていたよりも魔物の数は多く、そして強い印象を受けました。アイビーには言えませんでしたが、騎士の数名は重症を負いました」


ラシャンの言葉に、ポルネオが同意するように頷く。


「騎士たちは何て言っているの?」


「僕と同じ意見です。1週間後に新しく部隊を編成して、討伐に赴くそうです」


「数を減らせなかったんだね」


「かなりの数を倒しました。それでもまだ多いそうです」


「魔物のことは分かったよ。父上も討伐隊を組ませるんじゃないかな。巡回も多くさせて注意するしかないだろうからね。それで、前公爵が気にしていることはなに? バイオレット・メイフェイアが聖女になろうがどうでもいいと思うけど、何を心配しているの?」


「これ以上の名声が彼女に集まりますと、バイオレット・メイフェイアの声が神の声になってしまいます」


「聖女だからね」


「彼女の声に従わなければ災いが起こると、誰もが思うんです。どんなことであろうと、彼女の声が真実になります」


頭までソファに預けたカディスは1度目を閉じ、気合いを入れるように瞳を開けた。

体を起こし、真剣な面持ちでポルネオを見やる。


「なるほどね。バイオレット・メイフェイアの性格も目的も、まだ計り知れていない。もし、彼女が誰かを悪と言ったら、その者は死ぬ運命になるってことだね」


「1つの例としてはそうです。悪と言わずとも、災害を鎮めるために生贄が必要と言って、邪魔な人間を排除することもできるでしょう。それに、彼女が少しでも嫌悪感を示せば、瞬く間にその者は社会的地位を失います。彼女が欲しいというものは全て手に入り、国を牛耳ることも可能でしょう」


「聖女って清らかな印象なのに、色々考えると悪女にもなり得るんだね」


「どんな素晴らしい能力も、扱う者によって変わるということです。褒め称えられるべきは力ではなく人柄ということですな」


「なんだか耳が痛いね」


自分に置き換えて考えたカディスが、苦笑いをしながら肩をすくめた。

ポルネオは虚をつかれたように一瞬止まり、声を上げて笑っている。


「失礼しました。殿下が劣性なことを仰るとは思いませんでした」


「僕だって、きちんと物事を考えているよ」


カディスは不機嫌そうにポルネオを睨んだが、すぐに目元を戻した。

大袈裟な意思表示なだけであって、本当は怒ってはいないからだ。


「で、バイオレット・メイフェイアが聖女になるのは避けられないとして、心配しているのはラシャンとアイビーのことだよね?」


「そうです。もし聖女になったバイオレット・メイフェイアに縁談を申し込まれた場合、こちらが断るとヴェルディグリ公爵家の評判はガタ落ちしてしまいます。領民は庇ってくれると思いたいですが、手を回されるかもしれませんからね」


「聖女になったら縁談なんてないでしょ。さすがにアムブロジア王国がバイオレット・メイフェイアを離さないよ」


「手段なんてどうとでもなりますよ。聖女の自分がいるから魔物が襲ってくるとかの戯言を並べられれば、メイフェイア公爵家を人質にバイオレットだけを他国に出せますからね」


「そこまでするのかなぁとも思わなくないけど、彼女がセルリアン王国に拘っているのは一目瞭然だもんね。でも、それだともう1人の聖女、エーリカ・フォンダントも他国に出さないといけないよね。わざわざ見つけたのに? それこそ何のために探し出したのって話じゃない?」


「力を誇示するためだけの可能性もあります」


「んー……僕は、バイオレット・メイフェイアがアムブロジア王国を出たいがための身代わりがエーリカ・フォンダントと思ったんだけどなぁ」


斜め上を見ながら呟くカディスとは対照的に、ポルネオとラシャンが考え込むように斜め下に視線を下げた。

カディスたち3人が静まり返る中、口火を切ったのはチャイブだった。


「お話中割り込んで申し訳ございません」


部屋にいる全員の視線がチャイブに集まる。

チャイブはわずかに頭を下げようとしたが、カディスが手を上げてそれを制した。


「今は必要ないよ。それよりも何か分かったの?」


「分かったというよりも、可能性が濃くなったのかと思ったのです」


「何の?」


「アイビーお嬢様が、アムブロジア王家への貢ぎ物としての可能性です」


何かに気づいたように、ポルネオとラシャンが顔を見合わせた。

カディスは訝しげに眉根を寄せて、そんな2人を見た。






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