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38 .嬉しいし、幸せだし、心が軽い

陛下たちと別れてヴェルディグリ公爵領に向かう道中で、カディスにダフニに婚約者を代えられるかもしれないことだけを話しておいた。


カディスは憤慨していたが、「父上の決定を覆せるわけないよ」と鼻息荒く言うだけで、それ以上何も言わなかった。

ただずっと機嫌は悪かった。


「アイビー! 会いたかったよ!」


「お兄様、私もです!」


プテレヴィから降りた途端、強く抱きしめてくるラシャンの背中にアイビーも腕を回す。


「あれ? アイビー、小さくなった?」


「ふふ、お兄様が大きくなられたんですよ」


「そうかも。ずっと体のあちこちが痛いんだ。ジョイに成長痛だって言われたんだった」


頭を柔らかく撫でてくれるラシャンに微笑んでいると、カディスが横にやってきた。


「ラシャン、僕たちもい――


「殿下、もう少し待ってください。今、僕の可愛いアイビーにやっと会えたんです。邪魔しないでください」


カディスの顔を見なくても、短く吐き出された息と雰囲気で白けた顔をしていると分かった。


「おぼっちゃま。外のままですと、お嬢様が休むことができませんよ。皆様を中にご案内されてから、ご歓談の時間をとられてはいかがですか?」


「うん、ジョイ。そうだよね。お祖父様とお祖母様もアイビーに会えるのを楽しみにされていたもんね」


「お祖父様とお祖母様にも早く会いたいです」


「お2人も心待ちにされていたよ。ただちょっとお祖父様は忙しくて、会えるのは夕食の時になるかも」


「そうなんですか? では、夕食時を楽しみにしています」


ラシャンの手は、最後に頬を撫でてから離れていった。

1ヶ月ほど会えなかっただけなのに、ラシャンの手が大きくて硬くなったような気がする。


和らいでいたラシャンの瞳が、ふと気づいたようにアイビーの背中向こうを捉えた。

そして、横にいるカディスに移動している。


「殿下、どうしてクズ……イエーナまでいるんですか?」


「なんかね、レガッタがラシャンを好きだと勘違いしてたから、婚約破棄になるよう遊んでたんだって。で、誤解が解けて仲直りしたんだよ」


「へー、そんなことで周りを巻き込んでいたなんて、本当にクズですね」


「ラシャン! ひどいですよ!」


——お兄様ってイエーナ様が嫌いなのかな? でも、本当に嫌いなら楽しそうに笑わないよね。カディス様も、今まで不機嫌だったのが嘘みたいに笑ってるわ。ってことは、イエーナ様は弄り甲斐があるってことかな?


「カディス殿下、レガッタ殿下。ヴェルディグリ領へ、ようこそお越しくださいました。中をご案内しますね」


「ねぇ、ラシャン。私もいますからね。無視しないでくださいよ」


クスクス笑っているラシャンと手を繋ぎ、屋敷の中に入っていく。

出迎えてくれた使用人たちによって、それぞれの部屋に案内されるため、カディスたちとは一旦玄関ホールで別れる。


アイビーの部屋には、ラシャンと本邸でアイビー専属の侍女であるマラガが一緒に移動する。

双子のルアンとマラガは、何やら視線だけで会話をしているようで、2人とも頷いたり小さく拳を振り合ったりしていた。


「お兄様、怪我などはされていませんか?」


「アイビーのお守りのおかげでしていないよ。ありがとうね」


——わー、お兄様がいるだけで何だかほわほわするわ。嬉しいし、幸せだし、心が軽い気がする。お兄様って、本当に神様の使徒なんじゃないかな。


「お兄様、大好きです」


——やっぱりお兄様は綺麗すぎるわ。へらーって顔が溶けているのに気持ち悪くないもの。


「僕もアイビーが大好きだよ」


微笑んだラシャンに頬にキスされたので、アイビーももちろん仕返す。

後ろでルアンがいつも通り悶えていたが、マラガに頭を殴られてからは大人しくしていた。


アイビーの部屋に到着し、ルアンは荷解きを、マラガがお茶を淹れてくれる。

チャイブは荷物をルアンに任せると、すぐに部屋を出て行ってしまった。


「お兄様、何かありましたか?」


「何かって何が?」


「チャイブが少し足早で出て行った気がしたので、何かあったのかと思ったんです」


「本当? 気づかなかった」


——マラガとルアンみたいに、ジョイに「話がある」って視線を投げられていたのかな? お兄様を見る限り焦った様子もないし、気にする必要はないのかも。


「アイビー、グルーミットは楽しかった?」


「はい。色んな遊びをして楽しかったです。それと、実はお母様の隠れ家がどこかにあるそうなんです」


「そうなの?」


「陛下もお父様も、あるということだけご存知だそうでして。一生懸命探したんですけど見つからなかったんです。だから、今度はお兄様も一緒に行きましょうね。一緒に見つけ出しましょう」


「そうだね、アイビーと一緒に見つけたい。お母様の隠れ家かぁ。きっと素敵なんだろうね」


ラシャンから思い出話を聞いたことはないが、ラシャンには母親の記憶があるのだろう。

母であるティールを思い浮かべただろうラシャンの微笑みは、期待に胸を躍らせながらも恋しがっているように感じた。


「お兄様は遠征は大変でしたか?」


「大変だったけど充実していたよ。騎士たちの強さを知れて足りないものに気づけたし、みんなの背中が大きくて頼もしいことを実感できたからね。もっと頑張ろうって思えたよ」


膝の上で握りしめた自身の手を見つめているラシャンの顔に、大人っぽさが見え隠れしている。

アイビーは、ラシャンを自慢したい気持ちになり、「お兄様、カッコいいです」と溢してラシャンに抱きしめられたのだった。






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