表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
104/198

36 .グルーミットでの日々

カディスと森に通うようになって2日経った。

乗馬は楽しいし、周りに目が少ない分気楽にカディスと話せる。


今日も散策に出かけようとしたが、レガッタから遊んでほしいと言われ、4人で小型船に乗ることになった。

定員10名の小型船になるので、アイビーたち4人とチャイブたち従者4人を除けば、乗れるのは操縦士の人と補佐する人になる。

湖の畔には、5人ほどの騎士が警備してくれている。


小型船の上で昼食をとり、お待ちかねの釣り大会が開かれることになった。

当初は川釣りをする予定だったが、他に護衛や侍女がいない今ならバレる心配は少ない、という理由からの開催になる。


「これを泳いでいるように動かすんですのね」


「はい。餌と勘違いして食いついてもらうんです」


湖や川で初心者が楽しむのなら、擬似餌を用いる釣りが好ましい。

餌である生きた虫を触らなくていい分、抵抗は少なくなる。


アイビーが見本を見せると、レガッタは胸を弾ませながら「えい」と竿を振って擬似餌を湖に放り投げた。

アイビーたちがいる側面の反対側では、カディスとイエーナが釣りを楽しんでいる。


「アイビー、これの何が楽しいんですの?」


「釣れた時の達成感でしょうか……」


「では、釣れなければ楽しくないのですね」


「待っている間のゆったりした時間も楽しいらしいですよ」


「分かりましたわ! お喋りできますものね!」


閃いたように手を叩くレガッタを見て、活発なレガッタが大人しく水面を見ていることはできないのだと気づいた。

カディスは分かっていたから、イエーナと反対側を陣取ったんだろう。


静かにしていないと魚が寄ってこないことは分かっているが、レガッタが楽しい方がアイビーも嬉しいので、昨日一昨日と何をして過ごしていたかというレガッタの話に耳を傾けた。


結果、カディスが3匹、イエーナが2匹、アイビーが奇跡的に1匹釣れた。

レガッタは釣れなかったのだが今日の釣りは大満足だったらしく、帰りの馬車の中で「またしたいですわ。次こそは私も釣りますのよ」と意気込んでいた。

ちなみに釣った魚は結果発表をした後、湖に還している。


またとある日は、レガッタの発案で、4人でオセロ大会を催すことになった。

レガッタの本音としては追いかけっこや投てきで競って遊びたいのだが、王妃様が近くにいる分、監視の目が強くなるそうで、部屋で遊べるのは何かと考えたそうだ。


それに、外で遊びすぎると肌が焼けてしまうから怒られるらしい。

そういえば、バーミがレガッタに日陰ができるように傘をさしていたなと思い返した。

いつでもどこでも傘をさしていた理由にも、王妃様が関わっているとは思っていなかったので、アイビーは驚いたのだった。


オセロ大会の優勝者はカディスで、初めてオセロをしたアイビーは2位という検討ぶりを見せた。


その日の晩に、クロームが今度家族でもしようと豪華なオセロを購入予定だと、チャイブが教えてくれた。

ちなみに、クロームに勝ったらチャイブのお給料を上げるようにお願いしてほしいと言われている。


また違う日には、レガッタの提案で、近くのお祭りに出かけた。

夏の暑さを乗り切ろうというお祭りで、上空にガーランドでたくさんの風鈴を飾る道が観光地として有名らしく、レガッタたちは毎年遊びに来るそうだ。

色とりどりの風鈴が空の青を滲ませるように緩く揺れていて、とても綺麗だった。


本来風鈴は魔除けのための飾りらしく、アイビーはラシャンへのお土産に緑色の風鈴を購入した。


カディスがプレゼントしてくれた炭酸飲料が作られているのがこの街だそうで、紅茶味やコーヒー味や麦茶味などの変わり種を飲んで楽しんだ。


グルーミットでの滞在が少なくなってきた日、レガッタのお願いで色とりどりの小魚を見に行くことにした。

スーツケースほどの大きさの透明な入れ物に細かな砂利が敷き詰められ、草や大きな石も飾られている。

その中を、綺麗な色の小魚が気持ちよさそうに泳いでいた。

魚の種類によって入れ物の大きさは異なり、絵画のようにたくさん飾られている建物は、まるで海の中を歩いているようで心が躍った。


きっと祖父母が喜ぶと思って、お土産にできないのか確認してみたが、魚が移動に耐えられないらしく無理とのこと。

肩を落としていたことがクロームに伝わり、「私が運んでみせるよ」と言い切ったそうだ。

近いうちにヴェルディグリ公爵家本邸でもタウンハウスでも綺麗な小魚を見られる日が来るだろうと、チャイブが呆れながら教えてくれた。


そして、明日の午前中グルーミットを旅立つことになっている。

とうとうティールが過ごしたという家を見つけることはできなかった。

結構な頻度で森を訪れたと思うが、人が住んでいたような痕跡を発見することにさえ至っていない。


カディスが何度かチャイブを様子見するために「こっちなの?」と尋ねていたが、チャイブは顔色一つ変えず眉一つ動かさずで、逆にカディスが眉間に皺を寄せていた。


カディスからは、「来年も来よう。このままじゃ終われない」と提案してもらっている。

アイビーにとっては有り難いお誘いなので、「よろしくお願いします」と来年に思いを馳せながら頭を下げたのだった。






来週からはラシャンが登場します(戻ってきます)。


いいねやブックマーク登録、読んでくださっている皆様、本当にありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ