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32 .イエーナの本心

「レガッタがラシャンを好き? 別にラシャンもイエーナも同じくらいの好感度だったと思うけど?」


「そうですわね。イエーナがバカをしなければ、ラシャン様を紳士だとは思いませんでしたわ」


「ラシャンのどこが紳士なの? 優しいのはアイビーにだけなのに」


「まぁ! お兄様も同類ですわよ。ラシャン様と同じようにアイビーを優先しますでしょう」


「僕は、あそこまでじゃないよ」


「確かにお兄様の方が、カディス様より優しいですし綺麗ですし紳士です。でも、今はイエーナさんのことですよ」


本当のことを言っただけなのに、不愉快だと言わんばかりにカディスに睨まれるのは心外だ。

追加で言い募ってもいいが、今は本当にイエーナのことを先に片付けたい。


「ふふ。お兄様もまだまだですわね」


レガッタが可笑しそうに笑うと、カディスは諦めたように息を吐き出した。


「で、ナンキン。イエーナがどうして態度を変えたのかは分かったけど、仲のいい女の子たちがいたよね? あの子たちは何だったの?」


「そうですわ。だから、私は同じ公爵家ならラシャン様がよかったと言いましたのよ」


「その女の子たちは、おぼっちゃまを狙われていたご令嬢たちでして、動物が好きだと仰って寄って来られたんです。おぼっちゃまは重度の動物バカでして、好きな動物の話をできることがただ楽しかっただけなんです。ご令嬢は全員、運動神経が素晴らしいカディス殿下やラシャン公子様を狙っていると思われていて、自分が狙われているなんて気づかれていなかったんです」


「なるほどね。確かに、イエーナの動物の話に付き合ってくれる令息令嬢は少ないもんね。友達ができたくらいにしか思っていなかったんだね」


「そうなんです。そこにレガッタ殿下の『ラシャン公子様がいい』という話を耳に挟み、それならばと目クジラを立てられるようなことを率先してされたんです。婚約破棄になってレガッタ殿下が幸せになれるのなら、おぼっちゃまはレガッタ殿下と約束した動物の医者になれるだけで十分だからと」


「まぁ! 本当にイエーナってば、私にベタ惚れですのね」


カディスがイエーナを見るから、つられるように顔を動かした。

イエーナは、見えている肌全てを赤くし、涙目で少し震えている。


「ですが、カディス殿下がアイビー公女様とご婚約をされて、ほぼレガッタ殿下とラシャン公子様の婚約は断たれましたので、自分がアイビー公女様を誘惑できればと動かれたんです。カディス殿下に阻まれ、ラシャン公子様の護りに近づけませんでしたが……」


——私の可愛さにメロメロで真っ赤になったわけじゃなくて、全てレガッタ様への愛ゆえにってことなのね。私の可愛さが効かないっていうのに納得できない部分はあるけど、でも気持ちは分かるわ。レガッタ様、可愛いものね。私が認める可愛さを持っているものね。イエーナさん、見る目あるわ。


「宰相になるのが嫌で、自暴自棄になっているんだと思っていたよ」


「宰相はあくまで候補でしたので、動物の医者の資格を取って辞退する予定でした」


「何も考えていないと思っていたのに、逆に1人で考え込んでいたんだね。相談してくれてよかったんだよ、イエーナ」


寂しそうに微笑みながらイエーナの口から手を離したカディスに、イエーナは心苦しそうに視線を下げた。


「申し訳ありませんでした。殿下にご迷惑をおかけするのは違うと思ったんです」


「うん、やっと僕の知っているイエーナだね」


カディスが柔らかく目元を緩めると、とうとうイエーナの瞳から涙が落ちた。


今までイエーナを捕まえていたチャイブが、ゆっくりと丁寧に拘束を外す。


「数々の暴言、誠に申し訳ありませんでした」


「そうだね。イエーナは僕に対して随分と失礼だったからね。今から言うことを守ってくれたら許してあげるよ」


——感動的な場面だったのに、カディス様ってばどうしてこうも性格が歪んでいるのかしら? みんな仲良く幸せが、仲直りには重要なのにな。


「私にできることなら頑張らせていただきます」


「簡単なことだから大丈夫だよ。他の女の子と仲良くせず、レガッタに優しくすること。後、会った時は必ず気持ちを伝えること」


「え……いや、でも……」


——ビックリしちゃった。それもそうだよね。なんだかんだ言いながら、カディス様はレガッタ様を大切にしているもんね。それに、歪んでいるのは美的感覚だったわ。


「お兄様。私、会った時ではなくて、会っていない時も愛を伝えてくださる人がいいですわ。手紙でもプレゼントでも伝える方法はありますもの」


「え? そこまでさせるの? この恥ずかしがり屋に?」


「あ、あの……えっと……ええ?」


「イエーナは、私のことが好きなんですのよ。伝えられることを喜ぶはずですわ」


「いや、でも、あの……レガッタは、こんな私でいいんですか? 動物のことしか知らないんですよ」


飛び出そうとしている心臓を何とか押し留めているんだろうと分かるイエーナの強張った面持ちを、レガッタは太陽のように元気な笑顔で照らした。


「女の子にだらしがないイエーナは嫌いですわ。でも、私だけを愛してくれるというイエーナなら歓迎しますわ」


「は、はい! ラシャンよりも幸せにできるように頑張ります!」


幸せそうに微笑むレガッタに、イエーナの頬が赤く染まる。


「急にハッキリと言うようになったね」


「全部バラされましたからね。今更取り繕う方がバカみたいですから」


「うん、僕も今のイエーナなら大歓迎だよ」


部屋に来た時のような重くて固い雰囲気が嘘だったかのように、温かな空気に包まれたのだった。


ちなみに、色々バラしたナンキンには、イエーナが罰を下したらしい。

それは、ナンキンが想いを寄せている侍女にイエーナがナンキンの気持ちをバラすというもので、王都に戻った途端にみんなの前で執行したそうだ。

ナンキンはその場でフラれたらしく、イエーナは1週間バラしたことを謝り続けたそうだ。






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