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1.探される僕と師匠

「クラナッハ、お前何をしたんだ?」


心配そうな面持ちでクラナッハを見ている精肉店の店主を見上げる。

男性は口髭を生やし、少し小太りだ。

髪の毛も髭も瞳も茶色である。


この精肉店は質が良く安いので、週に2度ほど買いに来ている。

先月から居住を移している街だが、すでに顔馴染みだ。


「何の話だ?」


何の話かさっぱり検討がついていなさそうなクラナッハは、不思議そうに首を傾げながら購入した肉を受け取った。


クラナッハは彫りが深い顔立ちをしていて、耳下ほどの灰色の髪をセンター分けにしている。

焦げ茶の瞳は、万人に柔らかい印象を与えていることだろう。

着古した服の上にローブを纏い、どこか気品が漂っている壮年の男性だ。


店主が、クラナッハの横に立っている僕を一瞬見やった。


僕は、クラナッハ同様に着古した服の上にローブを身に纏っている。

腰まである灰色の髪は1つに纏め背中に流していて、焦げ茶の大きな瞳で可愛らしい顔をしている。

初対面ではよく「可愛い」と騒がれ、男の子なのか? 女の子なのか? と質問される。


僕を取り合おうと色んな人が喧嘩をするから、それほどまで可愛いんだろうということで、僕は僕自身を可愛いと理解している。

僕はとてつもなく可愛い。


そして、クラナッハの子供か? 年の離れた兄弟か? なども大多数の人に問われる内容だ。


クラナッハは、店主の視線に気づいても、やはり質問の意味が分からないように見える。

店主が、左右を確かめてから、少し身を乗り出してきた。


「今日肉を仕入れる時に、王都から来た商人に尋ねられたんだ。クラナッハという冒険者を知らないかと」


「王都の商人に知り合いはいないが……」


「俺もその歳で冒険者Eランク止まりのままのクラナッハに、商人の知り合いがいるとは思ってないぞ。護衛ができるランクじゃないからな。だから、お前が犯罪者だったらどうしようと思って、指名手配なのかと聞いてみたんだよ。そしたらな、メイフェイア公爵家が探しているって言うんだよ」


「は? 二大公爵家の片方が、俺を探しているのか?」


「クラナッハをというより、お前とカフィーを探しているそうだ。クラナッハ、誘拐じゃないよな?」


「やめてくれ。ちゃんと俺の子だ」


僕も大きく頷いて、肯定の意を示しておいた。


「1度も会ったことないんだがなぁ」


「でもあの雰囲気じゃ、この街にいると目星をつけていそうだったぞ。お貴族様と関わりたくなければ、さっさと移動する方がいいだろう」


「ああ、そうする。教えてくれてありがとうな」


「いつも買ってもらっている礼だ。それに、貴族と冒険者どっちの味方をするかとなったら、平民のほとんどは冒険者だろうよ」


人のいい笑顔で見送ってくれる店主に、クラナッハは片手を上げて応えている。

僕も小さくお辞儀をして、クラナッハと手を繋いで精肉店を後にした。


「カフィー、宿には何も置いてないな?」


「うん。師匠の教え通り、いつ何時帰れなくても大丈夫なようにしているよ」


「偉いぞ。このままこの街を去るからな」


「分かった」


先月から居住を移しているムスタヨケルという街は、穏やかで争いを好まない風潮の街ということで、1年は逗留しようと決めた場所だった。

それなのに、2ヶ月も経たないうちに移ることになるとは、師匠ことクラハットも思っていなかっただろう。

カフィーは「宿代、今月分先払いしてるのになぁ。もったいない」とお金のことを考えていた。


辻馬車で移動しようと発車場に向かう途中、必要な食料品を買い込んだ。

これからどこの街に移動するか、まだ決まっていない。

何日間の移動になるか、まだ分からない。


精肉店の店主とした内容と同じ会話を他の店とも2回ほど繰り返して、発車場に到着した。


「おい、そこの者」


辻馬車の御者に隣街までの料金を支払っている時に、身なりのいい男性に声をかけられた。


「何でございましょうか?」


「貴様の名は何と申す?」


「私めはセラドンと申します」


「その子供は?」


「グレイです」


「そうか」


カフィーは、値踏みするように見てくる男性の視線に嫌悪感が湧き上がり、クラナッハの後ろに隠れるように引っ付いた。


カフィーを上から下まで見る人間には気をつけろと、クラナッハに言い聞かせられている。

誘拐や人身売買をする人たちは可愛いカフィーを狙うからと、口を酸っぱくして何回も言われた。


「ふむ。貴様らのような色合いの旅人を見かけなかったか? 師弟で旅をしているそうなんだが」


「いいえ、見かけ……あ! そういえば、昨晩泊まった宿でグレイに似た見目の子は見かけましたね」


「本当か!? それは、どこにある?」


「教会近くの宿で、三毛猫宿という名前です」


「そうか。先ほど聞いたご婦人と同じ回答だな。だとすれば、今回もバイオレット様のお告げ通りか」


数回頷いた男性は、礼を言い、笑顔で立ち去っていく。


「……バイオレット・メイフェイアか」


クラナッハの呟きは、カフィーにだけ届いていた。






あらすじの大部分を回収するため、6話一気に投稿いたします。

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