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渋谷西警察署へ戻った小泉と阿部を福田と麻生が迎えた。
福田と麻生が調査報告を始めた。
「中沢の住むマンションは最近増えてきている保証人不要のマンションで、保証会社が代行して保証業務を行っている。緊急時の連絡先は、新潟県に住んでいる母親なのだが、連絡は付かなかった。急を要することだと管理人へ告げると、特例で部屋の鍵を開けてくれた。室内を確認したが本人の姿はなく、室内を物色した形跡も見られなかった」
「高岡と、木戸が借りているウイークリーマンションは、本人名義で借りられており、保証人はインターナショナル・ジャパンビューティー社。こちらも管理人に訳を話すと、鍵を開けてくれ、室内を確認することが出来た。しかし、室内に変わったところはなし」
二人の報告を受けた小泉が口を開いた。
「今日のところは、親族とコンタクトは取れなかったということか?」
「ええ、そうです。なので、行方不明者としての捜索願いは出せません」
会議室の四人を重い空気が包んだ。
代官山に事務所を構えるインターナショナル・ジャパンビューティー社の会議室も重たい空気が包んでいる。
「どうしますか?三人が行方不明であると、スポンサー企業へ発表しますか?」
ミッキーの言葉にリンネは黙り込んだまま腕組みをしている。二日後のマスコミ向け発表会までに策を練らなければならない。発表会に十二人いなければならないところ、九人しか顔をそろえられなければ、スポンサー企業も怪しむはずだ。
「もう少し、考えてみるわ」
リンネの返事にミッキーが訊ねた。
「なぜ?」
「エリクソンモービル石油の会長。彼が木戸桃香を気に入っていることは知っているわね。スポンサー契約をするにあたって、木戸桃香をセミファイナリストとして最終選考会へ出場させることになっているの。もし、木戸が行方不明で最終選考会へ出場しないとなったら、エリクソンモービル石油はスポンサーを降りるわ。そうなったら、どうなる?入ってくるはずのお金五千万円が入ってこなくなる。それは、どうにかして避けなければならない」
リンネの言うとおりでエリクソンモービル石油は今回のメインスポンサーだ。エリクソンモービル石油の協賛金五千万円は全体予算の約半分。このお金が動かなければ、インターナショナル・ジャパンビューティー社は赤字になり、リンネ・グロリアはこのミスユニバーサルジャパンを取り仕切る意味がなくなってしまう。
リンネが気にしているのは五千万円というお金のことだ。三人の安否は二の次、三の次だ。遠くフランスから金儲けをするために極東の国へやってきたのだから、当然の判断と言える。
「そうですね、最終選考会のセレクト的には問題はありませんものね」
ミッキーの言葉にリンネもうなずく。
「ええ、あの三人のパッションもスキルも日本代表になるべきではないわ。最終選考のファーストステップで落選するのは目に見えているわ。ミスユニバーサル日本代表は、串本しほりか、吉永香里奈ね。この二人ならば、世界で戦えるわ。だから、三人がいなくても、なんとかなるようにもう少し考える」
「三人がどこに行ったのか、もう少し考える」
渋谷西警察署の会議室に課長の声が響いた。本来なら、威力業務妨害や家出人捜索でここまでの捜査態勢は組むことはない。家出人が小学生以下の子供であるのならば別だが、今回は二十歳代前半の大人だ。しかも、親族から届けは出されてはいない。
「もしかして、田舎に帰っているとか」
阿部がつぶやく。
「それならば、部屋の荷物をまとめて引っ越すか。あるいは、インターナショナル・ジャパンビューティー社へ連絡くらいするだろう。楽しみにしていた最終選考会まで、あと少しなのだから」
福田が反論する。福田の反論のあと、会議室に沈黙が続く。
「威力業務妨害」
麻生がつぶやく。
「セミファイナリスト三人がいなくなることで、損失を被る企業はあるのでしょうか?」
課長以下、会議室の五人が腕組みをしながら考えている。小泉が腕組をしながら目を閉じて答える。
「あるといえば、あるし、ないといえばない」
小泉の答えは的を射ていた。三人のうちの誰かがミスユニバーサルジャパンの代表になったわけではないので、この時点では企業もCMに起用しているわけではない。
「じゃ、犯人の目的はいたずら?それとも、リンネへの嫌がらせ?」
福田のつぶやき。
「何年か前に、選考会前日に切られた女をあたってみるか」
小泉の言葉に課長が首を横に振った。理由は明白である。その女が誰であって、現在どこにいるのかを調べるのに時間が掛かる。誘拐、殺人などの大事件ではないので、多くの人と時間を掛けたくはないのだ。
それは余計な捜査費用を掛けたくはないということだ。
「まずは、六本木ヒルズの防犯カメラからだな。イベント後に拉致されている可能性もある」
小泉の提案に阿部がうなずいた。
「明日、早速連絡してみましょう」
つづく