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冬の中のロマンス

作者: ヒロト
掲載日:2023/04/06

寒い夜道の中を、1人歩いていた。

今日に限ってとんでもない仕事の量で、終わったのは深夜であった。そのため交通網は全て止まっていて、家までは歩いて帰るしかないという状況であった。冬といってもまだ冬に入ったばっか、昼間はまだ日が暖かく、コートを着るには少しばかり暑そうだ。しかし夜の帰りになって思う「なんだよ、コート着てくればよかった」そんな思いにムチを打つように、冷たくてつよーい風が吹き寄せる。

「あー後何分歩くんだろう?」途方もない不安が押し寄せてきた。


果たして何分歩いただろうか?寒さとか色んな感情の中で時間軸なんてものはとっくに崩れていた。そんな時ふと小さなドアの向こうからほんの数10センチくらいの光が漏れてくるのが見える。その光をうまくサポートするように、綺麗でなめらかーなクラシックのねいろが聴こえてくる。「おーワルツだ!」音楽知ってるアピールをしたわけじゃない。僕はあんまり音楽は詳しくないけど、ワルツくらいは知ってる。三拍子の踊りたくなるような音形だ!と、この前音楽好きにこの説明をしてみせると、「他にも三拍子で踊りたくなる曲はたくさんある!」らしい。

確かにポロネーズとかあるよなぁ!

が、そんなの関係ない僕はそんな詳しくないから、今回聴こえてきた音楽はワルツでいい

いや逆にワルツであって欲しい。

だいぶ話はそれたけど、小さいドアから漏れ出す小さな光の中から聴こえる素敵なワルツ

外は寒くて今すぐにでも休まるところが欲しい。この条件が揃ったら誰だって中を覗くくらいはするだろう。しかし僕はとても謹厳きんげんな性格なために恐る恐る、おそるおそーる中を覗いて見せた。そうすると入り口からは想像もできないほどに中は広く、大胆な大賑わいを見せていた。「うわぁすげー」こんなところが本当にあることに驚いていると多分10秒くらいは経っていた。それに気づかず、中にいる綺麗な黒髪をしたこの場にふさわしくないほどの控えめな紅色のドレスをきた女性と目が合った。正直言ってとんでもなくタイプだった。これが第一印象。そんなことを考えている一瞬の間に

「少年も中で踊らない?」


ん?少年?この女性があまりにも僕を見つめてそう言うから、それが僕に言われていることなのだと理解する。

確かに僕は童顔で背丈も小さい体重もあまりない方だから、少年というのが第一印象なんだろう。でも僕は今年で23だ。彼女が僕のタイプだったってのもあり、なんかちょっとイラッとした。

「ここは少年でもドリンクを出すようなところなのかい?」

と、皮肉を言ってみせた。


「もちろんそんなつもりはないわ」

「でも、少しでもいいからここにいる素晴らしいミュージシャンの音楽に触れて欲しかったの!」

23年生きてきた中での僕の経験的にこの彼女の言葉は本物だ!

なんか勝手にからかわれたと思ってイラッとしてたのは僕じゃないか。

まるで心まで少年だな!


「わかりました!少し中で飲んでいきます。、、ちなみに僕は今年で23になります。」


「え!それは失礼いたしました。

ではいつもの席案内しますね」


そう言われ彼女に踊りの舞台から1番近い丸いテーブルの席に案内された。

しかし僕はこのような目立つところに座るような人じゃないから彼女の案内を断ってまで、後ろの方のバーカウンターの1番地味な席に1人だけ座った。

彼女は所定位置に戻るかのように舞台袖のカーテンの横にポツンと立った。

それを見計らって、僕なんかとは話にならないほどのイッケイケのハンサムボーイ何人かが

「踊ろうぜー」とか「踊らない?」とかナンパしに行くのがわかる。

しかし彼女はナンパ待ちではないらしい。

なかなかの手慣れな感じで華麗に断るのがわかる。彼女の立ち位置はなんなのだろうか?。


「マスター!ジントニックのお湯割で、」

彼女が僕のこと見てる(思い込み)と勝手に思って、ジンなんてはっきり言って絶対飲めないのに調子に乗ってみた。


「少年!、ごめんねジントニックは元々割ってあるカクテルだからお湯で割ったりってのはあんまりないね、どうしてもやれっていうなら作るけどさ、、

なんかこの前にも似たようなこと言った気、するけどなー。」

、、、

いきなり恥かいた。


「ジントニックで、」


「はいよ!」


何分かたって思う。やっぱり場違いだったのかな?でも確かに音楽は最高だった。入場料とかないわけであって、後ろでバック音源としてやってるミュージシャンたちは、ボランティアなのだろうと考えると、あまりにもそのクオリティに合っていない。

プロのコンサートで何百ドルも取れるような演奏だというのは、素人目でもよくわかった。

「マスター!次はいつやるんですか?」


マスターは長い沈黙の後答えた。

「実はもう今日で最後なんだ」


「え!?人手が足りないとかですか?」


「そうじゃないんだ、、、」


「それはどうでもいいから、あいつと踊ってきてやってくれないか?」

あいつ?  マスターが目を向ける先は、さっきから何度も踊りに断ってる彼女だ。

「いやあんなに踊らないって言ってるじゃないですか」


「そうじゃない。そうじゃないんだよ」


「あいつはあいつなりに踊りたいはずさ、この最後の、、、」


「最後の?最後の舞踏会だからですか?」


沈黙ではない。マスターは多分一生この疑問には答えてくれないだろう。

そう察した僕は、僕らしくこの最後の会を楽しむことにした。

1人で酒を飲んで踊りを見ながら素晴らしい音楽を聴く。人生で体感したこともないくらい僕には心地いい空間だった。

そう人生最高とも呼べるほどに、、、

でも何か、何かが引っ掛かる。何か

何かが足りない。そう思った

その何かがすごく小さいようで、絶大だった。

曲が終わった。

とても有名で誰しもが踊りたい楽しい曲だった。それが終わったと同時に踊ってた人が一休みする。そして次の曲が始まるが、会場には誰もいなかった。


ん?


彼女は?所定の位置にいなかった。

ふと横を見ると、マスターと話をする彼女がいた。

舞台には誰もいない。

流れている曲もマイナーすぎてわからない。

彼女が近くにいる。

ー ー ー


「僕と踊ろう!」

手を掴んだ!

マスターが一目散に所定の位置に帰って行った。

【出会いは舞踏会で】

おかしすぎる。僕はこんなキャラではない。

だいち踊りなんて人生でこのかた踊ったことない。

側から見たらどう見てもナンパであろうが、

周りのあいつらみたいなチャラ男とは違う。

僕には正真正銘彼女と踊りたい。この真心があった。この真心こそがさっき感じていた「何か足りない」の正体だったと気づく。

彼女は

「踊れないくせに?」

とさっきまでの僕に対する態度とは打って変わって、かなりからかってきた。

それにこたえるように

「僕は少年じゃない」

内心バクバクと心臓の鼓動を鳴らしながら掴んだ手を離さず、ほぼ強引に会場へと導く。


「あなたが少年じゃないならこの曲と馴染めるわよね」


「もちろん初見は得意!」


彼女は素晴らしく華麗なステップ!

僕はというと説明もしたくない


「ここは抱き合うシーンだよ」

彼女が言う。

「もちろん知ってるよ!」

誇らしく僕は知ったかした。


抱き合った!


笑…

「嘘だけどね」



そして小声で彼女が耳元で言う。

「私この曲が1番好きなの」

僕も小声で返す。

「さっき嘘ついた女の子がそんなこと言うの?」多分彼女のこれは本当だった!


これはまさしく、クラシックバレエであった。彼女は一眼で経験者だとわかるくらいに上手だった。


いつのまにか僕はこの世界観に馴染んでいた。マイナーな曲なんて言って申し訳ないほどに素晴らしく綺麗で切ないワルツ!

さっきまでバクバクだった心臓の鼓動は治らないもののその音までもが三拍子に聴こえてくるほどに、この瞬間に快感を覚えていた。

踊りも今まで踊っていたかのようにうまく踊れてきた。 


「あー、ずっとこの時間が続けばいい」

心の中で言ったつもりだった。でも気づいたら

「私もそう思う」

彼女が答えていた。


途方もなく長い人生の中のほんの数分、一瞬なんて言葉ですら長い表現だと思うくらいの一瞬!

もう曲は終わってしまった。

そう!この曲がラストソングであった。ポツンと2人だけ立ってた舞台。

【僕の瞳は】 【あなたの瞳は】

僕の瞳は初めて恋をした初々しい感情で満ちていた。


一方あなたの瞳はもう最後のような悲しい瞳を見せていた。

彼女は僕の手を静かに払いどこかへ行こうとする。

「どこ行くの?」


「お手洗いに行ってくる」


「嘘だ」

手を掴んだ!

彼女の本当の言葉と嘘を何回も見てきた僕は、咄嗟に思った。彼女は嘘をついている。


「どこへ行くの??」


「お手洗い…」


「戻ってくるの?」


「もちろん」

掴んだ手を離した!


「待ってる」



彼女は人影の中に消えていった。

何分たったんだろうか?おそらく人生で1番長い時間だった。今まで聴いてきたワルツが全て聴き終わってしまうくらいの途方もない時間!多分ものの数十分ではあったが、僕の体感では寿命が尽きるほどだった。

気づいたらマスターと2人だった。


彼女は僕を弄んだんだ。

そう考えてしまった。


「君はもてあそばれた 」


は?心の中で思った。


「と、思っていないか?」


は?また思った。


「そんなことよりだいぶ複雑なことがあいつにはあるんだ」


は?とは思わなかった。ただ単にその謎が知りたいの一方的な思いがあった。


「あいつには結婚を約束していた人がいたんだ」

僕が「はー、」とでも言わんばかりの反応を見せた。

「やっぱり!そういうことかー!」

マスターがため息をついた。

話はすごく気になったが、ここで割って入った。

「マスターと彼女の関係はなんなのでしょうか?」

マスターは普通に答えてくれた。

「わたしとあいつが出会ったのはちょうど言葉が話せるくらいになった時、あいつの母親がわたしの店によく来ていた。そこにある日を境に子供も連れてくるようになったんだ。」

「そして母親はお酒の飲み過ぎにより他界することになった。」

「わたしが殺したようなものだ」

マスターの言葉に耐えられず言った。

「それは違います」

「ありがとう君ならそういってくれると思った!」

「そしてわたしはその責任を勝手に償うように、あいつを何が何でも育てていくと決めたんだ」

「そしてあいつはずっとここでお手伝いをしてくれていた。」

「ある日、あいつが16の時『僕と踊ろう!』と声をかけてきた兵隊の格好をした同じ16歳の男が現れた」

「あいつはその初々しさについ踊りたくなり初めて人前で踊ったんだ」

「それが君との始まりだった」

「そしてお互い18になった時、彼は戦場へ行くことになった」

『僕が帰ってきたら、僕と結婚して欲しいです』

「その言葉を信じてあいつはずっと彼を待っていた」

「しかしある日突然あいつは記憶を無くしてしまった。医師によると強いショックとストレスからくるものだと、」

「そしてもうあいつは今年で23歳、毎日酒を飲んでは今日という最悪な日を忘れようとしていたんだ。そう!ずっと待ってるんだよ!いつ帰るかわからない男のことを。でもこのままだとあいつも母親と同じ運命を辿ってしまうとわたしは考え、もう彼のことを忘れて欲しいという一心でこの舞踏会を続けてきた。新しい出会いをここで見つけてほしいと思って」

「でも逆にこの舞踏会こそが、あいつにとって帰ってくる人を待つところなのだと知って、わたしはもう今日で最後にしようと決心した。」

「でも今日、君は帰ってきた!彼女はドアから覗く君の姿を見てわたしに『ほら帰ってきたでしょ』と呟いた」


マスターの今の説明を聞いて僕はとんでもない不安が頭をよぎった。

「彼女には今日が最後の舞踏会であることは話をしたんですか!!??」

「ああ!今日でラストにしようと思うと話した。」

「彼女は本当に彼が帰ってくると、信じていたんですか?」

「ちょっとでももう戻らぬ人だと思ってしまうような言動とか行動はなかったんですか?」

と沸点が一気に上がって僕が怒鳴ってしまった。

そうするとマスターが

「そういえばあいつは『だったら今日がわたしにとってもラストの曲になるね』ってさっき君が踊りに誘う前に言ってきた。あいつはいつもこの時間になると彼の帰りを迎えに行くように駅に向かうんだ!

少年!!あいつを迎えに行ってほしい!」


「もちろんです」

少年は飛び出した!


『わたしは彼を憎んでいたのかもしれない、血は繋がっていないが、娘のように可愛がっていた、可愛い可愛いわたしの娘に、勝手に恋心を抱かせ、あいつを置いて1人旅立ってしまった彼のことを』

『そう!今日、彼が帰ってきた時、その時真っ先に驚いていたのはわたしの方だった。

彼が帰ってきたことに驚いたのではない。彼のせいで、記憶を無くしてしまったわたしの娘が、真っ先に彼が帰ってきたと、なぜか気づいたからだ。記憶を失って以来初めてだった過去の記憶のようなことを彼女が話すのは!

そう!その事実をあいつに真っ先に伝えておくべきだった。あいつと彼が一緒にいる時にわたしの方から話をするべきだった。この日のことを一生後悔することになるとは思ってもいなかった。

なぜなら彼もまた、、、』

、、、




気づいたら僕は外を走っていた。

引き寄せられるように今でも始発の電車が来るのを待つような駅に向かっていた。


そこに駅よりも電車を待ちくたびれたような顔をした、彼女がホームのところに立っていた。

そんな凛とした彼女の後ろ姿をあたかも二つで一つのもののように包み込むように抱きしめた。

「あなたはあなたじゃなかった」

彼女がそう言った。

「そう僕は彼じゃない」

僕は答えた。

「わかってる!わかってたの!」

「でもあなたを見ると、一緒に踊ると、話をしてると、どうしても帰ってきたんだって思ってしまう!」

僕が一つだけ確かめたい疑問を彼女に聞いてしまった。

「あの時踊ってた時も彼のことを思ってたってこと?」

「それは違う」

彼女が答えた。

「じゃあ彼との記憶と僕を重ねてたということ?」

「わからない。でも最後にあなたが一緒に踊ってくれた。本当に嬉しかった。」

彼女がこっちを向いてそう話した。

「最後じゃない!!」

頑丈に抱きしめたい!



彼女の唇にそっと唇を添えた。



初めてではない感覚が身体中を巡らせる。


{僕が、今日電車で帰らなかったのは?}

{光と音が聴こえてなぜドアの中を覗いた?}

{なぜあの道で仕事から帰った?}

{なぜあの店に入った?}

{なぜ彼女を踊りに誘った?}


そのような無限に続く今日に至るまでの疑問の数々が走馬灯のように頭を巡らせた。

僕は脳が動いていたんじゃなくて、体が勝手に昔の行動をしていたんだ!!

体が彼女の元へと運んでいたんだ!!

踊りは初めてだったのに最後はしっかり踊れた!初めて聴いたようなマイナーなワルツもだんだん馴染んできた!


そうっ!!


僕は昔兵隊だった!


音楽も

踊りも

彼女のことも

大好きな兵隊だったんだ!


彼は18の時に戦場に行った。その時に彼は敵兵に、銃で頭を打たれてしまった。

皮膚への損傷はあったものの脳にはかすりもしなかった。そのため命に別状はなかった。しかしそのショックにより、記憶を一部無くしてしまっていた。

この何年か自分の名前を思い出せたり、仕事もできていたために、軽度の記憶障害と診断されていた。もちろん彼にそれが伝わることはなかった。彼の家族がその事実を大切に隠していて、彼には普通の一般人として社会復帰をさせていたのだった。

もちろん会社側も承知の上でこのことを彼に黙っていた。


「帰ってきてくれたんだね」

彼女がそう言った。

「そうだよ!長く待たせてごめんね」

彼女は僕のことを知ってたんだと勝手に解釈した。


とてつもなく強い雨が降ってきた。

屋根がない駅のホーム。

2人はずぶ濡れだった。

さっきまでの寒さなんて忘れてしまうほどの熱い感情多分彼女もそうなのであろう。


電車の光が雨の中で綺麗に反射してどんどん近づいてくるのがわかる。


「どこへ行くつもりだったの?」

彼女に聞いてみた。

「帰ってきてくれることを信じて、遠くまで行こうとしてた。」

彼女が答えた。


もう一度キスをした。


 『わたしは気づいていた。彼がもう死んでいるということに、彼の母親から彼は死んでしまったと伝えられた時から、わたしは顔も名前も思い出せない男のことを今でもひたすらに待ってる。

彼の母親に彼の写真だけでもいいから見せてもらいたかった。無性に拒まれた。

今更、わたしは彼を忘れることなんてできるはずがない。彼がもう戻らぬ人なのであればわたしが追いかければいいとそんなことすら思ってしまった。

今光が見える電車は始発ではない、もう2本も電車を見送っている。

どうしても1人だと寂しくて、

いやそうじゃない彼に「今じゃない」と訴えかけられてるような気がして。


今はとても優しいあなたがそばにいてくれる。きっと大丈夫。 そう!なぜか無性にあなたとじゃなきゃダメだ!と感じるの!!

もしかしたら、本当にあなたは彼なのかもしれない。』


「帰ろう!!」


「うん行こう!」


私は彼の背中を強く押した


そのすぐ後に

私も床のない床に、倒れ込むように目を瞑った


電車の正面は、ホームの最後にたどり着く前に停車した…


【ずぶ濡れの中のキスの後は…】

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