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1 最弱冒険者、死にかける

※最初の数行のポエム?は、世界観の説明のようなものではなく『こういう展開が待ってるよ!』みたいなものです。

 ダンジョンは、いつも空から降ってくる。

 街を覆い隠すように、暮らしを飲み込むような影を作って。

 

 だからその日、人々は空に浮かぶ立方体を見ても「いつものことだ」と高をくくっていた。

 その立方体が、青空を黒々と塗りつぶし、世界を闇で包み込むほど、大きく膨れ上がるまでは。

 

 ----



 一発逆転。

 人生を全て覆すような、大胆不敵な大挑戦。

 

 ボロついた革靴でぬかるんだ地面を蹴って、錆びついた剣を手に格上の魔物へ一直線。

 

 さあ、始めよう。

 腐りきった己の人生に終止符を打つための、捨て身の【格上殺し(ジャイアントキリング)】を。 


 ――なんて、格好つけて言ってみたはいいが。 

 

「誰か……誰か助けてくれえぇっぇぇえぇッ!!」

『馬鹿すぎるwwww』

『走れ走れ走れ!』

『初見だけどこれが最後の配信になりそうで草』

 

 東京の北方にある初心者用ダンジョン【赤羽の迷宮】。

 そこの第四層にて、稲葉蒼汰は泣き叫びながら走り回っていた。 

 

 背後より迫りくるは、赤い肌と角が特徴のDランク最強魔物――大鬼オーガ

 蒼汰の冒険者ランクはF。実力差は2ランク分だ。到底勝てる相手ではなかった。


 立ち止まれば死ぬ。

 日本刀で一刀両断、もしくはぶん殴られてぐちゃぐちゃになって死ぬ。


 想像して、蒼汰は「ひぅっ」と情けない悲鳴を溢した。

 じわりと、股間のあたりが熱くなる。

 

「やめとけば、良かった……って、ぅぁっ!?」

 

 石ころに躓き転び、鈍臭く地面に倒れる。ぐしゃりと容赦なく皮膚がえぐれた。

 痛みに涙を堪える間にも、大鬼は蒼汰との距離を詰めている。


 ――ジャイアントキリングだ。最弱冒険者でもやればできるって、大鬼を倒して証明してやる!

 

 そう意気込んでいた数分前の自分を殺したい。

(何がジャイアントキリングだ。ゴブリンもまともに倒せない雑魚のくせにっ!?)

 

 耳元についている小型インカムのボタンを押し込んで、【配信者モード】を起動する。

 するとたちまち、視界の右上に『表示』が浮かび上がった。

 

【同時接続数:22】

 

 それを見て、思わず涙ぐむ。


「……こんなに命張って配信しても、たったの22人しか見てくれねぇのかよッ!!」

『安心しろ、面白さでいえばまじでトップレベルだぞwww』

『お前がここで死んだあとめっちゃバズるだろうな』

『ゴッホじゃんwww』


「なぁにがゴッホだ! 覚えとけよ……あとで、絶対にBANするからな!!」

 視界の右から左に流れるコメントを見て、子供みたいに怒鳴り散らす蒼汰。それも仕方ない。もっと同情してくれてもいいのに、流れるコメントは草を生やしてばかりなのだ。怒りもする。


『可哀想……』『頑張って!』などのコメントも流れはするが、それらはあまりにも少ない。

 

 死を前に、蒼汰は逡巡する。

 思い返していたのは過去のことだった。

 

 両親が死んで、妹と二人きり。

 そんな妹も病に冒されて、寝たきりになって。 

 

 生活費、それと妹の治療費を稼ぐためにと、一攫千金夢見て冒険者になった。

 ついでに『MeTube』を初めて、人気MeTuberになって更にお金を稼ごうとか画策して、でも、中々伸びないし、冒険者としても成長は見込めず最弱で。 


 ――だったら。

 そう思い至ってしまったのが、間違いだった。 


 ――だったら、最弱冒険者であることを活かして、『最弱冒険者が迷宮ボスに挑んでみた!!』とかしたら面白くない? 

(……とか、思ってしまったのが、間違いだったッ!!)


「全然、視聴者増えないじゃんっ! しかも、死にかけてるしさぁあああぁあぁぁっ!!」

 

 絶叫とも悲鳴ともつかぬ叫び声を上げて、がむしゃらに足を回す。

 死ぬ、死ぬ、死ぬ。本気で、死ぬ。 

 

 走りながら首だけを振り返らせ、後方を確認する。

 瞬間、「ひぅっ」と情けない悲鳴が漏れた。

 

 大鬼がすぐそこで、日本刀を振りかぶっている。

 

(――あ。これ、当たる。

 避けきれる? 無理だろ、こんなの。でも、避けないと、死ぬ。死んだら……どうなる?)

 

「――無茶はしないでね、おにーちゃん。おにーちゃんまでいなくなったら……やだよ?」

 病室で心配そうな顔を浮かべていた妹の姿を思い出して、蒼汰はハッと瞑りかけた目を見開いた。


 死んだら、日菜が一人になる。

 それだけは、ダメだ。死ねるか。死ねるか。

 

 ゆっくりと、蒼汰の意識が覚醒していく。

 口から、あらゆる理不尽への怒りを孕んだ怒鳴り声がほとばしった。


「こんなとこで、死んでたまるかぁッ!!」

 

 思いっきり踏ん張って、上半身をよじる。 

 瞬間、ふぁさりと顔の真横で音がなった。髪の毛がいくつか、ひらひらと地に落ちていくのが見える。 


(……躱した?)

 生きてるってことは、多分そうだ。でも、これがあと何回続く?

 

 蒼汰はじわりと、目の縁が熱くなるのを感じる。

 こんなの結局の所、その場しのぎにしかならない。ちょっと余命が伸びただけだ。

 

 そう思ったらいつの間にか、蒼汰は自分自身でもビビるくらいに情けない叫び声を張り上げていた。


「誰かっぁあっぁああッ!!」


 カラカラの喉から、死ぬ気で声を振り絞る。

 

「誰か、助けてぇえっぇええぇえッ!!」

 

 ああ、あまりにも情けない。

 顔は多分、鼻水と涙でぐちゃぐちゃだし。


 えんえん、えんえん。

 泣き喚く自分自身の、なんてみっともないことか。 


 蒼汰の視界の隅で、通りすがる冒険者がゲラゲラとこちらを指差して笑うのが見えた。

 助けてって言ってるのに、なんて薄情な。

  

 もう、一生こんなことやってたまるか。

 結局の所、誰にも助けの手を差し伸べられず最後まで大鬼から逃げ続けた蒼汰は、ダンジョンの前にへたり込んで。


「……もう、冒険者やめるもん」 


 そんな泣きべそをかいているのだった。


 それから、視界の右から左に、

『弱すぎワロタwwwwww』

 そんなコメントが流れていくのを見て、稲葉蒼太はため息をつくほかない。

 

 情けないと思うだろう。

 でもこれが、実は彼の人生の分岐点。これが、全ての始まりだった。そう、全ての。これが彼の冒険者としての新たな生活の――







『おい、登録者数200万の【ひよりん】の生配信に映ってるぞ、お前wwww』

 

 ――幕開けだったのである。


【いなばんちゃんねる さんがオフラインになりました】

 ぷつり、そこで配信の記録は途絶えている。

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