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炎の鳥は熱く躍る  作者: 斎木伯彦
進学試験
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進学試験

「なかなかいい動きをするじゃねぇか」

 追撃に出ようとした彼をグレイスが牽制している。六対一で攻防しているのに、更に言えばここまでで八十人近くと戦っているのにカインは息一つ乱していなかった。

「化け物ですわね」

 ルディが呟いた横で、仲間の一人が弾き飛ばされる。

「ミュウ!」

 ルディが弾き飛ばされた仲間に気を取られている間に、もう一人も床に転がっていた。

「私たちも加勢するわ」

 人数が減ったのを補うように残っていた女生徒たちも加勢して、八対一になる。しかしカインは全く慌てずに、まるで彼女たちの技量を知っていたかのように、未熟な者から順に弾き飛ばして行く。

「おい、ちょっと待て」

 五人にまで減らされて、彼女たちは肩で息をしていた。そこにカインが声を掛ける。

「このままだと、あそこで傍観している腰抜けよりも弱いって判定にならないか?」

 カインが顎で示した方向には、男子生徒が残っていた。彼らは卒剣開始から、ずっと傍観したままだ。

「おい、腰抜け共、お前らはこの女たちよりも弱いのか?」

「な、何を……!」

「教官さんよ、敢闘精神がない連中は不合格でいいんじゃね? あいつらはビビって動けないようだけど、こっちの女たちは果敢に打ち掛かって来るだけ強いと思うぜ」

 ルディたちは目配せしてカインから離れた。男子生徒の目論見が彼女たちと戦った後の彼の疲弊を狙っているのだとすれば、それは不本意だ。彼女たちにも試験での好成績を残す目的がある。

「教官、私たちだけでは彼を倒す自信はありません。ここは協力体制を取りたいのですが、参加しない生徒は失格でお願いします」

 女生徒の一人がそう呼び掛けると、教官は互いに顔を見合わせた。

「ああ、それがいいですね」

 たった一人返事をしたのはカインの師匠である。

「敢闘精神のない者は養成所の訓練には耐えられません。彼ら全員を失格にしても良いでしょう。むしろ負ける覚悟で向かって行った生徒には伸び代があります」

「卑怯者、騎士を目指すなら、正々堂々と戦え!」

 既に敗退した生徒たちからもヤジが飛び交い、教官連中と傍観していた生徒たちは困惑してしまう。

「お前たちは一旦休んで、それから再戦しようぜ。味方の部隊が態勢を立て直す時間稼ぎも、騎士たる者の務めだ」

 カインの言葉が決定的となった。ルディたちはそそくさとカインから離れる。対する男子生徒たちは動こうともしなかった。

「本当に呆れた連中だな。いいぜ、こっちから行ってやるよ」

 カインはニヤリと笑うと、模擬剣を下段に構えて疾走する。半ば不意打ちに近い形で男子生徒の一人が弾き飛ばされた。

「な……」

「次はお前だ」

 対応できていない金髪の少年に狙いを定め、カインは模擬剣を振り下ろす。受け止めようと彼が模擬剣を振り上げる途中で、カインの模擬剣は少年の頭を捕らえた。

「レイモンド!」

 レイモンドはそのまま白目を剥いて倒れる。

「味方を見殺しにするような奴に、騎士は務まらねぇよ」

 セントラルガーデンで最強を自他共に認められていたレイモンドが一撃で気絶させられて、残っていた男子たちは浮き足立った。カインは無造作に模擬剣を振って一人、また一人と昏倒させてゆく。

「こんなものか」

 最後の一人を横殴りにしたところで、彼の模擬剣は折れてしまった。

「強いですね」

 ルディが近付いて声を掛けると、カインは素手で身構えた。残っていた女生徒五人は息を整えて彼を取り囲む。

「教官、彼に模擬剣を!」

「へへ、あくまで対等に、か」

 ルディの呼び掛けに応じてカインの師匠が模擬剣を投げ渡した。

「カイン君、礼を失わないように」

「感謝する」

 模擬剣を受け取ったカインは、目の前の女生徒たちに感謝の意を伝える。

「では、本気で行きますよ」

 ルディたちは休んでいた間に連携の確認をしていた。真っ先に中央からルディが打ち掛かると、右側よりグレイスがやや遅れて突出する。ルディの攻撃を躱すにしてもグレイスの攻撃は防ぎようがないだろう。更に左側からはスカーレットが迫り、残る二人が二手に分かれて彼の背後に回り込んだ。逃げ場はどこにもない。

「やるな、だが甘い」

 カインの瞳が真っ赤に染まった。と同時にルディは模擬剣を弾き飛ばされる。その飛ばされた模擬剣が横を移動していたスカーレットの鼻先を掠めた。彼女はそれで止まってしまう。カインは返す力でスカーレットの模擬剣をへし折り、無力化した。後ろに回り込もうとしていた女生徒たちも勢いを失って散開する。

「さて、次は?」

 一堂を睨む彼の真っ赤な瞳に、ルディは意識が吸い込まれそうになった。ハッとして気を取り直し、現状を振り返る。

 彼女自身の模擬剣は弾き飛ばされて、拾いに行く必要があった。スカーレットは折れた模擬剣の柄を握りしめて硬直している。グレイスと他の女生徒は間合いを取ってカインを取り囲んでいた。

「さっきのお返しだ、代わりの武器を取って来ていいぜ」

 彼の言葉にルディたちは顔を見合わせる。

「師匠、模擬剣を渡してくれよ」

「ええ、いいでしょう。騎士道精神に則った素晴らしい行動です」

 騎士同士の試合では、互いの装備条件を等しくするのが美徳とされていた。先程は武器を失ったカインに女生徒たちがその補充を認めたので、今度はカインが女生徒たちの武器を補充するのを認めたのだ。形式的ではあっても、試合ではその形式が重要視される。

「いい男ですわね」

 ルディは模擬剣を構えながら胸の高鳴りを感じていた。試合に対する興奮なのか、別の感情なのか判然とはしなかったが。

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