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炎の鳥は熱く躍る  作者: 斎木伯彦
士官学校 初年度九月
20/27

入寮

「ようこそ撫子寮へ」

 寮の玄関前には机が置かれ、一人の女性が座って待っていた。

「私は寮監のオルガ、皆さんの入寮を歓迎します」

 ルディたちは受付で渡された木札を差し出す。

「ええ、割り印も間違いありませんね。スザンナさんは502号室へ。先に同室の方が到着していますから、そのまま進んで下さい」

 部屋の鍵を渡されてスザンナは一足先に寮へ入る。

「グレイスさんとティファニーさんは409号室」

 二人に鍵が渡された。

「先に行くね」

「それから、シェルディーアさんとミュアリアルさんは310号室」

 ルディたちにも鍵が渡される。ルディは目の前の撫子寮を見上げた。木造五階建ての寮は、地表から階段を数段登った先に入口がある。撫子寮の隣には鏡映しの建物が並んで建っていた。

 さほど古くないとは言え、外観は風雨に曝された経年劣化が看て取れる。入口に至る階段に足を乗せると、木材の軋む音がした。ミュアリアルと顔を見合わせて、クスリと微笑む。二人で並んで階段を登り、扉を開けた。彼女たちの目の前には階段、右手には長い廊下が伸びる。

「310号室だから、上に行けばいいのかな?」

「どうやらそのようですわね」

 玄関を入ってすぐの部屋の扉には寮監室と札が掲示されていた。彼女たちは建物内の階段を登る。狭い階段なので一人しか登れない。仮に上から誰か降りて来るようならば下で待つか、途中の踊り場ですれ違うしかない造りだ。ギシギシと木材の軋む音を立てながら彼女たちは階段を登った。

「三階の、奥のようですわね」

 階段を登ってすぐの部屋には301と札が掲示されている。長い廊下の奥まで進むとなるとかなりの距離があった。廊下の突き当たり脇に扉があるが随分と狭い部屋があるようだ。彼女たちの部屋はその手前だった。

「うわ~、広い部屋」

 ミュアリアルが室内を見て驚く。入り口脇には木の枠で仕切られた空間に剣が一振りと低い柱が一本。その横に箪笥が一本ある。鏡を挟んで机があり、部屋の奥には大きな寝台が置かれていた。それが部屋の両端に左右対称に配置されていて、扉の正面には窓が一つ。

「机の上に何か書き置きがありますわね」

 ルディが目敏く見つけた書類には、用意された制服に着替えて一階の食堂に集まるよう記されていた。

「帯剣するようにも書かれていますわね」

 手荷物を寝台の上へ無造作に置くと、彼女たちは机の上に用意されていた制服を手に取る。純白の生地は皇都の騎士団に支給されている騎士服と同じだ。違いは縁取りと国章を刺繍した糸の色が瑠璃色であること。ルディはこの刺繍されている糸の染料が貴重な品であることを祖父から聞いていた。

「ラピスラズリブルーの染料は、聖皇国の専売品でしたかしら?」

「そ、そんな貴重な糸を使っているの?」

 背後で着替えていたミュアリアルが素っ頓狂な声を挙げる。幼馴染みは気付かなかったようだ。

「ミュウ、まだそうと決まったワケではありませんから」

「もう、驚かさないでよ」

 ミュアリアルはホッと溜息をついた。しかしルディはどうして士官養成所の制服にこのような貴重品が使用されているのか疑問を持つ。卒業すれば正規の騎士に任官できるとは言え、卒業までに辞退或いは脱落者も多かった。

 考えていても謎は解けないと気持ちを切り替え、ルディは純白の騎士服に袖を通す。柔らかな肌触りは商会で取り扱っている織物で間違いない。祖父が若い頃に開発した織物で、通常とは違って横糸を二重に使う高級品だ。軽さと丈夫さを兼ね備えたこの織物は一世を風靡したと祖父母が豪語するぐらいの品物だ。

「着心地の良い服ですわ」

 それでも騎士服を纏うと彼女は自然と背筋が伸びる思いがした。胸元を留め具で、腰は帯で固定する。

「ミュウ、支度はできたかしら?」

 剣を帯びる前に振り返ったルディは、未だに騎士服と悪戦苦闘している幼馴染みの姿を見た。どうやら着用順序を間違えたようで、ズボン吊りの取り扱いに難渋している様子だ。

「一度上着を脱いで肌着の上にズボン吊りを、それから上着を着用するのですわ」

「あ、ありがとうルディ。いつもズボン吊りは最後に着けていたから」

 ミュウは普段、ワンピースやオーバーオールのような上下一体型の服装が多かった。今日も彼女は実家の作業服同然の服装だったこともあり、そのつもりで着用してしまったのだろう。

「慣れは恐ろしいものですわ。それよりも、早く食堂へ参りましょう」

 彼女たちは剣帯を巻いて、用意されていた長剣を佩いた。ルディは憧れの騎士へ一歩踏み出した嬉しさが隠しきれない。笑顔のままで部屋を出た。二人が階段まで来ると上の階からスザンナが見知らぬ女性を伴って降りて来る。

「ルディさん、ご機嫌よう」

「ご機嫌麗しく、スザンナさん」

 商会の手伝いで王宮関係者とも接する機会があったルディは、スザンナの挨拶に半ば反射的に返答した。その彼女にスザンナは隣の女性を紹介する。

「こちら同室のフェリシアです」

「フェリシアです、以後よろしく願います」

 畏まった態度のフェリシアにミュアリアルは圧倒されている様子だ。

「食堂へ参りましょう」

「ああ、早めに頼む。後ろが支えているんだ」

 階段の上にはグレイスとティファニーが待機していた。一同は狭い階段をルディが先頭になって一階まで降りる。玄関にはオルガが入って来るところだった。

「最後の入寮生も参りましたので、食堂へお集まり下さい」

「はい」

 返事を唱和して一同は廊下の奥へ進む。扉の上に食堂と表示されているので迷うことはなかった。扉を潜ると縦に食卓が並び、既にほとんどの席が埋まっている。一同は手近な席に着こうとした。

「シェルディーアさんとミュアリアルさんは、こちらにお掛け下さい」

 食堂の職員に声を掛けられた二人は入ってすぐの離れ小島になっている席へ案内される。卓上には銀色に輝く全身鎧一式が用意されていた。当惑しつつも二人は案内された席に着く。ややあって最後の一人が食堂に入って来た。美しい金髪を巻髪にした彼女は居並ぶ一同の視線を浴びつつも、全く気にする素振りさえ見せずに堂々とした態度だ。ルディは内心で彼女を大物だと判断した。

「それではこれより、説明会を開始する。一同、注目」

 オルガともう一人若い女性が並び、更に彼女たちの後ろには数人の女性騎士が並んでいた。

「士官養成所は諸君を歓迎する。これより一年間は養成所にて騎士見習いとして基礎を学び、次の一年間は任官している騎士の従者を務めてその実力を高めてもらう」

 寮の玄関先で受け付け業務をしていた時とはガラリと雰囲気が変化したオルガの凜とした声が食堂に響き渡る。

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