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炎の鳥は熱く躍る  作者: 斎木伯彦
長崎屋にて
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長崎屋にて

「十年前、東方を旅したことを憶えてませんか?」

「十年前?」

 カインは記憶を探る。しかしそれでも思い至らないようだ。

「赤い御飯を食べた記憶は?」

 師匠の更なる問い掛けに、彼はピンと来たようだった。

「もしかして、あの変な豆が入った御飯か?」

「お赤飯のことですね」

 ルディもその時のことは憶えている。祖父が祝い事には必ず用意させていた赤飯。それはハルテン商会、フレグランス家の双方でも家族、知人、従業員に至るまで、関係者全員に振る舞われる御飯だ。

「そう言えばカイン君、お赤飯は苦手だったみたいですけど?」

「苦手とか、そういう問題じゃないだろ、あれは」

 カインにとっては苦々しい記憶だった。自らの髪の毛と同じ色味の御飯が、全く口に合わなかったのだから。

「ルフィーニア教官はお好きそうでしたのに」

「貴重な食材を利用している御飯ですからね、それにごま塩を掛ければ更に美味しくなります」

「師匠、ごま塩って?」

 カインは知らなかったのだ。赤飯にごま塩を掛けることで味が変わることを。

「次はそれを試してみるぜ」

 食い意地の張った彼にとって苦手な料理があるのは悔しくて堪らない。張り切っている彼を見詰めるルディは、微かに笑みを浮かべていた。

「ルディ、いるか?」

 不意に扉が開いて黒髪の青年が現れる。

「……と、接客中だったか。これは失礼しました」

 青年は扉を閉めて立ち去ろうとしたが、アルフォードが呼び止める。

「ジョージ君、構いませんよ。あなたも共に雑談に加わって下さい」

「え? これは重ね重ね失礼しました。ルフィーニア先生ではありませんか」

 ジョージの表情が劇的に変化する。彼は笑顔で室内に入ると、ルディの横へ腰を降ろした。

「先生はいつからこちらに?」

「皇都には今朝着いたばかりですよ」

「いらっしゃると分かっていれば、挨拶に伺いましたのに」

「今回はこのバカ弟子の付き添いです」

 アルフォードは言いつつカインを指す。ジョージはカインを見て、少し何か考えた。

「まさか、カインか?」

 問い掛けられても彼は返事ができない。目の前のジョージという青年に会った記憶がカインにはなかったからだ。

「忘れたとは言わせないぞ」

 言われてカインの記憶が蘇る。

「ジョーの兄貴?」

「やっと思い出したか」

 笑うジョージに、ルディが疑問をぶつけた。

「お兄様、カイン君とは面識がありましたか?」

「面識も何も、お前のセントラルガーデン合格祝いの時にアスカ共々、こいつの生意気には辟易した」

「それ以上はやめてくれ」

 カインの中で黒い歴史が蘇る。当時の彼は天狗になっていて、誰彼構わず勝負を挑む癖があった。当然にジョージにも勝負を挑んだのだが、年齢差と体格差の前に惨敗を喫している。

「翌日、カイン君を見掛けなかったのは……」

「泣きながら憶えてろって言って飛び出して行ったからな。ご要望通り、憶えておいたぜ?」

 ジョージに言われてカインは真っ赤な顔で俯いていた。

「ジョージ君、その辺りで勘弁してやって下さい。あれから修行を積んで、養成所に合格しましたから」

「そうですか。ルディと同じですね」

 アルフォードに対しては丁寧な言葉遣いになるジョージ。再びカインに話し掛ける。

「ところで、お前も狙っているんだろう?」

「何をだよ?」

 主語のない問いかけは意味が通じないので、カインが尋ね返した。

「オレの妹は可愛いから、お前も狙っているんだろうって話だ」

「ちょっと、お兄様……」

「ああ? 俺にはリナがいるから、ルディは単なる同期だ」

 カインが即答するとジョージの表情が曇る。

「お前、オレのルディが可愛くないと言いたいのか?」

「面倒くさい奴」

 カインは心底そう思った。しかし今度はルディの機嫌が損なわれている。そこへ扉を叩く音が響く。

「はい」

 返事をしてルディが扉を開くと、そこには若い女性店員がいた。

「若様とお嬢様をお連れするようにと、旦那様より仰せつかって参りました」

「それは……」

 ルディが困り顔で振り返ると、アルフォードが鷹揚に頷く。

「私共は構いませんよ。もう少しゆっくりできますので、父君の用件を済ませて下さい」

「ありがとうございます。それでは失礼します」

「先生、当店をご贔屓にして下さい。失礼します」

 兄妹は頭を下げると、女性店員に連れられて行った。ルディたち兄妹はアルフォードたちが通された部屋とは反対側の部屋に連れて来られる。

「旦那様、若様とお嬢様をお連れ致しました」

「入れ」

 扉越しに声を掛けると、中から入室を促された。どのような客が通されているのか不明なので、兄妹は廊下へ正座して扉が開かれるのを待つ。室内の奥に金髪の少年二人が座っていた。二人の違いは瞳の色で、その容姿は双子と思えるほどだ。碧眼と蒼眼の双方から見詰められてルディは身を固くした。

「堅苦しい挨拶は抜きで構わない。部屋へ入ってくれたまえ」

 碧眼の若い男性の声に促され、兄妹は入室する。

「お初にお目に掛かります。私はこちらのアーネスト様にお仕えしている、ルークと申します」

 碧眼の男性が自己紹介と、自らの主の紹介を簡単に済ませた。

「アーネスト様、こちらが私の長男のジョージ、末の娘のルディでございます」

「ジョージです」

「ルディと申します」

 父に紹介されて兄妹は頭を下げた。頭を上げたルディと蒼眼の少年、アーネストの目線が合う。

「あなたがルディ殿ですか」

 アーネストの視線はまるでルディを値踏みするような感じだ。正直言って彼女は室内に入る時から不愉快になっていたが客の手前、その嫌悪感をどうにか押し殺した。

「決めたぞ、長崎屋」

「へ?」

 唐突な言葉に父のケントも間抜けな返事しかできない。

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