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炎の鳥は熱く躍る  作者: 斎木伯彦
長崎屋にて
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長崎屋にて

 ハルテン商会の外食店舗である長崎屋で食事をしているカインとアルフォード。二人はお造りの後、焼き魚と口直しの小椀、天麩羅の盛り合わせ、焼き鳥などを食べていた。

「この焼き鳥は、前にも食べたな」

 カインは以前、進学試験の途中で食べた食事を思い出す。

「そう言や、あれはここの料理だったか」

「そうですわ。あの時、カインさんが召し上がったのは当店のお弁当です。憶えておいででしたのは嬉しく存じます」

 本当に嬉しそうに微笑むルディの表情に、カインは照れ臭そうにしていた。

「次は、炊き合わせです」

 今度は黒いお椀が運ばれて来る。カインが煮物椀の時と同じように蓋を開けると、蓋の内側に付いていた水滴が卓上に零れた。チラリと師匠の様子を窺うとアルフォードは蓋を開けた後、内側の水滴が外へ零れないように椀の中へ落としている。

「初めてのお客様は皆さん零しますから、お気になさらずに」

「すまない、次からは気を付ける」

 ルディが素早く布巾で卓上を拭いた。細やかな気配りにカインも次第に心が解れて来る。思わぬ言葉にルディは一瞬だけ驚いた表情を見せたが、即座に微笑んだ。

「はい、お待ちしていますね」

 カインは自らが失態を続けざまに演じたのに気付き内心で狼狽(うろた)えていたが、それを気取られないよう椀の中身に集中しようとした。色鮮やかな野菜の上に、見たことのない食材が鎮座している。

「これは、何だ?」

「油揚げと申しまして、先程お造りで召し上がられた豆腐を、油で揚げたものです」

「へえ」

 ルディの説明の間に、アルフォードは慣れた様子で油揚げを頬張っていた。カインも匙で切り分けて口に運ぶ。程良く染みた旨味が口の中に広がった。

「それでは食事の最後になります」

 炊き合わせを食べ終える頃合いで木桶が運ばれて来る。二人の目の前には四角い白いものが浮かぶ茶色の汁物と、細かく刻んだ野菜の盛り合わせが差し出された。木桶の蓋をルディが開けると湯気が上がり、香ばしい匂いがカインの鼻孔をくすぐる。

「こちら、油揚げの炊き込み御飯です」

 アルフォードには普通の盛り付けだったが、カインの方へは山盛りに近い炊き込み御飯が差し出された。

「カインさんには、お替わりもできます」

「至れり尽くせりですね」

 アルフォードが箸を付けると、カインも素早く匙を持った。

「美味い」

 仄かな醤油の香りと、程良い油加減が御飯に染みてカインの舌を襲う。彼は夢中で御飯を掻き食らった。汁物は独特の香りがしたが、それも慣れてしまえば旨味に感じる。飯椀を差し出すと、ルディはにこやかに微笑んで木桶から御飯を盛り付けた。

「カイン君、食べ過ぎないよう注意なさい」

「そんなこと言ったって師匠、美味いものは美味いんだから仕方ないだろ」

「お気に召して頂けたようで、嬉しく存じます」

 カインはほぼ一人で木桶の中にあった炊き込み御飯を平らげた。ルディには予想通りの結果だったが、後かやって来た店主は面食らっている。

「本日は当店の食事をお楽しみ頂きありがとうございます。これより茶菓子を用意しますので、最後までお楽しみ下さい」

 店員が運んで来たのは、これまたカインが見たこともない菓子だった。透き通るような団子状のものの上に黄色い粉と黒い液体が掛けられている。

「わらび餅です。こちらをお使い下さい」

 木製の小さなナイフのようなものが用意されていた。カインはそれでわらび餅を刺すと、粉と液体を絡める。

「美味い」

 今日、どれだけ同じ言葉を口にしただろうか。カインは初めて食べる食材と料理に驚きを隠し切れない。

「ハルヲ殿の店と同じ味で安心しました」

「ありがとうございます」

 アルフォードがわらび餅を食べながら店主に声を掛ける。ケントは恐縮している様子だった。

「料理人を父の店へ修行に出しまして、ようやく同じ味を再現できるようになりました。先生のお墨付きであれば一安心です」

「私も暫くは皇都に滞在していますから、時間の許す限りで通わせて頂きますよ」

「はい、お待ち致しております」

 ケントが深々と頭を下げる。それから娘のルディに目配せした。

「粗茶でございます」

 陶器の湯飲みに淹れられた抹茶が出される。

「甘いものの後にこの苦味はスッキリして心地よいですね」

「お口に合って嬉しく存じます」

 微笑むアルフォードに対して、カインは眉根を寄せていた。その表情にルディは笑いを堪え切れず俯く。あくまでも客の一人としてもてなしているので、面と向かって笑うのは失礼の極みだ。

「本日は馳走になりました。今後もよろしく頼みます」

 アルフォードは懐から一枚の布を取り出すと、それをケントに渡した。何かが包まれているようだが、ルディたちには中身は窺えない。

「確かに受け取りました。私は店の仕事がありますので失礼致します。ルディ、先生方がお帰りの際には失礼のないよう」

「はい、心得ました」

 ケントが下がると、ルディは肩の力を抜いた。

「カイン君、美味しかったでしょう?」

「ああ、確かに美味かった。にしても堅苦しい」

 砕けた口調になったカインを、今はアルフォードも咎めない。

「ルディ嬢は、いつもお店の手伝いをしているのですか?」

「はい。でもそれも今月一杯です。来月からは士官学校へ通いますから」

「ところで、師匠とは知り合いだったのか?」

 カインが横から口を挟んだ。

「カイン君、憶えていないのですか?」

 師匠に尋ねられても、カインにはルディと会った記憶が進学試験の時以前にはない。

「バカ弟子とは言ってますけど、ここまでバカではなかったはずですが」

「小さい頃とは印象が変わっているかもしれませんので、あまり責めないで下さい」

 ルディがカインを庇った。その行為一つを見てもアルフォードには彼女の心情が察せられる。だからこそカインの態度に苛立ちが募った。

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