私は死なないわ
ユリカは戦う相手を求めて旅立つ。この世界の主な交通手段は動物である。馬と同様の動物に引かせるのが一般的である。「どうどう」ユリカは馬をコントロールしながら、道を進む。「さて、対戦相手はどこにいるのかしらねぇ… なんかあの二人は私が対戦相手だとすぐに分かってたみたいだけど… 何かアイテムでもあるのかしら? 王様っぽい人が何か言ってた気がするけど… まあ、いいか。 とりあえず街に行きましょう」。
2日ほど、走ったところで、ユリカは大きな街に到着する。
「あら。 人がたくさんいそうね… とりあえず、ここで情報を得ようかな」ユリカは門番に手形を見せて、すんなりと街に入った。 馬車ごと宿に預けて、街をぶらりとすることにした。
(へー、思った以上ににぎやかね。 えーっと、情報収集と言えば酒場かしら? たくさんあるわね)ユリカは適当な酒場に入る。酒場内は防具をまとった人間であふれている。そこら中に武器が置かれている。
(ふーん。 こんな感じかぁ… みんな警戒心が薄いのね…)ユリカはカウンターに座る。店主と思わしき初老の男性が注文を訪ねてくる。
「そうね。 ミルクをもらおうかしら」「ミルクですね。 承知しました」
(果物は結構得体が知れないものもあるけど、動物は基本的に同じなのよね。 馬も牛も豚もいるし…鶏にもいるから、食事に戸惑うことはないのよね。 異世界っていうより… 昔の世界って考えた方がしっくりくるわね)
「どうぞ」ミルクとともに真っ赤なカクテルが出された。
「あら? まだ酔ってないわよ?」
「あちらのお客様からです」マスターの手の先を見ると、整った顔立ちのいかにも好青年と言った男性が座っている。ユリカはカクテルに口をつける「辛みと酸味、強めのアルコール… どういうメッセージかしら?」
「ブラッディメアリー」青年はねっとりとした口調でつぶやく。
「…そう… 別に今日でもいいわよ」ユリカは片方の口角を上げて威嚇する。
「そうこなくっちゃ」
「でも待ってね。 喉が渇いているの。飲み終わるまで…少しお話をしましょうよ」
ユリカはカクテルとミルクを持って、一つ間を空けて青年の隣に座る。
「ユリカよ」
「ベルだ」
「便利よね。 共通語で話せるのって」
「そうだね。 ここの人たちはバベルの塔を建てなかったみたいだ」
「謙虚なこと」
「しかし、君のような美少女が参加しているとはね… ブラッディメアリーは早かったかな?」
「あら、私はもうはたちよ。 それに…こういうものはめぐり合わせよ。出会った時が別れの時よ」
「なるほど… これは、はやまったな…」
「せめて、グラスが空になるまでは、人間同士でいましょうね。 中々話す機会がなかったから」
「そうだな… マスター僕にも一杯…ロングアイランドアイスティを」
「…基本的に元の世界とそっくりね」
「あれ? 説明されなかったのか? この世界は中世ヨーロッパぐらいの文明レベルに現代の衣食を混ぜた世界なんだよ?」
「あら、そうなの」
「ああ、まあ、そうだろうな… 文明レベルが高すぎると、武器や移動手段が良くなりすぎる。 けど衣食が古すぎると参加者が不便を覚えるだろ? ゲームのバランスも保ちつつ、快適性も保った世界ってことさ」
「なるほどね。 色々と都合が良いのはそのためね」
「そうそう、ほら、王とか領主とか、便利だろ? まるまる現代世界が舞台だと、そういう特権階級ってなかなかないじゃない」
「そこまで説明してくれたの? 私は能力の話で終わってしまったわ」
「それは残念だね… まあ、いいんじゃないかな…どうせ今日で終わるんだし…」
「随分自身があるのね」
「そりゃあね… 僕は既に5人は倒しているからね… 精神操作系や再生持ちもいたけど、僕の敵じゃなかったよ」
「そう…」ユリカはミルクを飲み干すと、続いてブラッディメアリー、男性の前のロングアイランドアイスティも飲み干した。
「さて… 外に出ましょうか? お代はあなたが払ってくれるのよね?」
「…ああ、もちろん」
ユリカと男性は酒場の裏の路地に出た。
「人気がないわね。 ちょうどいいわ。 月明かりもきれい… 戦いには良い日ね」
「戦いか… 戦いになるかな……」
「死ね」男が口を開くとほぼ同時に、ユリカはその場に倒れ込んだ。男はユリカに近づく。
「あーあ… なかなかイイ女だと思ったんだけどな… もったいない… しかし、即死能力は楽でいいんだけど…あっけなさすぎて、イマイチ勝った気がしないんだよな」
男はユリカの身体に手を伸ばす。
「…どうせ死体だ… ちょっと遊ばせてもらうかな」男の手がユリカに触れようとした瞬間。男の胸にナイフが突き立てられる。
「え…」男は呆気にとられる。ユリカは上体を起こし、ナイフを抜く、さらに今度は男の喉を切り裂く。男は喉を抑え止血を試みるが、ユリカは容赦なく、男にナイフを突き立てる。男が息絶えても、尚きざみ続ける。ユリカの全身は返り血に染まる。
「即死能力ね… 倒した相手を自慢げに語るものじゃないわよ…」
「さっきの話で即死系能力か無効化能力ぐらいに絞られる… じゃあ、即死に備えておいて…出方を見れば対応できるわ…」
(即死能力も、色々と種類がありそうね… 今回は心臓が停まっただけだから、簡単に蘇生できたけど、種類によっては少し苦戦しそうね… 例えば、概念的な死…とか 即死のように、結果を強引に突きつける類の能力は能力者自身もなぜそうなるのかよく分かっていない… だから、対応されると、もうどうしようもなくなる…彼は、死の概念が薄かったようね… 良かったわ、アナタ程度の人と早めに戦えて)
ユリカは青年の身体を数個に切断して、あちこちに埋めた。
都合が良いことに、月以外に見ているものはいなかった。