私は消されない
お庭でのティータイム。少しビターなお茶に甘いケーキ。ユリカが最もリラックスする瞬間である。初めての戦いで、簡単に勝利できたことでユリカは自分の能力に自信を持った。屋敷に戻ってからは、またもとのように、ゆったりと過ごしていた。ユリカはバサリと髪をかき上げる。(時間停止能力に勝てたのは大きいわね… 基本的にチート能力の多くは一方的に攻めるものばかり… その攻め手をいなせば大抵何とかなりそうね… 後は私も攻撃手段をいくつか用意しておけばよ…)
ユリカは戦いを思い出す。身体がじんわりと熱くなるのを感じた。(いけない… 戦いを楽しむなんて… これはいけない傾向だわ…)ユリカはソーサーにカップを乗せ、テーブルにゆっくりと置いた。
「さて…」ユリカは庭の茂みに向けて話しかける。「まだ監視するつもりかしら? いい加減出てきませんか?」ユリカはソーサーを茂みに向かって投げる。ソーサーは茂みに届く前に消失する。
「やれやれ…お転婆な令嬢さんだ」茂みからはワイルドな風貌の男性が姿を現した。「その図体で監視するなんて… あまり魅力的でないギャップね」
「何とでも言え… せっかくもう少し生かしておいてやろうと思ったのに…」
「あら? まるで私よりも強いみたいな言い方ね」「みたいじゃない…」男はポケットからジャラジャラと装飾物を取り出す。
「なんですか? 観光地のお土産ですか?」「まあ、俺にとってはそんなもんだな… これは今まで倒した奴から奪ったものだ」「へー…結構真面目にこのゲームに取り組んでいるんですね」
男は眉間にしわを寄せる「おいおい… ゲームだって? これだから、呑気なガキは… これは立派な命の奪い合いだぞ」「存じてますよ? でも、所詮はゲームでしょ?」「はあー… だめだ…話が通じねぇ… クソガキだな」「同感ですね。 全く話にならないわ」男が少しずつユリカに近づく。
「警戒してるねぇ… だが、悪いがゲームオーバーだ。 消えろ」男がユリカに向かって手を伸ばした瞬間、ユリカの身体は消失した。
「あーあ… いわんこっちゃない… 様子見なんかせずに仕掛けてくれば良かったのに… しかし、ガキだが、結構可愛かったな… 完全に消し去ってしまうのは惜しかったか…」
「あら、それはどーも… 私もあなたみたいなワイルドなルックスは嫌いじゃないわ」どこかからユリカの声が聞こえる。男は慌ててあたりを見渡す。「バカな… 消し去ったはずだ… 不死身の能力者でも消失には耐えられないハズ… どこだ… いったいどこだ」
-カラン
男の背後で何かが落ちる音がする。男は振り向いて、その者に手を伸ばし、消し去る。
(ティーカップか… だが、カップがあるということは… 上か!)男が上を見ると、強烈な光が男の眼に飛び込む「うわっ」男はあまりのまぶしさに眼をふさぐ。ユリカは屋敷の屋根から、スプーンを使い太陽の光を反射させていた。「こざかしいことを…」男はユリカを睨み付ける。
「その力、制限があるみたいね… 距離と…あと対象を認識してること… かしら? 強力だから制約があるのね… まあ、確かに距離無制限で対象の認識も不要だと… ゲームにならないものね」
男はユリカを見上げながら歯を食いしばる。「と…言うことは」ユリカは男に向けてフォークを投げつける。
男はフォークを躱す。 フォークはテーブルに突き刺さる。「そんな投擲で当たるかよ」ユリカは再度、スプーンで光を反射させて、男の眼を狙う。「うぐ… くそ、せこいぞ。 なめやがって…」男は銃を取り出す。「本当は能力でけりをつけたかったが… これで、うち落としてから、地面を這いずり回るお前を消してやるぜ」「あら… ゲームオーバーね」男が引き金に力を入れようとした瞬間、背後からフォークが男の首を貫く。 フォークが落ちると、男の首から血が噴き出す。「は…え? 何で?」「残念だったわね… ちなみにコンティニューはないと思うけど… けがを消すとかはできないの?」「ごぼ…がぁああ」(バカな… 確かに消したハズ… こいつ二人いるのか… クソ…完全に油断した」
「ああ、ごめんなさい… 出来たらやってるわよね。 苦しそうね…」
ユリカは懐から、銃を取り出すと、男に向けて何度も打つ。 5発ほど放ったところで、やっと男に当たった。男の血が庭を赤く染める。
「うーーん… 待ち構えるのは有利でいいんだけど… お庭が汚れるのは、難点ね…」
ユリカは男がのたうち回り完全に絶命するまで、屋根からじっと様子を伺った。
日が暮れるころ、ようやくユリカは地上に降りた。男の身体に何回も銃弾を撃ち込む。男の身体は、細かく切断したのちに調理を施して、飢餓に苦しむ地域に食料として配ることにした。
ユリカは屋敷を荒らされることを心配し、旅に出ることにした。
最小限の荷物と武器、最大限のお金を持って屋敷を後にした。