私は変わる
「連れてこなくて良かった…」ユリカはそうつぶやくと、自身の形態を変化させた。
それはあまりにも醜くかった。
あの長く美しい髪は無くなり、代わりに頭に合計5個の目を出現させた。
スッと通った鼻は匂いを感知するだけの穴に、口はかみちぎるだけの穴となった。
細く華奢な腕は、太く硬く長く、そして先端は鋭利になった。それが合計6本。
脚は短く。また、同時に体内も変化させた。消化器官は不要。思考と神経に特化させた。
命を奪うに最も適した形に作り替えた。
相手の能力が発現するまえに、ユリカであった物体は、対象を刻んでいく。
所詮は寄せ集めであった。能力の相乗効果もなく。むしろ領域能力は制限された。
能力の隙間を突く。10名の能力者たちは何もできぬまま、蹂躙された。
ユリカは床に転がる元能力者たちに向けて、自分の細胞を広げる。
そして、消化していく。
(…しまった。 罠だったか…)ユリカが気付いた時には遅かった。
取り込んだ能力者の中に… 仕込まれていた存在… 存在を消す能力者…
なんてことはない能力であるが、生き残るという目的であればうってつけの能力である。
また、能力を奪うことができる能力者には非常に効果が高い能力である。
まるで毒のように、能力を奪ったものの存在を消す。
ユリカは急ぎ、その浸食を切り離す。
だが、ユリカの存在の大部分は奪われてしまった。
(…これじゃあ、元の姿を作ることができない… かき集めるか… いや、そんなことをすれば、台無しになる… 残ったもので再形成するしか… ないか)
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ベティは宿の中でユリカを待っていた。窓辺に座り、外を眺める。
気配の数で、ユリカを探す。
迎えに行こうとはしなかった。それはユリカに対する裏切りであると考えたためである。
付き合いこそ短いものの、ベティはユリカがどのような人間か掴みつつあった。
ベティ(早く帰って来いよ… 2人分の部屋を借りたんだから… もったいないだろうが…)
コツコツと窓が鳴る。青い小鳥が入れてほしそうに窓の前にいる。
ベティは窓を開けて、小鳥を迎える。 小鳥はベティの手に乗ると、形態を変えた。
ベティの手のひらの上には、手乗りサイズになったユリカがいた。
「え… ど、どうしたんだ? そのサイズは…」
「やられたわ… 退けたけど… 罠が仕込まれていて… 身体を大部分持っていかれた」
「だ、大丈夫なのかよ?」ベティは心配そうに尋ねた。
「まあ、しばらくはこの姿でいるしかないわ… まあ宿代も食費も節約できるから、悪くはないけど」
ベティは呆れた表情で言い返す「ポジティブだな…」そして、ベティは何もまとわないユリカに布を渡した。
「あら… このまま裸で置いておくのかと思ったわ?」ユリカは布を体に巻き付ける。
「人形に欲情する趣味はないさ」といいながら、ベティは紐を渡す。
「そう? 残念ね。 この姿ならではのこと… してあげようと思ったのに…」
「え…それは… なんだよ? へ、へんなことする気か?」
「ふふっ… それは後でのお愉しみよ? 先に食事でもとりましょうか? お腹空いてたでしょ?」
「い、いや。 別にぃ… もう1人で食べたし…」と、言った瞬間お約束にもベティの腹部が鳴る。「あら… 意外にけなげね?」
「う、うるさい… 育ち盛りで… 腹が減るんだ」「はいはい」
ベティはユリカの身体に何重も布を巻いてから、一緒に近くの居酒屋へ向かった。
ベティは食事を頼む。
食事を細かく刻んで、ユリカに渡していく。
「どうだ? 足りるか?」
「そうね… 結構すぐいっぱいになるわ… けど、エネルギーがいるから、もう少し頂戴」
ベティは母鳥のようにユリカに食事を運んでいく。