私は制す
ベティはまるで出勤する親を見送るように、自然にユリカを送り出した。
数刻後ユリカが帰ってくることを信じていたのだ。
ベティはせめて良いベッドを用意しておこうか、と資金を集めるためカジノに繰り出した。
ルーレットで一気にベットする方法も、もちろんあったが、なるべく資金をたくさん持っていることを隠すために、スロットを使った。あれよあれよという間に足元のコインは増えていく。
3台ほど吐き出させてから、ユリカの言葉を思い出して、切り上げることにした。
資金は2倍ほどに膨れた。
帰る途中、食事の予約をし、ホテルも高級な場所を取った。
部屋に入ると、ベティはリジェの首を袋から取り出し、ベッドに腰掛けた。
ベッドの感触を確かめて、赤面した。
しかし、一向にユリカが戻ってくる気配はなかった。
ユリカが戦いに向かって、5時間が経とうとしていた。
(もしかして… はめられた… いや、近くに他の能力者の気配はない… あるのは2つの気配だけ… おそらくこの街の能力者とユリカのもの… 苦戦している? 加勢に行くか… けど能力者同士の戦いにうかつに入り込むのは得策じゃない… 私の運はあくまで自分のためのもの、他の人間のサポートには向いていない…)
ベティは、ただ信じて待つことしかできなかった。
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ユリカは、ベティに見送られてから、能力者の待つ屋敷に向かった。
どういった能力者がいるのが定かではなかった。
もともとこの街にいた能力者なのか、それとも龍や街の能力者を屠ったものなのか…
可能性としては後者が高い。
たまたま偶然最も強いものに最後にあたる可能性は低いからである。
ユリカは能力者の気配がする建物の前に来た。
ひとまず火を放った。
しかし、すぐに鎮火された。
ユリカが距離を取ろうとした瞬間、右半身がもぎ取られた。
もぎ取られた部分はその瞬間に消失した。
(遠距離… 強制的に消す能力… しかし、一思いに行かないのは… なぜ? ひとまず距離を取って、再構築しないと…)
左半身、足、頭、次々もがれて切れた。
血だまりだけが残った。
屋敷から一人の男が出てくる。
男は血だまりを見て勝利を確信した。
(どんな能力者が来たかと思ったら、期待外れだったな… これなら龍が一番手ごわかった。 まあ、そもそも街で固まっているやつや、逃げ回っているやつに期待はしていないがな)
男が踵を返し、建物に入ろうとドアを開けた瞬間。
男の鼻に鋭利なものが突き刺さる。
それは、鼻から男の頭蓋に貫通した。
「な… なんだ?」
「どうも、お邪魔しています。 服を借りましたよ?」
ユリカの手には、無効能力者の骨から作った棒が握られていた。
「くそ…消え… 使えない…?」
ユリカは男の腹部にナイフを突き刺して、抉る。
男は拳で抵抗するが、ユリカはひるまず、突き刺し続ける。
男は同時に棒を抜くために顔を動かすが、返しが付いており、抜くことができない。
男は力尽きた。
ユリカは、男を屋敷に引きずり込んだ。
すぐに解体せずに、屋敷の奥に進んだ。
奥の部屋に入ると、1人の男性が待っていた。
「…力を隠すのがうまいのね?」
「…なるべく戦いは避けたいですからね… 能力的に… 本当はもう少し、隠れていたかったのですが…」
「ネクロマンサー…」
「ご名答…」
「この戦いで、もっとも警戒すべき能力だわ」
「へー… よく考えてますね」
「能力者はだれもが、チート級… 能力を奪える力は強いに決まっているわ」
「そうそう。 最初は私も奪える能力にしようと思ったんですけどね。 同じ能力の場合… 使い慣れている方に勝てないんですよね。 奪い取る方も頼んだんですけど、それはできないった言われたんですよねー。 洗脳系は、あれじゃないですか? はねのけられたり、なんか変な精神力とかで打ち消されたりしそうなので、止めました。 で、ネクロマンサーですよね。 死体を自由に使えるのは、やっぱり強いですよ。 もうね。 結構ストックも貯まったので… 本当はあなたも操りたいんですが… うーん。 もう少し取っておきましょうかね。 あなたの命預けておきますよ」
「そう…お気遣いは有り難いけど、伸ばすのはあなたの事情でしょ?」
「今はね… けど、間もなくあなたの事情になる」
能力者たちがユリカを囲む。
「まあ、負けたやつらですから… そこまで強くはないのですが… 10人いれば話は変わりますよね?」
ユリカは身構える。
「…カナン。 私の名前です。 どうもあなたとはまた会う気がしてならない… 覚えて置いてくださいね」
そういうと、男は窓から、立ち去った。
ユリカは周囲の元能力者たちを見定める。