私は託す
港町を出てからは、
しばらく馬車に揺られる生活が続いた。
「あーあ… せっかくの港町だったのに、野営疲れたんだけどぉ」ベティは荷台で寝そべっている。
「もとはと言えば、あなたが調子に乗りすぎるからよ。 生かさず○さず搾り取ることを覚えなさい」ユリカは馬をコントロールしながら、応対する。
「はいは。 悪うござんした…」
「まあ、私的には外でするのも、燃えるけどね」
「ばっ… ばかいうな。 結構… その、される側は… 恥ずかしいんだからな」
「それがいいんじゃない」
「このドSめ」
「フフフ。 そんな態度とってもいいのかしら?」
「勘弁してくれ…」ベティは顔を背けた。
「冗談よ。 それはそうと… ここ最近襲撃がほとんどないわね。 それどころか、優先権がとれることが多いわ。 これもあなたの力かしら?」
「多分な。 不意打ちがラッキーになることはないからな。 今私はあんたと運命共同体みたいなもんだから、あんたにも運が向いてもおかしくないさ」
「なるほどね。 つまり、私の幸せもあなたの幸せになっているってことね」
「なんだよ。 その言い方、気持ち悪いな」
「本当に便利な能力ね。 ありがたいわ。 けど、そろそろ戦いたいわね」
「そうか… 私はなるべく戦いたくないけどな」
「あら、そんなこと言ってると、強くなれないわよ」
「え? この世界って、レベルアップとかって概念あったっけ?」
「ないわよ。 でも簡単な話よ。 戦闘経験値を積めば強くなれるでしょ。 あと、対応力も上がるし」
「けどさ。 基本的に、私たちの戦いは命がけだろ? だったらなるべく戦わないに越したことはないだろ。 それに経験なんて積まなくても、私は負けないし」
「そうかしら? あなた自分の弱点も知っておいた方がいいわよ」
「弱点? そんなのあるか? あんたぐらいイかれたやつでも何とかはなるんだ。 大丈夫だろ」
「概念系」ユリカがぽつりとつぶやく。
「概念?」
「そう。 例えば、なんでも破壊できる能力とか、ね。 能力毎破壊されたら元も子もないわ」
「はぁ? そんなインチキありうるのか?」
「なくはないでしょうね。 それこそ、最初はそこまでの能力じゃなくても、破壊の仕方を理解することで能力が高まる可能性は十分あるわ。 それに、他にもなかったことにする能力や結果をただ押し付ける能力なら、あなたのラッキーを無視できる可能性もあるわね」
「そんなことありうるのか? 今まで戦った中でそんなやつはいなかったけど」
「それは運が良かっただけよ」
「だから、その運の良さが私の能力なんだよ」
「まあ、気を付けなさい。 それだけ忠告しておくわ」ユリカは馬車のスピードを上げる。
進んでいくと、街が見える。
ベティが身を乗り出す。
「お、なかなか大きい街じゃないか? やった。 久々のベッドだー」
「ベッドを悦ぶなんて… 意外といやらしいのね」
「うるさい。 そんなんじゃないわい」ベティが顔を赤らめ反論する。
「でも、その前に… 結構いるわよ。 気付いてる?」
「ああ、4人かな」
「惜しいわね。 5人よ」
「マジか… ああ、いるな。 微力だけど…」
「微力といっても、能力の強さとはイコールじゃないわよ。 油断しないことね。 どうしようかしら… あなたは誘う方がいいんだっけ?」
「だな。 攻め入る性質じゃないないな。 それに手の内知りたいし」
「同感ね。 私も手の内を知りたいわ。 それじゃあ、おびき寄せましょうか… まあ、カジノで目立てば来るでしょう」
「だな」ベティが指を鳴らす。
ユリカが上空に意識を送る。
「私もまだまだね。 6人だったわ」
「人間やめてるやつって、結構いるんだな…」
ユリカとベティが空を見上げる。
「何だありゃあ? 巨大な… 龍?」
「そうね。 龍ね」
「強そうだな」
「ええ。 こういう時、即死能力者がいれば楽なんだけど…」
「確かに、運よくそういうヤツと潰し合いしてくれればいいんだけど…」
「…あら、もう1人気配が増えたわね。 あなたの能力はそんなこともできるのね」
「ああ、本気で願えばできるな」
「ふーん。 できれば、龍の方に勝ってほしいわね」
「無理だろな? 即死能力の方が強いだろ。 多分あいつの能力はそれ系だよ」
「そうね… あ、龍が死んだわ」
「このまま、街のやつらも倒してくれたら最高だな」
「街に向かったわね。 気配がどんどん消えていくわ。 ちょっと、これじゃあ、つまらないじゃない。 1人ぐらい残すように願いなさい」
「え… めんどくさ」
「いいから… そうしないと、もうセッ○スするしか無くなるわよ」
「え… ええっ… いや、仕方ないなぁ。 じゃあ、願うよ」
「…よし、いいわ。 1人気配が残ったわ。 即死能力者かしら? それとも、他のかな? 今までにない能力だといいんだけど」
「はぁ… 何もしなければ、楽だったのに…」ベティはあきれた顔でユリカを見つめる。
ユリカたちは街に入ると、宿を取り荷物を置く。
「さて、ベティ。 私が戦ってくるから、あなたはこっちを頼むわ」ユリカはベティにお金を渡す。
「え? いいのか?」
「ええ、1人相手なら、1人の方がやりやすいからね。 あ、私にもしものことがあったら、この子、お願いね」ユリカはリジェの入った瓶を示す。
「あ、ああ。 と言われても、どうすればいいか分からないが…」
「簡単よ。 この子の頭に骨が刺さってるでしょ? これを外せば復活するわ」
「ふーん。 なら、さっさと復活させてやればいいのに」
「まだ早いわ。 もう少ししてからね。 それじゃあ、ね」
ユリカは宿を出て、1人残った能力者の方へ向かった。