私はご飯派
ー朝 宿の近くの食堂
「佇まいは中世の西洋みたいなのに… ご飯があるなんて最高ね。 つくづく都合のよい世界だわ。 あなたはせっかくの港町なのに… パンで良いの?」ユリカは焼き魚を頬張る。
「いや、そもそも私たちは食べなくてもいいだろ。 私は付き合ってパンを食べてるだけだよ」
ベティはパンを一口大にちぎっては、マーガリンを塗って口に運ぶ。
「そうね。 けど、食べてると生きているって感じしない?」
「…まあ、前の習慣で食べているって感じはあるな」
「でしょう… あ、ところで昨日…」
とユリカが言い出したところで、ベティの顔色が赤らむ。
「昨日の事は、な、なりゆきだ… わ、忘れろよな」
「いいえ、そうはいかないわ… あなた、私のこと人格破綻者って言ったでしょ?」
「えーー。 根に持つか、そんなこと」
「ええ、忘れないわ」
「いやいや、心当たり無いのかよ。 どう考えてもサイコパスだろ?」
「そんなことないわ。 以前サイコパス診断テストをしてみたけど、どれも合わなかったわよ」
「あれは、そんな正確なもんじゃないだろ… ちなみにどんな回答したんだ?」
「どんなと言われても… なんかいっぱいあったでしょ?」
「じゃあ、あれだ。 ビルから○人現場を見たAさんに対して、犯人と思われる人間が指さしてるやつ」
「ああ、あれね。 確か… そのビルの反対側に別の人間がいて、その人間を惑わして油断させるためね。 先に反対側のビルの人を口封じしてから、Aさんの所に行くわ」
「分かった。 サイコパスじゃない。 何かヤバいやつだわ」
「失礼ね。 だって、普通気付いていても気づかないふりをするでしょ。 というかそもそも、建物の近くで犯行しないでしょ? 問題がおかしいのよ」
ベティは少し、興味が沸いていた。
「じゃ、じゃあさ。 あの一家惨○事件のやつは? 一家をダイニングに集めてから、家に残ったのはなぜ?」
「あれはー。 ダイニングに集めたのは、捜査の手間を省いてあげるためよ だって、そんなことのために税金を消費するのはもったいないじゃない。 まあ、私は税金払ったことないけどね。 それでも労働力の無駄は削いであげないと。 確か模範解答は、家族団らん? を楽しむとかだったわね。 その家族が仲良かったかどうかも分からないのに、そんなことしないわ」
「つ、次は…妻の葬儀中にあった妻の友人に一目ぼれ。 その晩、子どもを○しちゃった夫。なぜ?」
「子どもをレ○プして、その勢いで○した」
「その発想はなかった…」
「それ、いろいろバージョンがあったわよね… 親戚のバージョンなら模範解答も分からなくはないけど… この場合だと、葬儀で出会える可能性が低いでしょ。 そんな低い可能性なのに子どもを○すリスクは侵さないでしょ? それに、そもそも喪主でしょ? 普通に連絡先を調べて出会う方法を考えるわ」
「まあ、いいわ。 でも、さっきから模範解答って言ってる時点で、どうかとは思うけど」
「あら? だって、この診断テストに臨む人って、サイコパスであることを期待してるんでしょ? だったら、模範解答が適切な表現だと思うけど…」
ユリカは魚の骨に残った身をつまんで、食べていく。
「そうですか…」ベティはコーヒーを口につけて啜る。
「そうよ。 これはあくまで遊びよ」ユリカはナフキンで口を拭くと、店員を呼び留めて紅茶を頼む。
「冷めると嫌なの… ちょっと、待たせるけど、ごめんね」
「大丈夫だよ。 私もゆっくり飲むから」
「ところで… 話は変わるけど。 あなたは転生前にどんな説明を受けたの?」
「説明? 別に普通だけど、能力を考えろってことと、これで神が決まるってこと… ぐらいかな」
「そう。 じゃあ、私とあまり変わらないわね」
「どういうことだ? 変わることがあるのか」
「…ええ、以前戦った人が、私の知らない情報を言ってたのよ」
「あれが気まぐれなのか… それとも…」
「力を与えてる存在が複数いる」
ユリカの前に紅茶が運ばれる。ユリカは一礼し、ソーサーを目の前に置き、紅茶を飲み始める。
「じゃあ何か? 戦っている私たちが神になる…じゃなくて、力を与えたやつが神になる。 ってことか?」
「話が早いわね。 そういう可能性も高いってことよ」
「ふーん。 じゃあ、私たちはゲームプレイヤーじゃなくて、駒ってことか」
「そうそう。 わー。 うれしいわ。 お話が通じる」ユリカの紅茶がすすむ。
「お前、いままでどんな奴らと戦ってきたんだ」
「基本的に話すことないから」
「まあ、想像できるわ。 そんな間もなくやってしまいそうだもんな」
「よく分かってるじゃない」ユリカがカップを置く。ベティも同時にカップを置く。
「私の事もそっこーでやりにきただろ? それぐらい想像つくさ」
「そうだったわね。 そんなこともあったわね」
「過去形にするには、真新しすぎる出来事だけどな」
「それじゃあ、出ましょうか… わざわざ合わせてくれてありがとうね。 優しいわね」
「はあ? んなわけないだろ。 手持無沙汰になりたくないだけだよ」
ユリカは会計を済ませて店を出た。
昼食用の食べ物や日用品を買って、馬車に乗せていく。