私は寝る
潮の香りがした。
「へー。 こんなとこに海があったんだな」ベティが荷台から身を乗り出す。
「あら? そんなに離れていないのに知らなかったの」
「ああ… 基本的にあの街から出てないからな」
「ひきこもり?」
「うるさいわね。 私は能力的に、うってでるよりもむかえうつほうがいいから、構えていただけよ」
「そうね。 懸命だわ」
港町が見えてきた。
「結構大きな街ね。 宿は海沿いがいいわね。 あと、お魚も食べたいわ」
「お金は大丈夫なのか? いくら儲けたとはいっても… 私は着の身着のままで出てきたから一銭もないぞ」
「ええ、ばっちりよ。 私に考えがあるの」
「考え…?」
ユリカはベティを連れて、港の近くのカジノを訪れていた。
「ろくな考えじゃなかったわ」ベティはあきれながらスロットの数字を止めていく。
「いいじゃない。 能力は使いようよ」ユリカはせっせと吐き出されるメダルを箱に入れていく。
「至福の雑用ね。 これで、お金に困ることはないわ」
「あ… また揃った」
「じゃあ、次は台を移動しなさい。 そっちでも大当たりを引くのよ」
「へいへい」ベティはぶっきらぼうにレバーを叩く。
結局すべてのスロットで大当たりをたたき出したところで、ベティは出禁を言い渡された。
「バカね… 引き際を考えなさいよ。 おかげで、明日来られなくなったじゃない」
ユリカが大量のお札を数えながら、ベティを罵倒する。
「いやいや… だって、移動しろって…」
「全台空にしろとは言ってないわ。 まあ、換金させてくれたから別にいいけどね。 一度に搾り取るんじゃなくて、少しずつ収穫することも覚えとくのよ」
「うるせー。 これでも、経営してたんだ。 それぐらい知ってるわ」
「じゃあ、実践しなさいな… ついでに…こっちの実践も見せてもらおうかしら…」
ユリカが路地の方に目をやると、一人の男性が立っていた。
「ああ… いいけど。 何か武器ある?」
「どうぞ」ユリカは針を手渡す。
「おいおい… これを武器と呼ぶ世界線は多分存在しないぞ」
「勝てるでしょ? 運が良ければ」ユリカは小悪魔のような笑みを浮かべて挑発する。
ベティは針を受け取り、男性の元へ向かっていく。
月に照らされ男性の表情は見えない。
男性は手をベティに向ける… 向けようとしたが、その手が上がらない。
反対側の手を伸ばそうとするが、それも上がらない。
声を出そうとするが、喉が詰まって発声できない。
そのうちにベティは男性の目の前に届いた。
ベティは男性の足の皿を蹴って、態勢を崩した。
崩れたところで、ベティは男性の喉に針を刺す。
その一撃で、男性はこと切れた。
運よく男性の急所を貫いていた。
ベティは揚々とユリカの元へ戻る。
「ざっと、こんなもんよ」
「さすがね…」ユリカは銃を取り出すと、すぐに引き金を引いた。
「ちょ… なにすんだ」
「けど、甘いわね」ユリカが放った銃弾は倒れた男性に当たり、とどめとなっていた。
「ちゃんと、とどめをさすのよ。 できれば、バラバラにしなさい。 そうしないと足元をすくわれるわよ」
「…コワ」
「さて、後始末は私がしておくから、あなたは宿をとって、お風呂にでも入っていなさい。 宿のチョイスは任せるわ」
「…そうか。 じゃあ、そうさせてもらう」
「それから… これ、どうぞ。 衣類もないでしょ? そこにお店あるから買いなさいな。 1時間後に… そうね。 向こうの時計台の前で待ち合わせしましょう」
ユリカはベティにお金を渡すと、倒れた男性の元へ向かい、海まで引きずっていく。
ベティは癪に思いながらもユリカの言う通りに、お店で服を買い、海沿いの宿を取り、部屋に備わっているシャワーで体を洗い流した。
入念に体を洗い、水気を拭き取ると、服と一緒に購入していた香水を吹きかける。
(…いや、これはあれだ。匂いが気になるからな…そう。 お店に行く最低限のマナーだから)
新しい服に身を包み、宿を出て時計台へ行く。
(もうすぐ1時間。 いや、律儀に待つ必要はないと思うけど… というか、一緒にいる必要もないんだけど… あんなサイコ女… けど、まあアイツを見極めたいからな… そう…そのために仕方なしにだ)
道の向こうにユリカの影が現れる。
ベティは歯で自分の口の内側を噛む。
ユリカはあのふてぶてしい、生意気そうな微笑を浮かべている。
「遅いわ。 5分遅れ」ベティは時計を指さす。
「ごめんなさいね。 ちょっと、能力を調べておきたくて」
「あら。 どんな能力だったの?」
「人を操る能力みたいね」
「…どうやって分かったの?」ベティがユリカを睨み付ける。
「詳細は言えないけど… 私の能力を使ったのよ」ユリカは人差し指を口に当てる。
「そう… お前が操られてないといいけどな。 もしくは、本当は乗っ取る能力で…お前は乗っ取られてるとか…」
「だったら、面白いわよね。 どうする?」
「どうもしないよ。 なにされても大丈夫さ。 私は運がいいからな」
「そう、それじゃあ… 食事にしましょう。 そこの酒場… お魚が美味しいらしいわ。 変な形の魚じゃないといいわね」
「大丈夫だよ。 食べ物…というか生き物は大体元の世界と変わらないよ」
食事を終えた二人は、宿に入った。
ユリカは窓の外を眺める。
「いいセンスね。 綺麗な海に、そこに浮かぶ月… 私こういうの好きだわ…」
「意外に…ロマンチストなんだな。 人格破綻者のくせに」
「いい悪態をついてくれるわね。 そういうのも好きだわ… じゃあ、お風呂もらうわよ」
「はいはい。 どうぞ」
「一緒に入る?」ユリカはベティの耳元で囁く。
「な…何バカなことを… 狭いだろ」「あら、それがいいんじゃない」「バカなこと言ってないで、早く入れよ。 血生臭いぞ…」「あなたはとてもいい匂いね。 まあ、疲れたでしょ。ベットで横になっておくといいわ」「言われなくてもそうするよ」
ユリカはタオルを持って備え付けの浴室に入る。
(私と対峙したとき… それと馬車の荷物… どう考えても、まともとは思えない。 けど、普通にご飯も食べるし、笑うし、それに景色を綺麗と思えるし… 人だよな。 というか、そもそもだ… 命の扱いに関しては私もあいつの事言えないしな。 今日だって、あの男を倒すのに、何の躊躇も感情もなかったし… 私も、とっくに人じゃないのかな…)
ベティが悶々と布団にくるまっていると、浴室のドアが開く。
それと同時にユリカの声がする。
「これからどうする?」
「うん… 寝る」
「そう… 寝るのね。 じゃあ、私も寝るわ」
(…あ、もしかしてベッド譲れってことか… でもなあ… 面倒だし)
ベティはユリカの方を向く。
ユリカは何も身にまとっていなかった。
(綺麗…)ベティはユリカの肢体に見惚れてしまった。
「これ、借りていい?」ユリカはフリフリと香水を揺らす。
「いいけど。 ってか、な、何で裸なんだよ。 服着ろよ」
「これから寝るのに、服を着るのは非効率的よ」
「え…いや、何言ってんだ」
「あなたが大人の女性か、子どもか… 寝ると言えば大人。 眠るといえば子ども」ユリカは香水を振りかける。
ユリカはベッドに迫り、布団に潜り込み、ベティの服のボタンを外していく。
「ちょ、ちょっと、マジで… なにするんだよ」
「一つのベッドで、二人がすることと言えば一つしかないでしょ」
「マジで… 分かんねぇ…」
抵抗が緩んだ瞬間、ユリカはベティの血色が良い唇に、自分の唇をゆっくりと重ね合わせていく。
ユリカはベティの衣服のボタンを外していく。 ベティは腕を上げ、されるがままに脱がされていく。衣服をはだけさせると、ユリカはツツっと、ベティの柔肌に指をそわす。ベティは声を上げるが、それはむしろユリカをより高揚させた。
(なんだこれ… この女ヘンタイかよ。 けど… 今までで一番… 人らしい顔してるな…
あっ…ん)
声が漏れる。吐息が荒くなる。
すでにショーツ以外はすべて脱がされていた。
「綺麗ね」ユリカがつぶやく。
「…ありがと」
ユリカはベティの胸に顔をうずめる。
「鼓動… 速いわね」
「…うるさい。 初めてなんだ。 仕方ないだろ」
「え? その感じで、初めてなの?」
「う、うるさい。 べ、別にいいだろ」
ユリカの動きが止まる。
ベティがユリカの方を見ると、ユリカの目が夜空の星のように、きらきらと輝いていた。
(は? なに、こいつこんな顔すんの… ず、ずるいだろ。 かわい、すぎんだろ)
ユリカはもう一度、ベティと口付けを交わし、乳輪の周辺から徐々に愛撫していく。
何度も濃厚に、唇を重ね、手でベティの胸を愛撫し、太ももをこすり合わせ、肌を感じていく。
唇を離す、濃厚な糸がアーチを描く。
ユリカは指でそっと糸を拭うと、今度は顔を胸に落とし、ベティの胸に舌を這わす。
同時に片手で、ショーツ越しにベティの秘部をなぞる。
とうとう、ベティは声をあげてしまう。
同時にベティの理性という壁が崩壊する。
(もう…いいや。 どうにでも… なれ)
ユリカの愛撫に身を任せる。
「…腰、ちょっと上げてくれるかしら?」
「ん」とだけ、応えベティは両膝を立て、足と背中に力を入れて腰を持ち上げる。
ベティは尾てい骨の両端に体温を感じる。その体温は徐々に太ももへと移っていく。
「…綺麗ね。 ベティ、あなた最高よ」
「ど、どうも…」
ベティが身を強張らせる。
しかし、すぐには何の刺激も来ない。
ベティはじれったくなって、顔を上げる。
赤らんだ顔、ひそまった眉、だらしなく少し空いた唇に溶けたような目。
「随分と… ものほしそうな顔をするのね?」それとは対照的にユリカは余裕の笑みを浮かべている。
「…いじわるっっ。 やるなら… 早くしてよ」ベティはか細い声で、せめてもの抵抗をした。
「あら? 止めてもいいのよ」ユリカはじらす
「え?」既にベティ体は受け入れる態勢に入っていた。
「冗談よ。 あまりに可愛いから、意地悪しちゃった。 ごめんなさいね」
ユリカはもう一度唇を重ねると、ゆっくりとベティの身体を這いながら下半身に降りていき、その秘部を舌を使って愛撫する。
ー暗転
ベティはユリカに背を向けて眠りについている。
ユリカはベティの背中に胸を押し付けるようにして寝ている。
ユリカはベティの髪を何度も手櫛でほどいている。
「ほんと、あなたで良かったわ」