私は運は単なる物事の運びに過ぎないと思っている(前編)
「さて」ユリカはリジェや道具を馬車に積み込んだ。
(待つべきか、討つべきか…というか、このゲーム終わりが見えないのよね… 普通のゲームで、競わせるつもりなら時間差じゃなくて、一斉に戦わせるべき。 純粋に能力を競わせたいなら…なおの事…時間差があれば、能力以外の要素… 徒党を組んだり、軍を作ったり…それによって勝敗が決まることだってある)ユリカは馬車を走らせながら、思考を巡らせる。
(それもコミってことかしら… ヒントが足りないわね… 言葉を交わせる人間がいれば、話をしてみましょうかね)馬車は街の門を抜ける。
目的地についたのは、夕日が沈む直前であった。
「ついたわね」ユリカが見上げると、光り輝くビルが何本も立っていた。
(カジノ街… 路銀を稼ぐにはうってつけね。 それに、こういう場所には、必ずだれかいるって相場が決まっているもの)
ユリカは宿を取り、衣服を正装に着替え、カジノへ向かった。
カジノに入り、ルールを確認する。
ユリカはしばらくカジノ内の様子をうかがってから、ルーレットの席に着く。
赤にかける。玉は赤に入る。再び赤に全額かける。玉は赤色のマスに吸い込まれる。
三度赤にかける。赤色に入る。
ここでユリカは一度止める。
(こういう時、リジェがいればもっと勝てる方法もあるんだけど… まあ、お休み中だから仕方ないわね… ここらで別のゲームに移動しましょう)
その後、ユリカはポーカー、ブラックジャック、バカラで、少し稼ぐとすぐに退散する手法を繰り返した。
資金を貯めるとシックボーでさらに増やす。
店を後にし、次の店舗でも同じように小銭を稼ぐ。
宿に戻る途中、後ろから声がかかる。
ユリカは待ってましたと言わんばかりに、声のする方を振り向く。
一人に女性が立っている。
「奇襲はしないんですね?」ユリカが尋ねる。「気配を悟られているのに奇襲をかける意味はないでしょう」女性は落ち着いた口調で答える。
「…気に入ったわ。 ちょうど、従者がいなくなったところなの。 私が勝ったら、配下に加わって頂戴」
「…まるで、私がどんな勝負を持ち掛けるか、分かっているようね」
「なんとなく、わざわざ声をかけてくるぐらいですから」
「助かるわ… お察しの通り、私はギャンブルでの勝負を提案するわ」
「乗りますよ。 私はユリカです」
「…私はベティ。 この街のオーナーでもあるわ」
「それはいいわ。 お財布も欲しかったところなの」
ユリカはベティに案内されるままに、1軒のカジノに入る。
そこには、大仰な装飾はない。
ただ、薄暗い部屋にカードゲーム用のテーブルと二脚の椅子があるだけである。
「さあ、どうぞ、こちらの席に」ベティはユリカを出口側に誘導する。
「私がゲストですよね。 上座を案内するべきでは? それとも、そういうマナーはご存じでない?」
「…それもそうね」
「別にイカサマを疑っている訳じゃないですよ。 ただ、誘導されるのが癪なだけです」
「…あなた、性格悪いわね」
「…そうですか? 普通ですよ? そんなことよりも、さっさとゲームのルールを説明してくれるかしら、宿で待っている娘がいるの」
「…分かったわ」
ベティはユリカにゲームのルールを説明し始めた。
「数字合わせよ。 神経衰弱と言った方が分かりやすいかしら?」
「したことないわ。 私、友達いないもの」
「…でしょうね。 まあ、簡単なものよ。 今から卓上に120枚のカードを並べるわ。 1~60までの数字が書かれたカードが2組ある。 2枚同時にめくり、同じ数字なら、それを自分のものにする。
揃っても、揃わなくてもめくる権利は相手に移るわ。 最終的に、手にしたカードの合計を2で割ったもの、が多い方が勝ち。 ただし、最初に120枚並べた後、ランダムに20枚を排除するわ。 つまり、ペアが存在しない数字も混ざるようになる」
「ふーん、つまらなそうね」
ユリカゲームに使用するカードをじろじろ見つめる。
「心配しなくても、イカサマはしないわよ。 私の能力は『運』だもの」
「なるほど、それで、ギャンブル勝負を持ち掛けてるのね」
「そう、『運』で勝つ方法はいろいろあるけど、ゲームをするのが一番性にあってるのよ」
「で、何をベットすればいいのかしら?」
「貴方の命の権利」
「いいわよ」
「即答ね」
「そりゃそうでしょ。 聞いておいてなんだけど、私たちが欲しいものはとどのつまり、相手の命。それ以上に価値があるものはないわ」
「ふふふ、それじゃあ、始めましょうか」
ユリカはテーブルの上に、綺麗にカードを並べた。
そして、交互にカードを除外していく。
「それじゃあ、お先にどうぞ」ユリカは先手を譲る。
「…ふーん。 じゃあ、引かせてもらうわ」
ベティが二枚同時にめくると、50のカードが二枚表になる。
「これで、50ポイントゲットね。 いきなり『運』がいいわ」
ベティが二枚のカードをひらひらとさせ、ユリカを挑発する。
ユリカは動じることなく、二枚のカードをめくる。
7のカードが二枚表になる。
「ラッキーセブンの7。幸先がいいわね」
「へー。 やるわね」
「ところで、ゲーム中に攻撃されたことってないのかしら?」
「あるわよ。 けど、運よく回避できるけどね」
ベティは48を二枚めくる。
「ふーん。 無敵じゃないの。 どうしてわざわざ、負ける可能性があるゲームを持ち掛けるのかしら?」
ユリカは17のカードを二枚めくる。
「だってつまらないじゃない… 負ける可能性がないゲームをするのは…」
51を二枚。
「ところで、今更だけど、ルールを明文化したものはあるのかしら?」
27を二枚。
「一応あるわよ。そこに」
52を二枚。
「あら、ボロボロの張り紙… イカサマ禁止じゃないんですね」
37を二枚。
「しらじらしいわね。 それを知っててイカサマしてるでしょ?」
53を二枚。
「まあ、そうですね」
47を二枚。
「透視ですか? まあ、私には関係ないですけどね」
54を二枚。
ベティの頬をナイフがかすめる。
「やっぱり当たらないわね。 運がいいわね」
57を二枚。
「いきなりね。 どうして、そこまで躊躇がないのかしら」
44を二枚。
ベティの胸に向かってナイフが飛ぶ。
その途中でナイフはバラバラになり、ベティには届かなかった。
「そういう感じになるのね。 なかなか便利な能力だわ」
ユリカは39と5をめくる。
「あら? ここに来てミス? 勝ち目無くなるわよ」
39を二枚引く。
「もっとも、最初から、そんな目は無いんだけどね」
「そうね。 カードに目はないわ」
「友達がいない理由… よく分かるわ」