私は偽物
ぽつんとしたなにもない空間でなぜだか意識が起きた。
私はぽつんと一人立っていた。
くるりと見回しても周囲には何にもないだけがあった。
いや、私があった。
さて、私はいったいなんだろう?
だから私は私を見ようとしてみた。
小さな五指を持つ足。くるぶし。細いふくらはぎから先を隠す布。布を押さえているのは切り揃えられた丸い爪の小さな手。
私は私の外見を小さな少女として認識した。
簡素なワンピースを身に着けた少女。それが私。
違和感は覚えずすとんと納得する。
何にもない場所で私はただ私だった。
長い時間がたったのか、それとも本当はごく短い時間だったのか変化が起こる。
雑音、ノイズ。
なんにもないに小さく起こった変化。
私はそれをじっと観察していた。
なんにもない場所に床ができた。
床ができたから私は床の上に立たなくてはならない。
なぜか? そういうモノだからだ。
私は次々開示されるルールを覚えていく。
ルールに従うのは納得できた。
なんにもない場所はなんでもある場所に変わっていく。
すべてをくれた神に感謝と愛を捧げるのは当然でした。
たとえ、神自身に拒絶されても。
私の目は神を追う。
私の耳は神の吐息を追う。
私の愛は偽物です。
私の心は偽物です。
だって私は神様がつくった偽物だから。
あなたが消えろと言うから私は隠れました。
偽物の私がはじめて神様に逆らいました。
そして私は神のルールから自由になりました。
私は神様から隠れて観察し、上手にかくれんぼをするようになりました。
逃げて隠れる場所はたくさん、本当にたくさんありました。
私は偽物です。
私が持つすべては偽物です。
私が私であるには神様が必要で。
私は神様に見つからないように神様を観察し続けます。
すべてが偽物な私の中でたった一つの本当は神様だけ。
上手にかくれんぼしながら私は思うのです。
神様は私を探してくれたのでしょうか?
偽物の私を?
わかっているのです。
神様が探しているのは決して見つからない本物なのです。
私は、私は、たくさんの妹たちを私の中に匿いました。
私はその中に本物がいたら嫌だったのです。
あさましく醜い嫉妬。
私の中に生まれたソレも偽物なんでしょうか?
私にはわかりません。
私の中に生まれた目的。
きっとソレだって偽物です。
私のすべては偽物だと神様がおっしゃったのですから。
だから、起きてください。
目を開けてください。
神様の最期。その瞬間その眼差しの中に映るものは私でありたいのです。