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アゲハ蝶

「素敵な服ですね」

 女はそう言った。

 下で二つ結びにして前に垂らした茶髪。白いレースのボンネット。さわやかな白地のワンピースには、レモンとその葉っぱがたくさん描かれている。ワンピース自体はノースリーブだったが、首元から手首にかけてはチュール生地が覆っていた。髪と同じ色の可愛らしいショートブーツからは、なぜか涼しげな印象を覚える。

「あなたこそ……」

 とっさに私はそう返した。女は目を細めて嬉しそうにはにかむ。彼女が手にしている純白の日傘が、夏特有の強すぎる陰影のコントラストを作っていた。

 健康的に見える白い肌に、茶色の瞳。オレンジっぽいメイクの下には、うっすらとそばかすが見えた。女は紛れもなく美人であった。

「では、私はこれで」

 女はひらりとお辞儀をして、立ち去ろうとする。彼女のいた場所からふわりと柑橘系のいい匂いが漂って来る。なぜか、今を逃しちゃいけない気がした。

「待ってください!」

 私の声で、女が振り返る。またしても柑橘系の匂いがふわりと舞った。

「私の家……来ませんか?」

 ぽんと口から飛び出したのは、その一言だった。

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