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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

死が2人を別つ時まで

作者: 柚ゆから
掲載日:2021/04/07

別に今まで特別運が悪いと嘆くような事はなかった。


強いて言えば、iPhoneを持っていた指に鳥のフンを落とされたくらいだ。


それぐらいの出来事で運が悪いと少し拗ねる程度でしかなかった。


人というのは少しの違和感には鈍感で、気づいた時には全て失ってたという事もありえるくらい、見たいもの以外をキャンセルする機能を備えているらしい。


僕は全部を失ってはじめて、この世には運命というものがあるのだと身をもって経験してしまった。


愛していても、合わないものが、あるのだと知ってしまった。


不幸とはこの事だと叫び出したいほどに、この世の全てを憎んでしまいたいほどに。


今思えばあの時から始まっていたのかもしれない。


それは、まさに、幸福の大絶頂だった、恋人になったばかりのユウキとはじめて夜を共にした次の日だった。


帰宅しテレビをつけて驚いた。


ニュースで2人の共通の友人が交通事故に巻き込まれていたのだと知った。


事故の具合がどの程度なのかニュースで知ることができなかったので、心配しているというLINEを送って、ユウキにも連絡を入れた。


するとすぐ連絡が来た。


ユウキは泣いていた。


昨日の夜、どうやら事故前の友人から着信が入っていたらしい。


出ていれば何か変わっていたのかもしれないと後悔に暮れた声で泣いていた。


必死に慰める言葉を紡ぐけれど、きっと、言葉は上滑りして、ユウキの心には届かないことはわかったいた。


会って抱きしめて落ち着くまで傍にいたい。


そう口に出すと、ユウキは、来て、と嗚咽混じりに呟いた。


迎えてくれたユウキの目は真っ赤で溶けていた。


静かにただ抱きしめて背中を撫ぜる。


その夜はただ寄り添い過ごした。


その友人以外の共通の友人がいないので誰にも容体を聞けぬまま、一週間は過ぎた頃、友人のLINEが消えていることに気がついた。


ユウキにも聞いたが、ユウキのからも消えていて、ただただ心配が募った。


ニュースはもう別のものでもちきりで、交通事故は過去になっていた。


すべてわからないまま友人との縁が途絶えた。


ユウキはまた泣いていた。ユウキもまた共通の友人がいなかった。


2人だけが共通の友人だった。


それからしばらくは、ユウキを慰めながら、慰められながら、静かに過ごした。


しばらくして、久しぶりに夜を共にした。


ぬくもりと幸せを感じた。


その次の日、家の一部屋燃える程度の火事になり、ユウキの実家は泥棒に入られ少額だけど盗られた。


誰も傷つかなかったのはよかったけれど、住まいやお金を少し失った。


これを機に同棲でもしようかと家を探し、とてもいい家にめぐりあえ、同棲することになった。


その日から悪夢を見るようになった。


ユウキは悪夢は見ないようで、寝つきの悪くなっていくのを心配して気持ちよく寝れるにはどうしたらいいかと寝具にこだわってみたり匂いだったりご飯だったり運動だったり色んなことを考えてサポートしてくれた。


けれど、悪夢は終わらなかった。


気持ちは救われても、体は救われなかった。


久しぶりに悪夢を見なかった。


ふと意識が浮上して目を開けたら、知らない天井と気持ち悪さと違和感が渦巻いていた。


辟易としながら、隣を見た。


知らない人がいた。


ゾッとして、血の気が一気に下がった。


悪夢を見ずに済んだのに、ただ起きたら悪夢がそこにあった。


全身に広がる自分への嫌悪を飲み下しながら静かに、自分のものを回収して部屋を出ようとした。


とにかく、ユウキに連絡をと、注意散漫になっていた。


後ろから起きていたのか知らない人が、よく眠れた?と笑ってきた。


一体何がどうなっているんだ。


最近眠れないって泣いていたから、一緒に寝ただけ、それだけの関係。


奇妙な気持ちになった。


知らない人はミツと名乗った。


ミツは、もう帰る?恋人への連絡は昨日してたから、ゆっくりしたらいいのに、と笑う。


いやらしくない、さっぱりとした笑い方だった。


表情の中に優しさが見てとれた。


やはり恋人のことが心配だから帰るというと、それならまた眠れなかったらおいでと笑って送り出してくれた。


不安気なユウキを抱きしめて、痩せたなと思った。


同棲してから、ユウキは悪夢ではなく、体調不良に悩まされていた。


我慢しているみたいだけど病院を何軒か通ってみたものの原因はわからないままだった。


悪夢への前向きなサポートは嬉しかったけれど体調不良へのサポートが病院へ連れて行くことや家事の負担しか思いつかず、悶々としていた。


知らない間にお互い財布や鍵を落としたりが日常茶飯事になっていた。


そんな中、心身共に限界を迎えてしまい、自分の弱さに負け、ミツに会いに行った。


ミツは顔を見るなり軽快に笑いながら迎え入れてくれた。


心がふわっと軽くなった。


ミツの傍はよく眠れた。


ミツは心地の良い人で、もしかしたらユウキにも良い効果があるのではないかと、そっと今の状態を打ち明けてみた。


ミツは大袈裟なくらいお腹を抱えて笑った。


何故それほど笑われなければならないのかと怖くなって怒りに震えた。


ミツはユウキとは合わないと言った。


会わないではなく合わない。


意味が理解できなかった。


ミツはアドバイスと言って明朗に笑った。


お互いが悪い訳ではないけれど、合わさると悪いということがある。


それはどんなことをしても覆らない。


これは可哀想だけど物語じゃない。


不運も悪夢も体調不良も、2人でいたいなら、一生終わらない。



選ぶのは自分達。



ミツと別れた後、ユウキにミツから言われたことを話すと、お互いの今後について、泣きながら永遠にもとれるくらい長い時間話し合った。



選ぶのは自分達。



ミツの声がこだましていた。




分岐1


愛してる。



少し窶れたユウキは今までで一番綺麗に笑った。


手に持ったそれがキラリと光った。


永遠に傍にいる。


強烈な愛が真っ赤に爆ぜた。


霞んでいく視界にうつるのは、夕陽に晒されて、女神のように美しい、真っ赤な液体塗れの、ユウキの笑顔だった。



暗転。




分岐2



もし、このままだとしても、愛してる。


一緒に生きよう。


ユウキと他人との関わりを極力減らし、家に閉じこもることにした。


ミツとはそれから会うことはなかった。


悪夢も体調不良も続いてはいたけど、慣れもした。


自分達以外の他の家族が相次いで入院したけれど2人なら乗り越えられると信じた。


厳しい未来になるとわかっていたから、お互いに躊躇いはなかった。


他の家族と縁を切った。


きっとこれで好転するはずと、自分達に言い聞かせた。


2人で生きていける。


愛し合ってる2人なら、2人だけで構わない。


お互いにお互いを囲い閉ざした。



そして死が2人を別つ時まで、世界は廻る。





死が2人を別つ時まで、か!言い得て妙!


ミツは膝を叩いてコロコロ笑った。



Twitterで書いたものをまとめさせてもらいました。

一人称は付けず、名前も中性的なものにさせていただきました。

あなたは、主人公は男だと思いましたか?女だと思いましたか?ユウキは?ミツは?

少しでも面白いと思っていただければ幸いです。

ありがとうございました。

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