【短編】アニメ開始1秒で魔王に殺された女勇者を救うためアニメの世界に転生したけど、気が付いたら俺は魔王に転生していて突き出している剣に彼女が串刺しになっているから助けようとしてももう遅い?
短編投下します!
『勇者召喚エウロピア戦記』というアニメがメガヒットした。
これはキャラクターやシナリオが優れていたのはもちろん、多くの『無名の美少女』がどんどん殺されていくという類を見ない残酷な物語だったからだ。
第1話の冒頭から見目麗しい女勇者が魔王に殺されたり、魔王直属の美少女秘書が生贄に捧げられたり、勇者と恋に落ちかけた村娘が井戸にはまって死んだり、危険を知らせようと夜道を走っていた少女が崖から落ちて死んだり…毎話必ず美少女が1人以上死ぬのだ。
それも無名の。
殺されるだけでも気の毒なのに、彼女たちは『設定上の名前はありません』『特に背景もありません』といったぞんざいな扱いを受けている。
そのくせその全てがヒロインクラスの美少女で『なんで殺した!』という非難が殺到している。
特にひどいのはアニメ開始1秒で死んだ女勇者だ。
アニメが始まった途端、魔王の持つ剣がアップになり、そこに女勇者が串刺しになっていた。
「ギャーハッハッハ!」
魔王は高笑いをすると、そのまま女勇者は炎に包まれて焼き尽くされた。
彼女のセリフは一言も無い。
故にエンドテロップにすら登場しないという最も悲惨な登場人物だ。
こうやって熱く語る俺は言うまでもなくこのアニメの大ファンであり、この女勇者を何としても助けたくて二次創作の小説まで書いているくらいだ。
魔王が殺しかけたところでやめて、魔王の配下になるパターン。
魔王の弱点を見つけて魔王に一矢報いて逃げ出すパターン。
実は死んでいなくて、あとで登場するパターン。
などなど、思いつく限りの『生きる可能性』を創作していた。
そんな俺がなんとも不運なことに、交通事故で死んでしまった。
人生最期に見たのが顔面蒼白の美少女女子高生だったのは運が良かったのかもしれないが。
そんな事より、今、目の前に女神様が居る。
「もしかして、異世界転生ですか?」
「そうよ。最近の日本人は説明が楽で助かるわ」
「それって、アニメの世界にも転生できますか?」
「どういうアニメかしら?」
「それは…」
『勇者召喚エウロピア戦記』の事を俺は熱く語った。
「有名なアニメや小説であれば異世界が形成されているから可能よ。『勇者召喚エウロピア戦記』は条件を満たしているわ」
「本当ですか!」
それなら助けられる!
「でも、まだできたばかりの世界だから…」
「お願いします!どうしてもその世界に行きたいんです!」
「俺は『運命』を覆したいんです!」
「わかったわ。がんばってらっしゃい」
俺は優しい女神様のおかげで『勇者召喚エウロピア戦記』の世界へと転生した。
…あっ、誰になるかお願いしてなかった。
いや、誰になってもかまわない。
俺は『勇者召喚エウロピア戦記』の知識をすべて持っているんだ!
だから誰になってもあの女勇者を助けるぞ!
ざくっ
手に感じる妙な手ごたえ。
俺は自分の意識が覚醒すると同時に目の前に信じられないものを見た。
剣に貫かれている女勇者を。
俺の持っている剣で貫かれている女勇者を。
「ギャーッ!」
魔王の高笑いは悲鳴になった。
なんでこうなった?
そう言えば女神様が『でも、まだできたばかりの世界だから…』って言ってたな。
つまり、アニメのスタート時点からしかこの世界はできていないということか?!
ということは、どうやっても彼女が死ぬ運命を変えられないじゃないか!
ズルリ
俺が下げた剣から抜け落ちるように彼女は落下し、そしてものすごい勢いで血が吹き出す。
「止血や治療の能力は無いのか?」
魔王自身のスキルは設定上のは知っている。
しかし、実際はもっと色々持っているはずだ。
「魔王様、止血と治療なら私が出来ます」
「頼む!」
秘書である女魔族に俺は治療を頼んだ。
あっさり血は止まるが顔色は青いままだ。
「治癒はしました。しかし、すでに死んでいます」
「蘇生はできないのか?!」
「蘇生はできません」
知っていた。
蘇生術はこの世界には無い。
…いや、ある。
ひとつだけ、蘇生する方法がある。
『魂魄の魔器』
魔王城の宝物庫に収められていた、『生きた心臓を捧げることで死者を蘇らせる器』だ。
アニメではこれで『太古に死んだ災厄の魔竜』を蘇らせていたのだが、生き返らせるためには相当量の魂を捧げないといけない。
『災厄の魔竜』を生き返らせるために捧げられた生贄は人間1000人と勇者に負けて逃げ帰ってきた四天王ひとりと…秘書ひとり。
そう、そこに居る秘書はそれで命を奪われたのだ。
『あと少し足りないな。おお、丁度いい所に生きのいい心臓があるじゃないか』
『魔王様?!』
『お前は魔族としての格は高かったな』
『はい。末席ながら魔王様と同じ魔皇族ですので』
『それならばその心臓をもらうぞ』
『そんなっ!私は生涯魔王様に尽くすと決めておりましたのに!』
『ここで生涯が終わるのだから同じ事だろう?』
魔王にずっと尽くしてきた秘書は無残にも心臓を抜き取られて器に捧げられ、魔王は顔色一つ変えなかったのだ。
今思い出しても最悪の場面だった。
「生き返らせるのにどのくらいの心臓が要る?」
「等価交換ですから、人間の平民なら1000人、王族なら10人、一般魔族なら200人、高位魔族なら20人ほどです」
「多いな」
「勇者ですから当然です」
「俺の心臓ならどうだ?」
「魔王様の?!」
驚く秘書。
「俺の心臓は7つあるから少しくらい大丈夫だ」
「それでも器に捧げられた心臓は再生しません!」
「わかっている上で聞いている。いくつ要るのだ?」
「6…いえ7つ要ります」
「そうか。ならば…」
俺は自らの心臓を次々と鋭い爪で抉り出し、器に投げ込んでいく。
「ぐっ、これで6つかっ!」
「魔王様!!」
「7つ目はお前が取り出してくれ」
さすがに最後の1つは自分で抉り出して器に入れられないからな。
「そうまでしてこの者を生き返らせたいのですか?」
「そうだ。俺はそのためにここに来たのだから」
「『ここに来た』とは?」
「言ってもわからないだろう。とにかく、あとは…頼む…」
血を出し過ぎて俺の意識は薄れていく。
せめて、女勇者が生き返ったところだけでも見たかったな…。
ふっ、『運命』め。まんまと覆してやったぞ…。
「ん…ここは?」
「気が付きましたか?」
「女神様?!」
まさか死んだらまた女神様に会えるなんて!
「女神様、彼女は生き返りましたか?!」
「彼女とは?」
「俺が殺してしまった女勇者です!」
「…」
首を左右に振る女神。
まさか魔王が命をかけても生き返らなかったなんて!
「お願いです!もう一度やり直させてください!」
「無理です」
「何でもします!ですから!」
「1度転生した世界に2度は行けないのです」
「そんな…」
1度きりのチャンスだったなんて!
『運命』ってそんなにも変えられないものかよ!
「それで、今度はどうします?」
「もう、どこの世界でもいいです」
「あなたたちもそうですか?」
「そうね、あたしは別にどこでもいいわ」
「私も魔王様と一緒でしたら、どこへでも」
「え?」
女性2人の声がして振り向くと、そこには女勇者と秘書の姿が。
「どういうこと?」
「実は私の計算ミスで、魔王様の心臓7つでもわずかに足りなかったんです。それで私の心臓を入れようとしたんですけど、やっぱり自分で心臓抜いて入れるとか無理で死んじゃいました」
と、てへぺろをする秘書。
馬鹿なの?この秘書って馬鹿なのか?
「まったく、なんで魔王のくせにあたしを生き返らせようとして死んでるのよ?」
「元々俺は魔王じゃないんだよ。君を死なせないように異世界から来たんだ。そしたら…」
俺は事情を話した。
「異世界転生した瞬間にあたしを殺してた?!」
「ごめん。だから蘇生しようとしたんだけど」
「失敗したのね…はあ」
あきれたように言う女勇者。
そのままアニメの話になり、秘書がのちに殺されることも話した。
「私もそのうち殺されていたのですね」
「結果的に死なせてごめん」
「いいのです。私の意志で死んだのですから」
そう言ってくれる秘書を思わず抱きしめそうになってしまう俺。
「それにしても、女勇者って可愛い声してるんだな」
「え?」
「いや、俺の知る限り女勇者には『声』ってなかったから」
「そうらしいけど、ここではちゃんと話せるわよ」
どうしてそうなったのかわからないし助けられなかったけど、声が聴けただけ良かったか。
「ねえ、女神様」
「はい」
「とりあえず、俺はどこに転生してもいいから、この二人は今度こそ死なない世界にしてやってくれ」
「わかりましたわ」
「じゃあな、女勇者、秘書。今度こそ幸せになれよ」
俺の意識が薄れて行き、俺は再転生をすることになった。
「危ない!」
キイイイッ!
俺の腕が誰かに引っ張られて、突っ込んできたトラックは俺の直前で止まる。
「え?ここって…俺の世界?それにこれは俺の体?」
あれって夢だったのか?
「助かって良かった。この世界では『蘇生』って無理らしいですから」
「え?」
俺の腕を引っ張って助けてくれた女子高生…かなりの美少女が不思議なことを言った。
バタン
そしてトラックから降りて来た女性…すごい美人は俺の傍まで来るとこう言った。
「ギリギリだったわね。でも、死ぬ運命を覆せて良かったわ」
俺にはいったい何のことだかわからない。
「何キョトンとしてるのよ?」
「もしかして魂抜けてる?」
マジマジと俺の顔を覗き込んでくる二人。
「あたしたちは『あなたの死ぬ運命を覆す転生』を女神に願ったわ」
「あなたが死ぬ5秒前に転生したのだけど、うまく助けられて良かったわね」
ま、まさか?!
「女勇者と秘書?!」
トラックの運転手と女子高生に転生しただって?!
「そうよ。でも、あたしたちって優秀よね。5秒で助けられたんだから」
「女神様のおかげだけどね」
「女勇者…秘書…」
俺は二人に抱きついた。
抱きついて泣いた。
通報されてそのまま警察に連れていかれた。
30過ぎのおっさんが若い女性二人に抱きついていたからだ。
説教は受けたがおとがめなしで帰ろうとした時、警察署の前に見覚えのあるトラックが止まっていた。
「乗りなよ。送るから」
後日。
俺の家でアニメの鑑賞会が開かれていた。
もちろん『勇者召喚エウロピア戦記』の。
まさか非業の死を遂げた彼女たちと一緒に見ることになるなんて。
「なあ、ミサ。そんなにくっつくなよ」
「あたしがくっつくと恥ずかしいのか?」
「当り前だろ?」
「私もくっつかせてもらうね」
「ユイまでくっつくなよ!女子高生だろ!」
「中身はあなたの秘書だからいいんです!」
あの二人はこの世界でミサとユイという名前があった。
あれから俺たちは友人以上恋人未満の付き合いをしている。
「それにしても…」
「やっぱり部屋が狭すぎるわよね」
「しかたないです」
がやがやがや
「あのアニメで死んだ無名の美少女たちが全員この世界に転生して俺と出会うなんてな」
そう、なぜかあれから女性に縁の無かった俺に多くの女性と出会いがあり、その全てがあの世界で死んだ美少女たちの転生だったのだ。
「ミサとユイはわかるけど、どうしてあとの13人まで俺の所に来るんだ?」
「さあ?」
「それもきっと」
「『運命』だからじゃないの?」
お読み下さりありがとうございました!