28 英雄、ギルド会議室へ向かう
数日後。
ギルドから呼び出しがあった。
相変わらずギルドのスタッフたちは忙しそうに働いているが、どこか余裕のなさも感じ取られる。
なにかあったのは間違いないだろう。
「ジニアさん。お休み中にお呼び出ししてすみません」
パチェリィがいつものようなすまし顔ではなかった。
それだけでただならない状況なのだと察することができる。
「皆さんがお待ちです。こちらへお願いします」
案内された先は事務所の一番奥にある部屋だった。
「ジニアさんをお連れしました」
部屋にはギルドマスターのオウリアンダ以外にも姿があった。
「ほっ、ようやく来たか」
一人はベテラン探索者のスノウボウルだ。
その隣で腕を組んで微笑んでいるのは〈|筋肉はすべてを解決する《マッスルソルバー》〉のキャプテン、マグノリアだった。
他に探索では上位に位置するチームキャプテンも揃っている。
「時間通りだと思うんだが」
「カッ。これだから英雄様は違いますなァ。ギルドマスター直々の呼び出しならば少し前に来るのが当たり前でしょうに」
不満そうな表情をしているのはチューベローズだ。
ツンツンと逆立った髪を見て、毎朝の手入れが大変そうだと思ったことが何度かある。
彼は積極的に未踏破エリアの探索を行うチーム〈危険な快楽〉のキャプテンだ。
「そんなルールはありません」
マグノリアを一回りほど小さくしたような男は〈我が郷里〉のキャプテン、ナンダイナだ。背は小さくとも胸板の厚さや腕の太さはマグノリアに決して負けていない。
彼のチームは地下四層を中心に探索をしている、文字通りのトップチームだ。
「よく来てくれた。まずは座って欲しい」
奥まった席しか空いていないのでそこに座る。
「さて、みんなも知っているかと思うが、このところダンジョンの様子が変わりつつある」
魔物たちの生息位置の変化や凶暴化だ。
「それはこれまでにもあったことじゃろ」
ダンジョンがある一定の期間で変化することは過去にも確認されている。
それによって違う場所で、異なるアーティファクトが見つかるようにもなるのだ。
それ自体はギルドスタッフが顔色を変えるほど危機というわけではない。
もちろん、これまでとは違うセオリーになるので注意が必要になるが、逆に言えばそれだけだ。
探索者も慣れたもので、やがて状況に合わせることができるようになる。
「そうだ。ダンジョンの様子が変化しているのに合わせて地下一層の未踏破エリアをなくそうと思い、ギルドでは探索を推奨していたのだが――そこで問題が起きた」
「転送トラップですか」
ナンダイナの言葉にオウリアンダが視線を向ける。
「そんなもの承知の上で探索者をやっているじゃないんですかねェ。危険が怖いのならダンジョンになんぞ入らなければいいだけのこと。今更、なにを言っているんで?」
「とはいえ、ダンジョンから戻っていないチームがあるのならば救援を送らねばならないでしょう」
チューベローズの片方の眉がひょいと上がる。
「そりゃまた、お優しいことで」
「私たちは探索者だ。時には力を合わせることも必要です」
「探索者の基本は自助努力でしょうよ。いつから仲良しこよしの互助団体になったんですかねェ」
「さっきからなんだ、その態度は!」
「ハッ。そっちこそなんなんですかねェ。優等生のお坊ちゃんが甘っちょろいことを言っているのに嫌気が差してるんですわ!」
椅子から立ち上がった二人が互いの額をくっつけて言い合いを始める。
「真面目一辺倒の〈我が郷里〉と刺激を求めるスタイルの〈危険な快楽〉を同席させるのが間違いなんじゃ」
スノウボウルは呆れたと言いたげな顔をしてこの場が荒れている理由を話してくれた。
「双方、落ち着かんか。ギルドマスターの話はまだ終わっておらんぞ」
襟首を捕まえたマグノリアが強引に二人を引き離した。
まったく、なんでこんな人選にしたんだか。
そしてどうして俺をこの場に呼んだんだか。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
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