11 英雄、決断を促す
「それでは次の探索はどうしますの? なにか依頼はあったのでしょうか」
「地下一層の未踏破エリアを調べて欲しいって話があってだな」
「それは前に生配信をしましたよね」
「ああ。でも未踏破エリアがまだ残っているから、ギルドとしてはそれをすべてなくしてしまいたいそうなんだ」
簡単にギルドの意図を説明しておく。
必ずしもギルドの考えに従う必要はない。
だがこういうところで応じておけばチームに対する印象がよくなることも説明する。
さまざまな側面から物事は見る必要がある。
一面だけを知らせて判断させようというのはよくない行為だ。
「ですが、いまさら地下一層を探索するというのもいささか面白味に欠けますわ」
「ローは、地下二層がいい。ストレージほしい」
もちろん欲しいアーティファクトを入手するために潜るのもありだ。
「ローゼルのストレージも欲しいところではあるな」
「今の私たちの力量に合っている場所となるとどこになるのでしょうか」
「地下三層でも問題はないだろう。だがボスクラスは避けた方がいいな」
スクリーン入手のため地下三層に長期間滞在した経験が大きい。
あの時も最後の巨大ゴーレム以外は問題がなかったから、力量としては申し分ない。
「それでしたら地下三層で腕を磨くのがいいのではないかしら。わたくしたちはまだまだ未熟ですわ。成長していかなければなりません。ニモフィラ様と一緒に戦ってわかったことがありましたの。わたくしとニモフィラ様の間には簡単には埋められない差があるのだと思い知らされましたわ」
「シハン、すごかった。ローも、あんなふうに、なりたい」
成長したいという気持ちは大切だ。
その気持ちを失ったときが探索者を引退するときだと例の本にも書いてあった。
特にティアとローゼルはそれぞれの目標を見つけたようだ。
ああなりたいという存在は成長を大きく促してくれる。
「お嬢ちゃんたちの気持ちはよくわかる。じゃがな、こういうのは慣れてきた頃が一番危ないんじゃ。その意味で地下一層の未踏破エリアを探索するというのは悪いアイデアではないとワシは思う。ま、部外者の戯言じゃがな」
「経験者のお言葉です。重く受け止めます」
ササンクアの言葉に照れたのか、スノウボウルはジョッキで顔を隠していた。
「正直な話をすると、地下一層で探索をするのも、地下三層で腕を磨くのも、どちらも間違っていないと思っている。両方大切なことだからだ」
三人の顔をよく見る。
「だから自分たちで選んでくれ。俺に言われたからじゃない。自分たちでこうなりたいと決めるといい。今の三人はその段階にいると思う」
「それは自分たちの決断に責任を持てということでしょうか」
「そう受け取ってもらっても構わない。正解はないんだ。探索者として自分がどうなりたいか。それを考えて欲しい。君たちの決断を俺は全力でサポートすると約束しよう」
「こ、困りましたわ。急にそのようなことを言われましても……どういたしましょうか」
「ローは、ティアの、いうとおりにする」
「それはいけませんわ。ジニア様が今おっしゃったばかりではありませんの。自分がどうなりたいかをお決めなさいな」
「うー……困った。シショー、どうしたらいい?」
「ローゼルが探索者になろうと思ったきっかけはなんだ?」
指をアゴ先にあてて小首を傾げる。
「えーと……塔にいきたい、から」
「おじい様が見た塔をわたくしたちも見たいというのがきっかけでしたわ」
「じゃあ、塔に行くためにはなにをすべきだと思う?」
「……もっと、塔のことを、知る。どうやって、生きのびるか。たたかうのも、大事。でも、それよりも、生きる方法が、もっと大切」
「塔もダンジョンも私たちが知らない危険がたくさんあります。私たちはそのことに対してあまりに無知です」
「つまりは探索のための知恵と経験を積んでいく必要があるということですわね」
三人が顔を見合わせている。
どうやら決まったようだ。
「どうしたいのか聞かせて欲しい」
「地下一層の未踏破エリアを探索したいと思います。私たちにいろいろなことを教えてください」
ササンクアが代表してどうなりたいかを宣言した。
「わかった」
「ほほっ。これは本当によいチームになるの」
スノウボウルは満足そうに笑っていた。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
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