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9 ボールサム、苛立つ

主人公ではなくボールサムの視点のお話です。

 イライラが募ってくるのを自覚する。

 だがここで感情に任せしまっては貴族としての矜持に傷をつけることになってしまう。


 だから目を閉じて心を落ち着ける。

 ゆっくりと息を吸い、そして吐く。

 よし、大丈夫。己は冷静だ。


「ちょっと、ちゃんと話聞いてるの?」


 目を開けると同席している三人が己を見ていた。


 それだけではない。

 なぜか食堂中の視線が向けられているかのように感じる。


 己のような大貴族がこんな場所にいることをいぶかしく思っているのだろう。

 うっかり家畜小屋に顔を見せてしまった大地主のようなものだ。

 動物が好奇心を持って己を見上げることを責める気にはならなかった。


「言っておくけど、探索者として基礎の基礎の話をしてるんだからね。これができないと地下四層には行けないんだから」


 得意げに言う小娘の顔を見る。


 以前は俯くかそっぽを向いてまともに己の目を見ることすらできなかったというのに、今では真っ直ぐに見返し、あまつさえ意見をしてくる始末だった。

 吹けば飛ぶような家の小娘が、チュウゲン家の人間に意見をするとは世も末だ。


 まったく腹立たしい。

 ただ黙って、大人しく、首を垂れて己に従っていればなんの問題もないというのに。


 そもそもキャプテンに対してこのような口の利き方をして許されるはずがない。この思い上がりは前任者が正しい躾をしていなかったせいだ。


 どんな権利があって、己に対して指図ができるというのか。

 始まりの八家の一つであるチュウゲン家に小娘が意見するなど千年早いというのに。


 初めて己がダンジョンに入ってから10日ほどが経っている。


 思えばあれからして判断の間違いだった。

 どうやら己は周りの人間に乗せられ、罠にハメられたようだ。

 己の軽挙妄動に恥じ入るばかりだ。


 大貴族らしく、汚らわしいダンジョンになぞ足を踏み入れるべきではなかった。

 だがそれを今さら言ったところで仕方がない。

 過ぎ去った時はもう戻らないのだ。


 あの日からというもの、なにをやっても上手くいかない。


 初ダンジョン、しかもほぼ単独ながら最速で地下三層まで至った偉業を誰も褒め称えようとしないのがそもそもおかしいではないか。

 そんなバカなことが許されるはずがない。


 これもすべて、この無能なチームメイトどもと、そして英雄と呼ばれていい気になっている平民の男のせいであることは明白だった。


 己が疲労で寝込んでいる間に奴らが勝手にしでかしたことが耳目を集めたせいで、あの偉業がなかったことにされている。


 恐らくは探索者ギルドも結託していたのだろう。

 そうでなければなにもかもがおかしいのだ。


 あの映像は今見てもはらわたが煮えくり返る。

 大貴族であるこの己をまるで荷物かのごとく運ぶとは断じて許せない行為であった。


 そもそも疲労がとれていれば己の足で歩くことができたのだ。

 それなのにあのような運び方をするとは、悪意があるとしか思えない。


 しかも調べたところによると聖女が魔法で意識を奪っていたというではないか。

 寄ってたかって己を貶めようとする行為には反吐が出る。


 これはきっちりとわからせる必要があるだろう。

 そのためには周到な準備が必要になる。

 思いつきで動いてはダメだというのは身に染みてわかった。


「本気で探索者をやるつもりなら、知っておかないといけないことが山のようにあるんだからね」


 上から目線の物言いにカチンときてしまう。


「うるさいですね! もう話すことはありません。己は帰ります」


 椅子を蹴って立ち上がる。


 グラグラと煮え立つような感情が己の心を煽り続けている。

 この者たちに思い知らせてやる必要がある。


 復讐の刃は小さくともいいのだ。

 その分、しっかり研いで鋭くしておけばよい。


 己はギルドを出て屋敷へ向かうことにした。

ここまで読んでいただきありがとうございます。

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