66 英雄、威圧される
「では私とローゼルさんが小型ゴーレムの対処をするサブ組ですね」
「一応、俺もいるんだが……」
「は?」
ニモフィラが怖い目で俺を見るんですけど。
「ジニアは戦わないでいいから。っていうか、アレを背負っておいてよ。こんなところに残していくわけにもいかないし」
アレと言いながら見たのは寝転がったままのボールサムだ。
とことん扱いが悪いな。
それも自業自得なんだが。
「すみません。小さいゴーレムの数はわかりますか?」
ササンクアの質問にニモフィラが首を横に振る。
「ごめん。逃げるので夢中だったから数まではわかんない」
「おそらく50と少しだろう」
「そうなの?」
ローゼルが首を傾けてタンジーに尋ねる。
「視界に入った分だけだが、10のグループが5つあった。追加で合流した分がいるかもしれんが大きくズレていることはないだろう」
「それ、ジニアに教わった数の把握法だよね。よく確認する余裕があったわね」
タンジーは口元を緩めるだけだった。
「なんですのそれ。わたくし、まだ教えていただいてませんわ!」
ティアが口を尖らせている。
「そんな難しい話じゃないさ。10ぐらいの集まりがどれだけあるかで全体の数をざっくり把握するってだけだからな」
俺もスノウボウルから教えてもらった方法だ。
特別な技術が必要な話でもない。
「それでは実際の数とズレがあるのではありませんの」
「いいんだよ。あくまでおおよその数を把握するだけなんだから。とりあえず小型ゴーレムは50としておこう」
「でも50って結構多いよ。全部倒すのは大変だよ」
「しかも倒し過ぎればまた仲間を呼ばれますからね。小型ゴーレムとは戦わずにすませられるのが一番なんですけど」
「じゃあ、麻痺させるしかないかな。キャトリアならできるよね?」
「スタンモードを使えば可能ですけど、流石に50は無理です」
ニモフィラとキャトリアはダンジョンで場数を踏んでいるだけあってゴーレムの対処法を理解していた。
「サブ組の目的はメイン組が戦う時間を稼ぐことだ。相手を全部倒す必要はないからとにかく逃げ回るんだ。突出してきたヤツだけを処理してくれ。キャトリアは近接戦闘を苦手にしているからローゼルが守ってやってほしい」
「うん。ローが、まもるよ」
「お願いします」
「えへへ。ロー、がんばる」
頼りにされるのが嬉しかったのか、ローゼルはにっこり微笑んだ。
「それから警告もかねて生配信をする。低ランクのチームがこの状況の大広間に足を踏み入れると危険だからな。それでいいか?」
俺たちのチームだけの配信ではないのでタンジーに確認を取る。
「ああ」
「でもわたしたちのフェアリーアイはなくなっちゃったよ。アレのせいでね」
「俺たちのだけでもいいから生配信をしておこう。誰かが気が付いてくれるはずだ。それから」
通路の端に目をやる。
「俺はアレを背負ってサブ組と一緒に行動をする。サブ組のリーダーは俺だ」
「うん」
「久しぶりにジニアの指揮での戦闘ですね。よろしくお願いします」
「いい。ジニアは戦わなくていいからね。絶対に戦ったらダメだからね!」
「わかってるよ」
「絶対わかってない! ここは地下三層なんだよ。ノービススーツを纏っていても動きが鈍くなる場所なの。無理をせずに生き残るために最善の行動をとれってわたしたちに教えたのジニアなんだからね!」
「『生き残ること。これこそが勝利である』ですわね」
「そう、それ! 探索者にとって一番大事なことだよね。ジニアから何度も同じこと言われているんだから。ジニアも肝に銘じておきなさいよね」
「……そうだな」
どうして聖塔探索士が英雄と呼ばれるのか。
それは生きて塔から戻ってきたからだ。
塔から戻ってこない者は英雄とは呼ばれない。
たとえどれだけ優れた技能を持っていようとも。
どんなすごい実績を積んでいたとしても。
どんなに人格者であったとしても。
どんなに強かったとしても。
生きて塔から戻れなかった者が英雄と呼ばれることはない。
だが、俺だけは知っている。
確信している。
一緒に塔へ入った仲間たちは必ず生きていると。
だから俺が塔から連れ戻すのだ。
そして彼らもまた英雄と呼ばれる存在になるのだ。
「わかった。俺は俺にできることを全力でするよ。俺の任務はアレを地上に連れ戻すことだ」
「うん。わかればよろしい」
「ジニア様がアレっておっしゃいましたわ」
「シショー、口がわるい」
それは俺だけじゃないと思うんだけどなあ。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
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執筆が終わったので予定通り70話で第一部終了となります。




