65 英雄、頭を下げる
俺が頭を下げようとした瞬間、タンジーの口がわずかに開いたのが見えた。
そのままの姿勢で反応を待つ。
どれだけそうしていただろうか。
タンジーがため息をついたのがわかった。
「こちらこそ脱出のために『星を探す者』に力を貸してもらいたい。よろしく頼む。作戦の提示をしてもらえれば全力で応えさせてもらう」
気配でタンジーが頭を下げたのがわかった。
「よかった。なかなか返事をしないから断るのかと思ったじゃない」
「それはないわ。だってタンジーにとってもジニアは英雄なんだもの」
正面に座るタンジーがそっぽを向く。
「おい。なんで顔を背けてるんだ」
「これは……その、なんだ。ストレッチだ」
「今しなきゃいけないことか?」
「…………はぁ」
大きなため息をついたタンジーは、観念したと言いたげにこっちを向く。
ヘーゼルカラーの瞳が俺を見ていた。
「…………」
それから、無言で頭を下げる。
一瞬、頭を下げた理由を聞こうかとも思ったが、なんだか意地悪をしているような気がしてやめることにした。
クビを告げられた時は思わず一言出てしまったが、俺も成長したものだ。
きっとタンジーも俺をチームから追放したかったわけではないのだろう。
ボールサムの言動を伝え聞く限り、なんとなくどういうやり取りがあったのか予想はつく。
「それで、どうやって脱出する」
「対処しなければならない問題は二つだ」
言いながら指を二本立てる。
「わたくしたちを狙っている巨大ゴーレムと、タンジーさまたちを追ってきた大量の小型ゴーレムですわね」
「そうだ。メインミッションが巨大ゴーレムの足止めで、小型ゴーレムへの対処はサブミッションになる」
「ジニアがそうやって目的を説明してくれるのって懐かしいね」
ニモフィラが微笑んでいる。
「ところで、あんな大きなゴーレムって前からいた? わたし、初めて見た気がするんだけど」
「俺も初めてだ。ギルドにも報告がなかったみたいだから、最近、出てきたんだろうな」
「そっか。あんなのがいたらもっと話題になってるもんね。材質はなんだった? どうやって倒せばいいのかな?」
「石だな。金属よりはやりやすいだろうが、問題は大きさだ」
「あんな大きいもんね。ピンポイントで魔核狙えそう?」
遠距離攻撃が可能なシュートアームドのキャトリアは首を振る。
「私の火力で抜けるとは思えません」
大きければその分、魔核までの装甲も分厚くなる。
キャトリアは遠距離からの狙撃を得意としているが火力はランク相応だ。本人の言う通り、火力が足りないだろう。
「じゃあ、アレ起こす?」
ニモフィラは嫌そうな顔をしながら片隅に転がされている男を見る。
「あの人は接敵して弾をばら撒くタイプですから、私よりも相性はよくないと思いますよ」
同じシュートアームドでも得意とする戦い方は異なる。
遠い距離から単体を狙うのを得意とするキャトリアに対し、ボールサムは近い距離での面制圧を得手としている。
当然、その火力を生かすには相手に近づく必要があった。
「あの手の魔物を得意とするのはヘビィアームドだ」
防御力が高い魔物には高火力を持つヘビィアームドが強い。
俺の言葉にタンジーは腕を組んだまま頷き、ローゼルは自分を指差して小首を傾げた。
「悪いがローゼルは小型の方を相手にしてもらう。デカいのと戦うのはタンジーだ。頼むぞ」
「……わかった」
相変わらず愛想のない男だった。
だがタンジーがこのメンバーで最大の火力を持つのは間違いない。
そしてこいつは俺の期待に必ず応えてくれるのを知っている。
「でも攻撃できる距離まで近づける?」
「ゴーレムの動きは鈍かったので大丈夫だと思いますわ!」
「だったら全力で走って逃げてしまえばいいのではないですか? 無理に戦う必要はないでしょう」
「一歩が、おおきいの」
ローゼルの説明では理解できなかったキャトリアが説明を求めて俺を見る。
「動きは鈍いんだがストライドが違い過ぎて逃げ切るのは難しい。実際、俺たちはここに追い込まれたからな。だからなんとか足を止められればと考えている」
「わかりました。あの大きさだと攻撃力も相当なものでしょうね」
「ああ。攻撃が掠っただけでも吹っ飛ばされるのは間違いない。というか吹っ飛ばされた」
「……どういうこと?」
「ゴーレムが振り下ろした拳に掠ったジニアさんが弾き飛ばされたんです。私のシールドがあったので無事でしたけど、もうあんな無茶はしてほしくありません」
なにやってんだこの人って顔をしながらニモフィラが俺を見る。
「仲間を信用してたんだよ」
「そういうのは信用しているって言わないの! ただの無謀って言うの! なんでアームドコートがないのに前線に立とうとするのかなあ。もうちょっと自分のこと大事にしてよね」
はい。ごめんなさい。
双子にも泣いて叱られたので反省してます。
「とにかくササンクアのシールドならゴーレムの一撃は確実に耐えられる。だからタンジーはシールドを信じて足元を狙え。ここからの脱出が目的だから倒さなくてもいい。なんとか動きを止めてほしい。ライトアームドの二人はそのフォローだ。ゴーレムに攻撃目標を絞らせるな」
「つまり、わたしとフォーサイティアさんがけん制役ってことだね」
「わかりましたわ!」
「私はタンジーさんたちのシールドが切れないようにします」
「というわけで、メイン組はタンジーがリーダーになってくれ。頼んだぞ」
「ああ」
ここまで読んでいただきありがとうございます。
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というわけで追放された主人公とチームの和解まで描きました。
全然「ざまぁ」って感じはないですねぇ。
予定では70話で第一部終了です。もう少しだけお付き合いください。




