61 ボールサム、不調に陥る
主人公視点ではなく、ボールサム視点のお話です。
実力はあるんですよ。経験がないだけで。
人格は……その、なんだ……。
「くっ、おかしい。こんなはずでは……」
地下三層に入ってからというもの、ボールサムは自分の体が自分のものではないような感覚に襲われていた。
重く、鈍い。
こんな経験は今までにないことだった。
「はぁはぁはぁ……」
それに息苦しくもある。
少し歩いただけだというのに息が切れてしまい、休憩をとるしかなくなった。
胡乱な頭で理由を考える。
一つにはこの階層が暗いせいというのがあるだろう。
タンジーたちが用意してきた照明のお陰で視界は辛うじて確保できているが暗いものは暗いのだ。
闇の向こうになにがいるかわからない。
その不安が心をジリジリと焦がしているのも違和感の原因の一つなのかもしれない。
「それとも、これが噂に名高いダンジョンの呪いというやつですか……」
自身の体調が万全ではないのに比して、他の三人には変化が見えなかった。
今まで同じように振る舞っているように見える。
己にだけ不具合が生じているのではないだろうか。
そう思うのは必然であろう。
だとしたら原因はなんなのか。
一つ、天啓めいた閃きがあった。
この疲労感と倦怠感はダンジョンが異物を感知し、排除しようとしているのではないだろうか。
呪いと言うのは言い得て妙だ。
ダンジョンという不浄な場所にそぐわない者にその呪いが襲い掛かるのだ。
つまり高貴な己には相応しくない場所だからこそ、このように感じるのではないだろうか。
それならば合点がいく。
平民たちは平気でダンジョンに潜るし、たまたま同じチームにいるタンジーらも貴族とはいえ末席に過ぎない。
だからダンジョンに親和性があり、平気なのだ。
今、己が感じているのは高貴な者にしかわからないもの。
それならばすべての辻褄があう。
それをねじ伏せてこそ、真の強者と言えるだろう。
ここで引くわけにはいかなかった。
「本気でまだ進むつもりなの? もうやめておいた方がいいんじゃない?」
「進みますよ。当然です。己の目標は地下五層に行くことなのですから。こんなところで足踏みなどしていられませんよ」
「無理に進めば命の保証はないよ。ダンジョンはそういう場所なんだから」
ニモフィラの忠告はボールサムにとって侮辱にしか思えなかった。
穢れた者だからこそダンジョンにいても平気だというのに、その理を理解しない愚か者が得意げになっているのだと受け取る。
「己はその理を曲げることができる者ですから。問題はありません」
それを聞いて鼻を鳴らすニモフィラの態度も気に入らなかった。
こんな者たちと一緒にいるから呪いが己だけに襲い掛かってきているのかもしれない。
それならば少しでも早く先へ進むべきだ。
そして目的を達成してしまおう。
そう考えたボールサムはふらつきながらも足を踏み出した。
「フェアリーアイ。生配信を開始しなさい」
休憩中に止めていたフェアリーアイに配信を始めさせる。
「気を付けてください。この階層の魔物は仲間を呼びますから」
背中に触れようとするキャトリアの手を振り払う。
「そのような気遣いは不要です。すべて葬り去れば問題ないでしょう」
「そういう意味では……あっ」
ボールサムは一人でどんどん進んでいく。
「仕方ないわね。最後まで付き合ってあげるわよ。こんなところで死なれても寝覚めが悪いし。それでいいんだよね」
ニモフィラの視線を受けてタンジーは頷いた。
「ホント、気を付けた方がいいよ。この階層の魔物はシュートアームドだと相性悪いんだから」
物理と魔法の両方に耐性を持つゴーレムは総じてタフである。
ボールサムのように懐に飛び込んで大量の魔力弾をばら撒いてダメージを与えるタイプのシュートアームドにとっては天敵と言ってもいいだろう。
逆に一点突破の火力を持つヘビィアームドとは相性がよいのだが。
「聞く耳なしだし。ホントに死んでも知らないんだから」
そう呟きながらもニモフィラはボールサムを追いかけるために小走りになった。
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