59 英雄、目を覚ます
前を行く背中に見覚えがあった。
いつも一緒にいた仲間たちのものだ。
その背中が少しずつ離れていく。
「待てよ」
追いかけようとするが足が動かない。
「待ってくれ! 俺も行くから!」
呼びかけても止まらない。
どんどん背中が小さくなっていく。
「待て! 待ってくれ! 俺を置いていかないでくれ!」
必死に足を動かそうとしてもビクともしない。
それならばと手を伸ばす。
けれど離れていく背中には届かない。
「俺も行くから! 一緒に行くから!」
背中が進む先から光が広がっていく。
「絶対に俺も行くから!」
世界が白く塗りつぶされた。
「シショー?」
ローゼルが俺を見降ろしている。
「……ここは?」
「地下三層ですわ。ご気分はいかがかしら?」
「ああ、悪くない」
抑えた照明のお陰で、周囲の確認ができた。
ローゼルの隣で俺の顔を覗き込むティアに応じ、肘を立てて上体を起こそうとする。
俺の動きを察して、ティアが背中を支えてくれた。
「みんな……は無事なのか」
「うん」
「ケガをしたのはジニア様だけでしたわ」
それほど広くないエリアをキャンプ地としているようだ。
ササンクアはどこにいるのかと辺りを見回す。
「ササンクア様でしたらあちらでお休みしていただいていますの」
ティアが指差す先に横になったササンクアがいた。
焚火を背に丸くなっている。
「ササンクアは大丈夫なのか?」
「はい。ジニア様に癒やしの力を使っていただいたので、その疲労を回復させるために休んでいただきましたの」
そういえば頭に石が当たったんだったか。
石というより岩と言った方がいいか。
結構な衝撃だったからな。
ササンクアのシールドが守ってくれたのが幸いした。
直接貰っていたら、頭がなくなっていたところだ。
岩が当たった左のこめかみのあたりを手で押さえてみる。
「痛みはないな」
「聖女様の癒やしの力ですもの」
何故かティアが自慢げだった。
「俺はどれぐらい意識を失っていた? あのゴーレムはどうなったんだ?」
「あれから1時間ほど経過していますわ。ゴーレムは通路まで入って来られなかったようです。あれだけ大きいのですから仕方ありませんわね」
「そうか。すまなかったな」
「なんで、シショーが、あやまるの?」
「みんなを危険な目に遭わせてしまったからな。それはキャプテンの責任だ」
「でも、シショーのおかげで、みんな無事だよ?」
無事だったのは喜ばしいが、危険に遭遇したのは事実だ。
「まさかあんなデカいストーンゴーレムがいるとは思わなかったな。以前、ここへ来た時にはいなかったんだが……」
ダンジョンの状況は変化することがままある。
地下二層の遺跡から水があふれ出してディープアリゲーターの生息位置が変化したようなことが、ここでも起きたのかもしれない。
「ところで、どうしてジニア様は無事だったんですの? なぜだかものすごい勢いで飛びましたけれど」
「ああ、あれか。シールドがゴーレムの拳に掠ったから弾かれたんだ」
シールドの強度が弱ければ掠った時点で俺の体まで潰れていたはずだ。
つまりササンクアに助けられたとも言える。
ドンとローゼルが突っ込んできて抱き着いてきた。
「ぐはっ。な、なんだいきなり」
キッときつい目で睨まれる。
ローゼルのこんな顔は初めて見た。
それから顔を伏せておでこを俺の胸にグリグリと押し付けてくる。
「どうしたんだ?」
「ローゼルはジニア様に対して怒っているのですわ」
「どうしてだ?」
ぷくっとティアの頬っぺたまで膨らんでいる。
「わかっていないようですのであえて言わせていただきますわね。あの時、ジニア様はご自分の命を捨てようとしたのではありませんの? もうダメだ。ゴーレムの拳にジニア様が潰されてしまう……そう思って、わたくしたちは生きた心地がしませんでしたのよ!」
「そうだったのか。それはすまなかった」
長々と説明している余裕はなかったんだ。
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