05 ローゼル、必殺技を習得する
今日もフォーサイティアの部屋にあるベッドで双子は一緒になって寝そべっていた。
屋敷にいた頃に比べると、二人が揃っている時間は間違いなく増えている。
「ローは、もっとつよく、ならないと」
多くの場合、一番火力が高いのは重甲腕だ。
ヘビィアームドの厚い装甲は防御力に優れるだけではなく、攻撃力も高い。
ご多分に漏れずこのチームでも攻撃力が一番高いのは自分であるという自負がローゼルにもあった。
「みんなが、ですわよ。地下二層ならまだしも、その先で安定して探索をするにはあらゆる力が足りていませんわ。それに今のままでは大会で勝ち抜けるとも思えませんし」
〈不屈の探索者〉と共に戦って、自分たちに足りないものがあるのを自覚することができた。
個々の能力が遠く及んでいない。
それならば連携で勝るのかといえばそうでもない。
なにしろ〈星を探す者〉はチームを結成したばかりだ。
少しは仲間のことを意識しながら動けるようになってきたとはいえ、長く組んでいるチームと比べれば足元にも及ばない。
「ローにも、シハンみたいな、力があったら……」
ローゼルにとってタンジーの戦う姿は衝撃的だった。
傾きかけた戦闘の流れを一気に引き寄せるような一撃を見て、自分もああなりたいと考えるようになっていたのだ。
「わたくしだって、ニモフィラさまのようなスピードと判断力があれば、もっともっと戦闘で活躍できるはずですわ」
軽甲腕としてスピードには自信があった。
だが全速力も、急停止も、方向転換も、すべての面でニモフィラはティアの一枚も二枚も上をいっていた。
体を動かすことだけではない。
必要な場所とタイミングで相手を誘導するような、全体の流れを俯瞰した視点もティアは持ち合わせていなかった。
もっとも、彼女たちが本格的に探索者を始めてまだ数カ月しか経っていないのだから、欲張りと言えないでもない。
一般的に見れば彼女たちの成長は著しく、胸を張ってもよいぐらいなのだ。
だがそれでは足りないと思っている。
自分たちの目標が塔へ行くことである以上、この程度で満足していてはならない。
その強い気持ちがあるからこそ、この速度での成長とも言えた。
「ローは、シハンみたいに、なりたい」
「具体的にはどのようなところですの?」
「必殺技。遠くだったから、よくわからなかった。でも、すごいのは、わかった」
地下三層から脱出を図った時、ローゼルはジニアたちと大量の小型ゴーレムの相手をしていた。
だからタンジーが巨大なストーンゴーレムの足を砕いた一撃を目の当たりにはしていない。
だが崩れ落ちたゴーレムの姿は見た。
巨大な石の柱を砕いた攻撃は当たった部分から力が浸透していったかのようだった。
ぼんやりとした技のイメージはある。
だが実力が不足しているので具体的にどうしたらあれを再現できるのかがわからない。
「ローと、シハン、どこがちがう?」
「そうですわね。一番は信頼感だと思いますわ」
「信頼……?」
「ええ。これまでのジニア様の指示を振り返ってみればローゼルの一撃を頼りにされていると思いますの」
「それは、そう、かも」
「でも毎回、それに応えられているとは思えませんわ。10あったとして、せいぜい半分というところではないかしら」
「……うん。なんとなく、わかる」
ローゼルの攻撃は当たれば痛い。ヘビィアームドの一撃だから攻撃力はあるのだ。
だがここぞのところで外してしまうことがあった。
「確実に攻撃を当てる。そのためになにをすべきかを考えてみたらよいのではないかしら」
「どんな、練習、する?」
「確実を期するのですから、大振りは厳禁ですわ」
力を入れようとして、つい腕をグルグルしてしまうクセがローゼルにはあった。
まずはあれをやめる。
「その分、攻撃の有効範囲が狭まりますから確実に当てられる距離まで詰め寄ることが必要ですわね」
ヘビィアームドは装甲が厚い分、動きが鈍くなる傾向にある。
実際、アームドコートの召喚した状態で二人が駆け比べれば、かなりの差がついてしまう。
モタモタしていては攻撃のチャンスをフイにしてしまう可能性が高い。
つまり速やかに攻撃位置に到達できる走力が必要になる。
「相手に、はやく、ちかよる。わかった。ほかには?」
「移動しながら力を貯めてはどうかしら。少しでも時間を節約できますわ」
「うん。いいかも。ほかには?」
「ほかは……うーん、ちょっと思いつきませんわ。とにかく実践をしてみて、気が付いたことがあれば修正してくのでどうかしら」
「わかった」
それから二人は練習を続けた。
どうすれば移動を速くできるか、どうすればよい位置取りができるか、どうすれば攻撃を的確に当てることができるか。
ダンジョンに入らない日は何度も何度も同じ動きを繰り返した。
そして――
「まだだよ! シショー、逃がしちゃ、ダメ!」
力を込めた右手を構えながら距離を詰める。
遠くても近くてもダメだ。
何度も繰り返したことで一番やりやすい位置があるのを今のローゼルは知っている。
キマイラの正面に立つ。
骨のある硬い部分ではなく柔らかい場所を狙う。
大きな目がある。狙いはそこだ。
腰を落とす。
力の溜め具合よし、距離もよし。
「いきなさい、ローゼル! ここで決めるのですわ!」
右手だけでは十分な力を伝えることができない。
大切なのは回転だ。
足から腰、背中から肩、腕。そして肘から拳へ一連の力を伝えていく。
そのためには左手を引く動きが大切なのだ。
「乱・爆砕拳!!」
スパンと空気を引き裂く音がした。
拳が眼球に触れ、力が浸透していく。
『グギャアアアアアァァァァァ……』
キマイラが絶命の咆哮をあげる。
一瞬の後、頭部にあるすべての穴から濁った体液が噴き出す。
「ちゃんと、できた……」
力が抜けて座り込んでしまう。
自分の拳を見る。
どろりとした体液で汚れているが、なぜだかそれが誇らしかった。
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