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38 英雄、策を練る

 タンジーたちはキマイラから大きく距離をとって立ち回っていた。

 快速を生かしたニモフィラはティアに接近し、二人で後ろに回り込んでくれる。


「待たせたな」


 キマイラへ意識を向けたままのタンジーが俺を見る。


「それはなんだ?」


 俺の左腕にはタンジーたちがここまで持ってきた金属のプレートが巻き付けられている。


 拳のところを内側に曲げることで肘まで覆う簡易的なガントレットになってくれた。

 これでキマイラの牙が防げるとは思わないが、多少の打撃ならばしのげるはずだ。


『ガルルルルルルル!』


 叫んだあと、前脚を踏ん張ったキマイラが上を向く。


「火、くる!」


「左右に広がれ!」


 ローゼルとタンジーの言葉に従い、俺も横へ走る。


 キマイラの喉が大きく膨らんでいる。


『ゴオオオオォォ!!』


 右前へ頭を下ろすと5メートルはある炎が大きく開いた口から吐き出された。

 そのまま左側へ頭を振ることで自身の前面を扇状に焼き尽くす。


 横に回り込んだというのに、あまりの熱気に思わず顔を背ける。

 こんなものを正面から喰らったら金属だって瞬時に溶けてしまうだろう。

 キャトリアがあの程度の負傷で済んだのは幸運だったのかもしれない。


「さっきのがヤツのクセのようだ。そして一度炎を吐けばしばらくは使えない」


「よく見ているじゃないか」


「戦闘技術を叩き込んでくれた師匠に厳しく教えられたからなっ」


 前へ出たタンジーがヘビィアームドの拳を見舞う。

 鈍い音がしたかと思うと、キマイラの頭がグラリと傾く。


「それから炎を吐いた後に大きな隙ができるっ。いけ、ローゼル!」


「うん!」


 右手を大きく振り上げたローゼルがキマイラへと駆け寄る。


「たあああああああ!!」


 そして頭の前で跳躍すると、自身の体重も乗せて右拳を鼻っ面に振り下ろした。


『ギャウウウゥン!?』


 痛みのせいか頭を大きく振り回す。

 この間にタンジーたちはキマイラから距離を取った。


「ダメージは与えられる。だが決定打がない」


 つまりそれを俺になんとかしろってことだな。


 キマイラの後方ではティアとニモフィラがつかず離れずの距離を保ち、尻尾のヘビをけん制していた。


 この均衡状態が維持できているうちに策を考え、手を打たなければならない。


 立ち上がったキマイラが前脚で地面をかいている。


「ヤツの次の行動はなんだ?」


「こんな動きを見せたのは初めてだっ」


 生態が四足の動物と同じなら、この次に考えられる行動は一つだ。


「突っ込んでくるぞ! 気をつけ――」


 一瞬だった。

 前脚が地面を蹴ったと思った瞬間にはライオンの頭が目の前にある。


「くっ」


 ぶつかる瞬間、キマイラの鼻に右手を添えて押し込み突進方向を左へわずかにずらす。

 さらに自分の体を左回りに回転させ衝撃を逃がしつつ、自らも飛んだ。


「がっ」


 クルクルと回転しながら大きく飛ばされる。

 地面でバウンドしながら勢いを殺す。

 下が柔らかい砂の地面で助かった。


「ジニア!?」


「シショー!」


 衝突と落下時のダメージはミルフォイルのシールドが吸収してくれたようだ。

 だがあの体当たりをもう一撃は厳しいかもしれない。


 衝撃のせいですぐには声を出せそうになったので、右手を挙げて無事であることを知らせる。


 ここにきて新しい攻撃方法を見せるとはやってくれるじゃないか。

 だがお陰でわかったこともある。


 このキマイラは三種類の動物が掛け合わされた存在だ。


 炎を吐くライオンの頭。

 突進するヤギの体。

 毒を持つヘビの尻尾。


 それぞれは連携しているようで実のところそうではない。


 もしも連携できていれば、さっきの突進の時にライオンの牙で俺を食いちぎることだってできたはずだ。

 倒れた俺を追ってヘビで噛ませることもしなかった。


 それなら戦い方はある。

 幸い相手は強力な攻撃を繰り出したあとは大きな隙もできるようだ。

 突進後に足が止まっていることからもそれは明らかだった。


 策を練る。

 相手の隙をつき、攻撃を畳みかけるにはどうすればいいか。


 最大火力を持つのはヘビィアームドのタンジーだ。

 それを基点として手順を構築していく。


 狙いどころはやはり火を吹いたあとの隙だ。

 あれだけ大きな隙であればこちらの準備を整えるのに十分な時間が得られる。


 だがタンジーの必殺技には準備が必要だ。

 それはキマイラが炎を吐いてから生じる隙だけでは足りない。


 ディープアリゲーターなら口を閉じているところを押さえてしまえばいい。

 ではキマイラの場合はどうか?


 首根っこを押さえようとしても、体格はキマイラの方が上だからダメージがない状態では簡単に振りほどかれてしまう。


 どうにかしてその場に釘付けにしておけるだけのダメージを与える必要があった。


「タンジー! 次に火を吐くときに右側へ回り込んで一番の攻撃を叩き込め!」


「時間が必要だ!」


「任せろ。俺が稼ぐ!」


 立ち上がってキマイラへ向けて歩いていく。

 一番いい位置で炎を吐かせてやるからな。

ここまで読んでいただきありがとうございます。


「続きを早く読みたい!」と思われましたら【ブックマークに追加】(更新通知にチェックを忘れずに)をお願いします。不定期更新なので、その方が読み逃しがないと思います。

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