第006話 審禍者③
もう一つは本当に自己満足に過ぎないが、根はいい奴ばかりだった『ONE&ONLY』のメンバーたちにも当然『禍』は憑いていた。
もちろん人を殺したような深刻なモノはなかったとはいえ、生きている以上どうしても少しずつ増えていくのは仕方がないことなのだ。
それを俺が定期的に除去していた。
消し去ることは『審禍者』である俺にも不可能なので、なぜか物心ついた頃から一緒にいる黒猫のアディに移すカタチでそれを行っていた。
アディは不思議な小動物で、他者に憑いていた『禍』を移すことができた。
そしてより不思議なことにすぐには無理でも、移してしばらくするとなぜか『禍』がどこかへ消えてしまうのだ。
まるでその艶やかな漆黒の毛皮に、吸収されてしまったかのように。
ダインはその大雑把な性格から、フィンは自分にも他人にも厳しすぎるところからその手の負の感情を集めやすいというのもあった。
サラやアイナは優秀な冒険者というだけではなく、その女性としての魅力から一方的に寄せられる思慕、劣情が禍のカタチを取っているモノも多かった。
なによりもS級まで一足飛びで『ONE&ONLY』が躍進するにつれ、深刻ではないモノの嫌な色味を帯びた大量の禍が元仲間たちにとり憑くことが多くなった
実害はないと判ってはいても、なんとなく元仲間たちにそんなものが憑いているのが嫌で、目立つようになる都度アディへと移させてもらっていたのだ。
そのせいかどうかはわからないけれど、小動物として可愛がっていたサラとアイナだけではなく、ダインやフィンもアディを大事にしてくれていたように思う。
何ならアディがいるからこそ、俺は解雇、追放の憂き目にあっていなかったまであるかもしれない。
俺を切り捨てた後ろめたさからアディが捨て猫になってしまう可能性も完全には否定できないけれど、最後の様子からして罪滅ぼしがわりに大事にされることを期待してもよさそうだ。
せめてそれくらいは望ませてほしいものである。
そんな自己満足でも、俺を含めて禍がほとんど憑いていない『ONE&ONLY』は、なんとなく幸運に恵まれているような気がしていたのだ。
それが事実かどうかは置くとしても。
そして最後の一つは、もしかしたらかなり実利を伴っていたかもしれないものだ。
普通はその相手がやばいとわかったとしても、そう簡単に距離を取れるものでもない。
よほどこちらの名声や実力が上でもない限り、利害関係や付き合いといったしがらみからは逃れ難いものなのだ。
それにやばい相手がわざわざ向こうの方から笑顔で俺たちへ近づいてくるのは、相手になんらかの利益がある場合がほとんどである。
表面上はにこやかに、さも普通の人として近づいてくるので質が悪い。
その上、立場的には向こうが上であることがほとんどだ。
下手にこちらがなにかに感付いていることを悟られれば、それこそ直截的な身の危険にもつながりかねない。
いかに『ONE&ONLY』が唯一職揃いの有力パーティーであるとはいえ、それはあくまでも迷宮や遺跡で魔物を相手にした場合の話だ。
生活の拠点である街中でそれを生業としているような同族に不意を突かれた場合、成す術もなくやられることだって十分に考えられる。
どれだけ強大な戦闘能力を持っていても、人は人である以上、社会――利害関係に雁字搦めにされた人の集団のなかで暮らすことからは逃れられない。
相手はその蜘蛛の巣からどうしても逃れられない得物を狩ることに特化した蜘蛛なのだ。
戦いの場ではなく日常に潜む悪意こそが、あるいは一番恐ろしい。
だがそのやばい相手。
迷宮や遺跡の中であればともかく、街中では冒険者であろうが苦も無く殺せるはずの連中が、あからさまに俺を恐れるのだ。
なにも俺が威圧感を振り撒いたり、威嚇して回っていたわけではない。
そもそも俺がそんなことをしたところで、本来は歯牙にもかけない様な連中が相手である。
相手にもなぜ俺を恐れてしまうのか、自分自身でも理解できていない感じだった。
それでもどうしても向こうから俺に関わるどころか、近づくことさえ嫌がる自分をどうにもできないといったところだろう。
サラやアイナには「対悪人最終決戦兵器」などと笑われていたが、強ちそれが外れているというわけでもなかったのだろう。
俺が近づくと、禍はなぜか活性化する。
ぞわぞわと蠢き、なにを言っているかわからない呪詛の声はその音量を増す。
だからといってなにができるというわけではないのだが、その活性化とほぼ同時に憑かれている相手が俺に対して死神でも見るような目を向けてくるのだ。
生物としての本能とでもいうべきものが、俺に関わるなと告げているのかもしれない。
もっとも俺はそんな赤の他人、しかも人を殺したことで憑いたであろう禍をアディに移すことなど考えられないので、なにをするというわけでもなかった。
大体こちらからじっと見ると、禍も俺のことを認識しているような気がしたし、話しかけて答えられたりした日にはすっ飛んで逃げるしかない。
元仲間たちに憑くような程度であればまだなんとでもなるような気もするが、死者から生じたでであろう禍など、「見ざる聞かざる言わざる」を徹底するにしくはない。
実際憑かれている相手から俺を恐れてくれるのであれば、これ幸いと距離を取ることを徹底していた。
人を殺すようなタガが外れた連中から、『ONE&ONLY』がうまく距離を取りながらも敵対視されず、排除対象にもならなかったのはその恐れのおかげ。
だったのかもしれない。
自分なりに追放、報復もののプロットを考えていた物語です。
コロナでお盆の予定がすべて吹っ飛んでしまったのでその時間を有効活用? して一応の着地点まで書けたので、投稿開始いたします。
※着地点までは基本的に毎日投稿します。本日は第007話まで投稿予定。
楽しんででいただけると嬉しいです。
【恐れ入りますが、下記をどうかお願い致します】
ほんの少しでもこの物語を
・面白かった
・続きが気になる
と思っていただけましたら、ブックマークや評価をぜひともお願い致します。
評価はこのページの下側にある【☆☆☆☆☆】をタップしていただければ可能です。
書き貯めて投稿開始した本作ですが、面白いと思っていただければ最初の着地点を越えて続けていきたいと思っております。ぜひ応援よろしくお願いします。




