表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

4/39

第004話 審禍者①

 視覚も、聴覚も封じられ、口もきけなくなった。


 どうやら展開された第一から第三までの拘束術式とやらが、俺のそれらの身体機能を文字通り拘束しているらしい。

 魔法一つ使えない俺に対して念入りなことだと、この期に及んでもなお妙な感心をしてしまう。


 今現在の俺自身が実際はどれだけ取るに足りない存在であろうが、聖シーズ教と冒険者ギルドにとって異教者(チーター)――『審禍者(さかわ)』という存在が、それだけ忌むべき存在だということなのだろう。


 ここまで忌まれる――言葉を変えれば警戒されている存在のわりには、今の俺に成す術などなにも残されてはいないのだが。


 ――どうしようもない。


 本当に情けないことに一方的に『異邦人(チーター)』だと決めつけられ、死霊(レイス)魔物(モンスター)が中心であるこの螺旋状迷宮(ダンジョン)、『禍封じの深淵』の中央縦穴に投げ捨てられるであろう俺が、最初に浮かべた思考はそれだった。


 間違いなく助からない。

 

 この迷宮(ダンジョン)の中心を縦に貫く、奈落まで続いているような穴に放り込まれては、浮遊(レビテーション)などという伝説級の魔法など使えるはずもない俺では正しくどうしようもない。

 五感のいくつかを封じられているとかいう問題じゃない。

 底に叩きつけられてぐちゃくちゃに砕け散るまでどれだけ時間が残されているのかを知る術などないにせよ、遅かれ早かれそうなる未来は確定している。


 未来最高(クソッタレ)


 もしも奈落の底が高所からの落下を受け止めてくれるようなふわふわもふもふだという奇跡があったとしても、今の時代の冒険者たちが攻略できているのはせいぜい第十階層やそこらだ。

 それだってS級パーティーが時に犠牲を出しながらも、なんとか攻略回数を一つ一つ時間をかけて積み重ねていった結果なのだ。

 そんな迷宮(ダンジョン)の最下層の魔物(モンスター)を俺が単独(ソロ)でなんとかできる可能性など、無いに等しいという言葉ですら生温い。


 絶無である。


 もしも生き残れたら殺してやるなどと呪詛を気取ったところで、現実はこれだ。

 諦観に支配され気味になってしまうのはもうどうしようもない。


 それにほとんど弁解の時間など与えられなかったが、そのごく短時間であっても相手が俺の言葉を聞く気などまったくないことだけはよくわかった。


 世界宗教である聖シーズ教と、国家間を股にかけた世界最大規模の組織である冒険者ギルドが、そろって俺を『異教者(チーター)』だと定めたのだ。


 祝福された『祈る者(プレイヤー)』として神の力を分け与えられ、人に仇をなす魔物(モンスター)を狩るいわば超人を統べる組織である冒険者ギルドとしても、聖シーズ教が『異教者(チーター)』だと断定した者を庇護することなどできるはずもない。

 であればその決定を覆す力など、たとえ有力パーティーの一員()()()とはいえ、一元冒険者にすぎない俺にあるはずもないのだ。


 つまりは百万が一生き残れたところで、もうヒトの社会で生きて行くことなどできはしない。

 元仲間たちに、これ以上迷惑をかけるわけにもいかないしな。


 今のこの世界で『聖シーズ教』と『冒険者ギルド』からその存在を否定される者など、市井に生きる普通の人たちにとっては公共の敵(パブリック・エネミー)でしかない。

 (かくま)うことなど論外で、見かけたら即通報する対象にしかならないのは明白、それを責める気にさえなれない。


 俺だってそんな厄介事(ビックトラブル)を抱えこむなど、一考するにも値しない。

 たとえそれがパーティーの仲間だったとしても、見捨てることに躊躇などしないだろう。


 だからそういう意味で元仲間たちをそこまで恨む気にもなれない。


 そもそも自分が所属していたパーティー――『ONE&ONLY(スプリーム)』の一員(メンバー)としての実力を認められていなかったことは、自分でもわかっていたことだ。


 ついさっきまでは幸いだったことに、俺は最初のパーティーが最後のパーティーになったわりと珍しい部類に入る冒険者と言っていいだろう。

 多くの冒険者はいろんなパーティーを渡り歩くことがほとんどなのだから。

 しかもそれが近年では最速でS級――その名のとおり最高位(スプリーム)まで上り詰めた有力パーティーとなればなおのことである。


 だが俺はそのS級パーティーのメンバーとしてはお荷物だった。


 少なくとも傍目からはそう見えていただろうし、仲間――と信じていた連中も言葉や態度はどうあれ、多かれ少なかれそう思っていたことは間違いない。


 短期間にS級まで駆け上がったのはすべて他のメンバーたちの力によるものであり、俺は具体的にはなにもしていない。

 客観的に見れば俺は、希少職(レアジョブ)を神から授かった才人たちに寄生して成り上がった、運に恵まれただけの唯一職(ユニーク・ジョブ)詐欺だと思われていたはずだ。


 それすらも今から思えば、公共の敵(パブリック・エネミー)と看做されるよりはよほどマシなのだが。


 S級パーティー『ONE&ONLY(スプリーム)』は希少職(レアジョブ)の中でもなお特殊である、唯一職(ユニークジョブ)と呼ばれる者だけで結成されたパーティーだ。


 リーダーのダイン・エルノーグは世界宗教『聖シーズ教会』に祝福された『勇者』

 サブリーダーのフィン・ブレインは大陸中央魔導院、通称『塔』所属の『賢者』

 サラ・ティスタニアは西方にある『世界樹』出身の長寿族(エルフ)で『聖女』

 アイナ・ヴァイセルは『浮遊大陸ソル・アルケ』出身の竜人種(ドラゴアニール)で『剣聖』


 そこに俺――どこの馬の骨ともしれぬイツキ・ツチミカドが『審禍者(さかわ)』として加えてもらっていたというわけである。

 はっきり言えば唯一職(ユニークジョブ)だけでパーティーを構成することに、リーダーであるダインが拘っていたおかげで声をかけてもらえたのだ。


 ついさっきまで俺自身も、『審禍者(さかわ)』は単なる唯一職(ユニークジョブ)だと信じていたからなあ……

 まさか元仲間たちも、俺が『異教者(チーター)』、中でも『最も忌むべき者』と聖シーズ教から看做されている爆弾だなどとは夢にも思っていなかっただろう。


 いや俺も想像すらしていなかったわけだが。


 どのタイミングで俺の正体とやらを知ったのかは今となっては知る術もないが、それまでは「せいぜい使えない唯一職(ユニークジョブ)拾っちゃったなあ」あたりが元仲間たちの正直なところだったのではなかろうか。


 それでも俺以外の四人が他を圧倒する実力を誇る唯一職(ユニークジョブ)揃いだったので、リーダーの拘りと、一度は自分たちから誘った仲間を自分たちから追放するという罪悪感から逃れることを優先することもできていたのだ。


 その正体がただの役立たずどころか『異教者(チーター)』となれば、さすがに庇いだてする義理などありはしない。

 万が一にでも神敵に(くみ)する者とみなされるかけにはいかない以上、追放はもちろん、捕縛と処刑に協力することも言ってみれば当然だ。


 誰だってそうする。俺だってそうする。


 俺が教会と冒険者ギルドに処刑されるのは俺が神の敵たる『審禍者(さかわ)』だからであって、元仲間たちにはなんの責任もないのだから。


自分なりに追放、報復もののプロットを考えていた物語です。

コロナでお盆の予定がすべて吹っ飛んでしまったのでその時間を有効活用? して一応の着地点まで書けたので、投稿開始いたします。


※着地点までは基本的に毎日投稿します。本日は三話まで投稿予定。

 のつもりだったのですが……四話も投稿しました。


楽しんででいただけると嬉しいです。


【恐れ入りますが、下記をどうかお願い致します】

ほんの少しでもこの物語を


・面白かった

・続きが気になる


と思っていただけましたら、ブックマークや評価をぜひともお願い致します。

評価はこのページの下側にある【☆☆☆☆☆】をタップしていただければ可能です。


書き貯めて投稿開始した本作ですが、面白いと思っていただければ最初の着地点を越えて続けていきたいと思っております。ぜひ応援よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ