第033話 さよなら①
アディとの合流も思ったよりも簡単に叶ったので、俺は今ある目的のために元仲間たちに会いに来ている。
ああ、左肩にアディが乗ってくれているとやっぱり落ち着くな。
まだ幽体だが。
俺の肩、というより体格が全体的に屈強で笑いそうになるが。
もはや身につけている衣装や装備、生えた角や第三の目は気にしないことにする。
当のアディさんは安定感が増したのか、ご満悦のご様子。
さっきから喉を鳴らしておられるが、幽体でもそういうことできるんだね。
ちなみに制御体ミステルは一旦竜殻外装ミステルと合一し、迷宮都市ヴァグラム周辺の状況を把握してもらうように指示したので今はいない。
虚仮脅しとしての役目は終わったのでそろそろ禍の渦を収めたいし、そうすると搦手が準備されているのであれば、それなりの戦力がここへ雪崩れ込んでくる可能性もある。
ここを鏖にして、それを全部俺のせいにされるのは少々都合が悪い。
それでもある程度目的は果たせるかもしれないが、どうせ犠牲を払うのであれば極力大きな効果を得たいし、復讐に猛り狂っているわけでもないので要らん被害を無駄に拡大させるつもりもない。
必要であれば躊躇うつもりなどないが。
まあもし本当に搦手を仕掛けてくるのであれば、その戦力を一掃して見せるのは、理解の及ばぬ逸失技術や時代錯誤遺物を砕くよりもよほどわかり易い示威行為となるだろう。
まずは三日ぶりに、元仲間たちに会うことだ。
そうしないと俺の思惑は始まらない。
よって俺は身一つで、過ごし慣れたとある宿屋に足を踏み入れる。
◇◆◇◆◇
ミステルが言うには、俺が一瞬だと感じていた怒りの狂気に身を任せていた時間は、三日間にも及んでいたらしい。
もうハッキリと思い出すことはできないが、言われてみれば一瞬のようでもあり、随分と長い時間であったようでもあり……
どちらにせよもう二度とあんな状況には陥りたくはない。
審神者の力がなければ、完全にあの激情にのみ込まれていたであろうことは想像に難くない。
そんな状態でいつ果てるとも知れぬままに時を累ねるのは、控えめに言っても地獄だ。
だがミステルは実際に、その地獄に千年もの間捨て置かれていたのだ。
最初の審神者でもあった聖女アイナノアでさえ、孤独の狂気に囚われたままで。
俺もそうしようとした者は、自分がそのままそれをやり返される可能性くらい、当然覚悟の上だったのだろうと言わせてもらいたい所存である。
元アンジェロ・ラツィンガー枢機卿であった禍には、数年後に一度会ってみるべきかもしれない。
ご機嫌如何ですか、と。
いやそうじゃない。
「久しぶり……でいいのか?」
三日が経過しているとはいえ「久しぶり」という言葉を使いたくなるほど、今俺の目の前にいる四人はみな変り果ててしまっている。
普通たった三日でこうまではならない。
いや普通じゃない状況に置かれていたというのであれば確かにそうなのだろうが、それでもたった三日ここまで悴れるものだろうか。
「イツキ……なのか?」
一番変わり果てているといってもいい『ONE&ONLY』のリーダー、聖シーズ教から『勇者』認定を受けているダイン・エルノーグさんが怯えたような声で問うてくる。
ここは俺も『ONE&ONLY』の一員だったころから定宿としていた、高級に分類される冒険者用宿屋『黄金の鉄の塊亭』の共用スペースだ。
酒場でもあるここには、夜攻略組の冒険者たちが昼間から呑んでいることも多かったものだが、今は誰もいない。
客どころか店員すらいないというのはかなりの異常事態と言えるが、街全体がこれだけの状況に陥っているからには順当ともいえるのかもしれない。
いや変り果てているという意味では俺ものはずだ。
顔こそ変わっていないとはいえ、体格や身につけている装備に始まり、頭から生えている山羊角や額に開眼している第三の眼まで増えているとなれば、普通同一人物とは思うまい。
なにより見た目の年齢も間違いなく若返っているのだ。
一目見て俺だと思う方がおかしい。
だが変り果てたダインの言葉に反応して俺を見た他の三人の反応はそれぞれ違うが、みな俺を元仲間であるイツキだとちゃんと認識しているようだ。
ダインたちにとって、この三日で自分たちに起こった変化は、俺の見た目が変わったことなど比べ物にならないほどのモノなのだろう。
それだけのことを起こした張本人であれば、山羊角が生えようが第三の目が開眼していようがある意味当然で、あるいは神の敵としてその方がらしいとまで思っているのかもしれない。
「やっぱり俺たちは……直接殺しに来たのか?」
絞り出すようなダインの声に、同じ席に暗い顔で着いているフィンとサラ、アイナの身体がビクンと震える。
その可能性も充分にあると、覚悟しているからこその反応だ。
そのくせ大きく取り乱さないのは、この三日間にこの街に起こったことをほぼ正確に把握できているからか。
つまりは逃げることなどできないと理解しているのだ。
しかしこんな見た目となった俺よりも、左肩に乗っている幽体のままのアディの方を畏れているように見えるのはなぜなのか。
枢機卿にそうしていたように、毎夜アディがダインたちを威嚇して回っていたというわけでもあるまいに。
実際当のアディは特に敵愾心を持っているわけでもなく、寛いだ様子を崩していない。
しかし君らそんな仲良かったですか?
迷宮に潜らない日の日中から、全員で集まって一緒にいるなんてこれまでほとんどなかったように思うんだけど。
まあ生き残っているのが自分たちだけともなれば、そうせざるを得ないものなのかもしれんが。
「いやなんでよ?」
とはいえ俺は殺すつもりなどない。
やっぱりってなんだ、やっぱりって。
本当だ。
どこぞの枢機卿殿のように、元仲間たちがすでに禍に堕してしまっているということもなければ、今から残虐に嬲り殺してやろうなどとも思っていない。
「殺さないのか?」
「もしもそのつもりなら、とっくにそうしていると思わないか?」
意外そうに問い返す悴れたダインに、本気でその気はないと答える。
おそらく俺は、仲間だと思っていたダインたちに売られた。
聖シーズ教と冒険者ギルドから俺が『審禍者』――神の敵であることを告げられ、極力事を荒立てないままに始末することに対する協力を強いられた。
そりゃ哀しいし、切なくもある。
どこかの冒険譚みたいに、仲間を売ることなんてできるはずがないだろうと一緒に逃避行に誘ってくれていたら、『ONE&ONLY』の連中は俺にとってかけがえのない大切な存在に間違いなくなっていた。
だがそんなことは絵空事だということくらい、俺にも理解できている。
相談されれば、俺だって見捨てるという選択を支持しただろう。
それがダインであれ、フィンであれ、サラであれ、アイナであれだ。
そんなに役に立っていない、一応は仲間だというだけの俺のために、大げさではなく世界を敵に回してくれる者などいるはずもない。
だから元仲間たちが怯えるほど、恨みに思っているわけではないんだ。
自分でも少し意外なほどに。
自分が死んでいないということはもとより、アディがいなくなっていないというのも大きい。
そのアディも元仲間たちを前にして、毛を逆立てるでもなく欠伸をかましているくらいだしな。
とはいえまあ、今もまだ仲間だと思えるかと問われれば、さすがにそれもあり得ないのだが。
「裏切り者の私たちは、じっくりいたぶって殺すのではないのですか? そのために私たちだけを生かし……夜は悪夢で責めさいなんでいるのでしょう?」
「いやあの……」
どうやら俺は、かなりの悪魔認定を元仲間たちからされているらしい。
まあ後ろめたさも手伝えばそうなるのもわからなくもない。
サラとアイナなんて、見ていてつらくなるほど怯え切っているもんな。
ええい、期待に応えてやろうかな。
だから殺しませんて。
やってほしいことがあるからね。
利用価値がまるでなかったら……もしかしたら、そうしていたかもしれないけれど。
それに悪夢に苛まれるのは、ある意味自業自得ともいえる。
俺がアディに移していた君らに憑いていた禍が戻ったんだろう、たぶん。
それで悪夢程度で済んでいるのが、俺にもアディにも積極的な殺意のない証だと思うんだけど、審神者に詳しくなければそんなことがわかるはずもないか。
次話第034話 9/3投稿予定です。
元仲間たちと再会&決別。
イツキが己の在り方を粗々ですが定める話となります。
そのあとは最初のタイトルにあった王国絡みがあって、最初の着地点となります。
それまでお付き合いいただければ嬉しいです。
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