第020話 魔神①
俺の再生は完全に完了している。
その姿を今、目の前に浮いている鏡状のモノに映して確認している最中。
確かに強化の許可を求められて、それを快諾したのは俺だ。
なんなら「脆弱な身体で申し訳ないな」などと、強化を煽ったともとれる発言をしたことも認めよう。
それにしてもこれはさすがにやりすぎじゃないのか。
こんなの俺じゃない。
いや基は間違いなく俺であることだけははっきりわかるだけに、よりキツい。
それに姿見代わりにミステルがあっさり出しているこの鏡状のモノ、俺の記憶に間違いがなければ、神話に語られる古代魔法『三角縁神獣鏡』じゃないのか。
もしもそうだとすればその階梯は最上位とされている十を超える超階梯魔法。
魔力が続く限り鏡の内側にいる術者に対するあらゆる魔法を無効化し、その意志に従って空すら飛ぶ防御系魔法の究極である。
その消費魔力量から言っても、鏡だからって鏡代わりに使っていいような魔法ではない。
ミステルはなんでもないことのようにしれっとしているが。
そんなことよりも、その『三角縁神獣鏡』に映し出されている俺の姿こそが問題だ。
まずシルエットがおかしい。
普通の人には『竜角』なんて生えていない。
獣人の中では最強種の一角とされている『竜人』であっても、ちょっと変わった髪飾りだと言えば通るくらいのものが生えている程度だ。
実際元仲間の一人であり『剣聖』の職を持つ竜人、アイナ・ヴァイセルもそうだった。
その程度の大きさであっても、実質無限ともいえる外在魔力を吸収し己が魔力とする魔導器官である『竜角』を持つアイナは、武技の使用回数上限がほぼ無いに等しかった。
外在魔力の満ちる場所であれば己の内在魔力が底をついてからでも、『竜角』による吸収速度がそのまま武技を発動できる間隔となるからだ。
サラなどは膨大な内在魔力持ちではあったが、アイナのその特性をひどく羨ましがっていたものだ。
確かにアイナの武技のような勢いで治癒術を連発可能なら、一撃で殺されさえしなければ実質無敵のパーティーの出来上がりだからな。
その『竜角』のちょっとおかしいくらい大きいVerが、再生された俺の頭に生えている。
竜の角と言いつつ、ぶっとい捻じくれた山羊角にしか見えないのはミステルの趣味なのだろうか?
これが本当に飾りではなく、アイナから聞いていたような魔導器官としての機能を備えているのであれば、俺はほぼ無限に外在魔力を吸収できる存在になったということだ。
それに今『三角縁神獣鏡』に映る自分自身を視ている眼。
審神者の眼球は特別なモノらしく、こればかりは本来の俺の両の瞳があるべき場所に収まっている。
ちなみに聖シーズ教の誇るであろう拘束術式などミステルにしてみれば紐で縛られている程度に等しいらしく、あっさり第一、第二、第三共に弾き飛ばしてくれている。
いやそうじゃなくて額。
額にあろうことか第三の眼ができている。
自然すぎて逆に気持ち悪いくらい、自分の眼のひとつとして機能していてなんかアレだ。
『三角縁神獣鏡』に映し出されている額の灼眼は、間違いなく『竜眼』の特徴を備えている。
光に満たされた場所でも、真の闇でもすべてを見通し、魔力の流れすら可視化すると伝説にいわれているとおり、額に集中すればこの場の魔力の流れが映像として捉えられる。
――あー、ホントに俺の頭に生えている角に、魔力吸収されて行ってるわ。
しかしこれ『覚醒態勢』だけに開眼するようにとかできないのかな?
そうじゃなきゃ街に紛れるなんてこのままじゃ絶対に不可能だ。
額飾りとか付けたらいけるか?
とにかく再生に入る直前にミステルが不穏なことを言っていたとおり、己の片目と片角を俺にくれたということらしい。
ということは我ではなくて私の方が言っていた『神の血』とやらもこの『三角縁神獣鏡』に映る精悍な身体には流れているということか。
頭が痛くなってきた。
それだけではなく、どう考えても俺の人生でこんなに精悍な体つきをしていた時期など一度もないと断言できるほど細マッチョに仕上がっているし、年齢はどう見ても肉体的に最盛期となるであろう十代後半にしか見えない。
その引き締まった身体を包むぴったりとした漆黒の衣装は真紅の古代文字と魔石で装飾されており、本当にどこぞの魔神みたいだ。
なんか妙な黒焔みたいな視覚効果も出ているし。
背に羽織る長外套のカッコよさと言ったらちょっと笑ってしまうくらいだ。
無意味に広く開いた胸元には、素材代だけでいくらするのかわからないような豪奢な飾りが首から掛けられており、妙にセクシーでこれもまた笑うしかない。
これはおそらく、我と私の理想の主像を、好きなだけぶち込んだ結果なのだろうなあ……
というか受肉しミステルとなった元である『大いなる禍』は、神話によると確か八大竜王の一柱『黒竜王焔帝』をその器とし、『封印の聖女アイナノア』をその縛鎖として、ここ『禍封じの深淵』封じられていたはずだ。
つまり我が『黒竜王焔帝』で、私が『封印の聖女アイナノア』ってことだろう、まず間違いなく。
器と縛鎖としての意識が『大いなる禍』を統べ、その後千年を閲する過程でその両者が混ざったってあたりか。
話題や意識の向け先によって、そのどちらかがより強く表層化するのだ。
基本はどうも我っぽいが。
「あのこれ……ミステルの趣味?」
聞いてみた。
『左様。我が主となられるからには内在魔力のみならず外在魔力も使えねば格好がつくまいし、竜眼を以て人の扱う魔法など児戯としてもらわねば使い魔たる我の立場がない。審神者であられるからには人の御姿であることは止む無しとしても我が『竜角』と『竜眼』をお持ちいただくのは最低限だと考えた。なんとなれば竜の翼を背に持ってもらうのもありだが、そこはそれ、長外套とは合うまいしな。引き締まった躰にぴったりの衣装と、常に流していないと床につくくらいの長外套は外せませんよね? そこは絶対です。それに薄着でありながら超高階梯の魔法が付与されているのは基本ですし、薄着に似合うのは高身長かつ細身で引き締まった体躯ですよね? ね? それに私の御主人様なんですから身につけるモノの基本色は漆黒で、補助色は金や銀も捨てがたいんですがやっぱり真紅は外せません。何より体幹部分は薄着系で、両腕両脚が重装備系なのが一番シルエットが綺麗でカッコいいんです。主武装は創造してもよかったんですが、そこはやはり伝説に謳われる実在の『神遺物級武装』を迷宮で入手して装備するのが王道なので、ここから出たら浮遊迷宮『箱舟』まで取りに行きましょう。我の基本的な竜言語と私の神聖魔法は使用可能にしてありますが、これも冒険の果てに手に入れるのが浪漫なので世界に八か所ある『竜の巣』と五か所ある『聖女の試練』も回りましょう。そうしましょう。それにだな主殿、『神の血』のみならず『竜の血』も併せ持った御身は――』
――怖い。怖い。怖い。怖い。
本日中に第021話『魔神 下』を投稿予定です。
→すみません、明日に投稿に変更させてください。地上へ帰還も明日に投稿予定です。
明日はやっとこさ地上へ帰還します。けっこう派手に。
そこからはアディを取り戻しつつ元仲間→枢機卿と決着をつけ、物語のはじまりの地における着地点へ向かいます。
そこまでお付き合いいただければ嬉しいです。
よろしくお願いします。
※書きあがっている着地点までは基本的に毎日1話以上投稿します。
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