第002話 神敵滅殺②
「だから聞いてくれって! なあダイン! フィン! サラ! アイナ!」
聖シーズ教であれ、冒険者ギルドであれ、お偉い方々はすでに俺が存在しないかのように振舞うことを徹底されているご様子。
それ以外の方々はひどく緊張し、神敵と断定された俺の言葉に耳を傾けることは、悪魔の囁きに耳を傾けることと同義だと言わんばかりに怯えておられる。
そうとなれば頼れるのはパーティーの仲間たち――いや正確には元仲間たちというべきなのは理解できてはいるんだが――しか残されてはいない。
ここまでお膳立てが整った場へ普通の迷宮攻略の態で俺と共に来たからには、聖シーズ教や冒険者ギルドとグル、下手をすれば主導者である可能性もあるのは百も承知してはいるんだが、最後に縋れるのはもうそこくらいしかないのだ。
「うるせえ異教者が! よくも騙しやがったな!」
だが案の定、我らがリーダーであるダイン・エルノーグ氏はすでに俺のことを蛇蝎の如く嫌っておられるご様子。
もともと背中を預けた無二の戦友という関係でもない以上、そう意外な反応でもない。
それにダインはパーティーを率いるリーダーである以上、他のメンバーに対する責任というのもあるだろう。
ここで『異教者』を庇うような発言でもして、せっかくS級まで上り詰めたパーティーを巻き込んで『聖シーズ教』と『冒険者ギルド』を敵に回すことなどできるはずもない、というのは理解できる。
できるんだがリーダー、こっちもかかっているのは自分の命なんだよ!
「違うんだダイン! 俺だってそんなこと今初めて聞いたんだって! もしも知っていたら、のこのこ冒険者ギルドに登録したりしないよ!」
だいたい騙されたっていうなら、それは俺もなんだ!
ギルド窓口のお姉さんに「あれ? 珍しい職ですね」とか言われて舞い上がって、その使えなさを知って地面にめり込んで、ダインたちに拾われて救われたのが俺だ。
初めから知っていれば冒険者ギルドに近寄りさえしないし、『審禍者』が神敵認定対象だと知っていたら、そう言われた瞬間にすっ飛んで逃げてたわ!
俺だって関わった相手をこんな世界を敵に回すような事態に巻き込むことがわかっていたら、辺境で隠遁生活を模索してたよ。
そんなことが実際にできたかどうかは別にして。
だが俺の言葉にダインがばつの悪そうな表情を浮かべている。
そもそも俺がダインに売り込んだんじゃない、ダインが俺を拾ってくれたのだ。
その表情で、だいたい理解できた。
根は単純でいい奴なダインは、俺の言っていることなど初めからある程度理解できているのだろう。
それでも聖シーズ教と冒険者ギルドから「お前のところのメンバーの一人が『異教者』です」、と言われて逆らうことなどできるはずもない。
特にパーティーのリーダーともなればなおさらだ。
言葉こそ俺を罵るものだが、会話を成立させてくれているだけ優しいともいえる。
さすがは教会に祝福された『勇者』サマ。
まあその教会に今俺は殺されそうなわけだが。
「そもそもパーティーになんの貢献もできていなかった上に、異教者とは。救いようがありませんね」
「フィン……」
だがダインに代わって俺を一刀両断に断罪する言葉を投げつけてきたのは、副官のフィン・ブレイン氏。
こっちはダインとは違い、心の底から忌々しげである。
いやもとから働きの悪い俺を、蛇蝎の如く嫌っていることを知ってはいた。
大陸の魔法使いを統べる中央魔導院、通称『塔』から『賢者』の称号を得ている才人には、俺など勇者パーティーに寄生する塵蟲以下にしか思えないのだろう。
確かにその状況に甘えておりました、その点については深く反省いたします!
ですが勇者パーティー追放くらいなら受け入れる所存ですが、いきなり処されるのはあんまりだとは思ってはくれないモノか。
いや。
もしもそう思ってくれていたとしても、ダインの優しさ、言い換えれば甘さを聖シーズ教や冒険者ギルドのお偉い方に悟られるわけにはいかないもんな、リーダーを支える副官としては。
フィンにはダイン以上に、『異教者』に対して冷徹に対応する必要があるわけだ。
どうしたって強くならない俺をなんとか戦力になるように、自主鍛錬とやらに付き合ってくれていたのは厳しさとやさしさの両方だったことはわかっているんだ、俺だって。
「……まさか貴方が異教者だったなんて、私……」
「サラ……」
長寿族特有の美しい顔に憂いの表情を浮かべているのは、サラ・ティスタニア。
西方の亜人大国『世界樹』出身の、治癒術を使いこなす『聖女』様。
聖シーズ教は亜人であろうが獣人であろうが、同じ神の愛し子たちとして平等に扱う。
少なくとも表面的には。
だからこそ亜人、しかもどうやら末席に近いとはいえ長寿族の王族の一人であるらしいサラにしてみれば、『異教者』を庇うことなどできようはずもない。
パーティーメンバーどころではない。
西方どころかことによっては亜人種という種全体が、過去のように『まつろわぬ民』と断じられる可能性すらあるのだから。
種としての矜持を捨ててまで得た、まやかしとはいえそれでも無駄な血だけは流れない平和を、たった一人の『異教者』のために失うわけにはいかないのは当然だろう。
頼るのは酷な立ち位置だよな。
「悪い奴だとは思っていなかったが……異教者とあっては、な」
「アイナ……」
「異教者は絶対悪だ。私たちとは……相容れない」
パーティーメンバーたちもそれぞれの立場があり、『異教者』を庇うことなどできないことを理解していても、アイナにそれを言われるのは自分が思っていたよりもずっとキツかった。
アイナ・ヴァイセル。
浮遊大陸ソル・アルケ出身の獣人、中でも最強種とみなされている竜人種。
その竜人種に伝わる独特の巨大な刀剣を自在に駆使して戦う攻撃役中の攻撃役、圧倒的な破壊力を誇る『剣聖』サマだ。
圧倒的強者ゆえの余裕なのか、パーティーの中で一番役立たずな俺ともおそらく素で対等に付き合ってくれていた気のいいやつ。
とんでもなく強いくせに竜人種として特徴ある自分の躰を気にしているようで、妙に女の子らしいところも可愛らしかった。
俺の真の相棒である黒猫のことも、一番可愛がってくれていたしな。
もちろん男と女の関係などではなかったが、角があろうが尻尾があろうが、充分艶っぽくて綺麗だと思うぞと言えば、まるで初めて異性に褒められた小娘みたいに喜んでくれていた。
迷宮攻略上がりに楽しく酒を呑める唯一の相手だったのがアイナだったのだ。
少なくとも俺にとっては。
だがそんな程度の友誼など、相手が『異教者』と断定されてしまった事実の前には枯れ落ちた葉の一枚よりも軽くならざるを得ない。
キツイ言葉とは裏腹に、しんどそうに俯いてくれているのがせめてもだ。
そうだよなあ、元仲間に頼るのは酷だよなあ。
元であることを疑われるような言動など、とれるはずもないのだから。
恨みたいけど恨むこともできない。
俺だってそうすると思ってしまう以上、彼らの選択は妥当だとしか言えない。
「俺は異教者なんかじゃない! シーズの神々を信じている! 嘘じゃない! たまたま加護を受けられなかっただけだ! だけどそんな人、いくらだっているだろ!?」
だから無駄と知りつつ、もう一度聖シーズ教の偉い人に訴えかける。
無駄でもなんでも、最後の瞬間までできる抵抗をし続けるしかないのだから。
自分なりに追放、報復もののプロットを考えていた物語です。
コロナでお盆の予定がすべて吹っ飛んでしまったのでその時間を有効活用? して一応の着地点まで書けたので、投稿開始いたします。
※着地点までは基本的に毎日投降します。本日は三話まで投稿予定。
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