第018話 神敵受肉 上
『吐普加美依身多女』
念じた当の本人であるイツキにも意味など理解できていないその文言で、審神者がすべてを支配する『領域』がこの空間に展開された。
システム起動の命令とはそういうもの。
その文言の本来の意味がどうあれ、入力されればそれに紐づけられたシステムが起動してその効力を発揮する。
この世界を支配する力の理――魔法や武技と同じことだ。
それらは魔法発動呪文や武技発動言語によって、世界の法則を書き換える。
審神者が一般的な冒険者などの『祈る者』と呼ばれる者たちと違うのは、その力を行使する際に消費するのが自然界から生じる『外在魔力』でも、己の内から生ずる『内在魔力』でもなく、意志あるモノが吐き出し、世に溢れかえった『禍』――神の欠片であることだ。
聖シーズ教が信奉する神々が魔法と武技と魔力によるシステムを創り上げ、己に祈りを捧げる者――『祈る者』にその力を授けたというのであれば、審神者――『異教者』に力を与えるシステムを組み上げたモノもまた必ず存在する。
それは神と相反する存在。
悪魔、魔神、魔王――あるいは聖シーズ教が崇める神々に力及ばず敗れた異なる神か。
『異教者』とはまさに、その正体をそのまま現しているかもしれない。
だが今はまだ、審神者であるイツキも、その第二の使い魔となる『大いなる禍』も、己に力を、あるいはまさに禍を授けた異神に謁ことは叶わない。
己が崇め奉る神々に謁ことができぬ、世界に生きるほとんどの人々と同じく。
その異神の定めた理に従って展開された『領域』
それは審神者であるイツキを中心とした、半径約10㎞のほぼ真円を成している。
それだけの規模の領域展開であっても、この地点からでは地上には届かず『奈落』の底にも及んでいない。
この世界に人が住める惑星のつくりを知る者がもしもいたとすれば、その事実だけでこの神の敵たる『大いなる禍』を封じた縦穴『奈落』と、それを中心とした螺旋状大迷宮『封印の深淵』が、はじめから世界の理を外れていることが理解できるだろう。
そんな深い縦穴など人の手で掘ることはもちろん、自然に発生するはずもない。
人が星に穿つことができる孔など、高が知れているのだ。
『領域』は審神者の目を以て視れば、漆黒の球状に展開されている。
だがここまで深い位置だと地上の光が届くはずもなく、客観視すれば元より真の闇の中である。
目と口と耳を封じられているイツキにしてみれば、どちらにせよ同じではあるのだが。
「で、どうなったんだ?」
さんはい、といわれて素直に念じはしたものの、イツキにはそれでどうなったかを知る術がない。
意志疎通をはかれる、そうしろと言った『大いなる禍』に問うしかない。
『……審神者たる御身の『領域』が展開された』
『大いなる禍』が想定以上の広範囲にわたって展開された『領域』の規模に軽く引きながら答えると、当のイツキはわりと呑気に「領域?」などと重ねて疑問を持っている。
まあ確かに『領域』とだけ言われても、それがなんなのか理解するのは不可能だろう。
間違いなく聖シーズ教の手によって、千年間の間に徹底的に『審神者』に関する技術的秘訣は消されているのだ。
『この領域内において御身は神に等しく、命じられれば我ら禍は破壊のみならず、己の能力を行使可能となる』
領域展開しなければ、審神者が禍に命じられるのはその憑いている相手を破壊することのみとなる。
それとても審神者の存在なしでは現世になんの影響も与えることのできない禍を有効活用しているとはいえる。
憑かれた者がその破壊に抗する手段などほとんど存在しないとなればなおのことだ。
「この状態でお願いすればいいのか?」
『……まずは我の受肉を許可願いたい』
「受肉?」
『我ら禍が、依代を介して現世に顕現することをそう言う』
展開された『領域』内においては、禍がその憑いている対象を依代に受肉し、現世に関われる実態を持って顕現することが可能となる。
その際憑いていた禍が複数であればすべて合一されて受肉することになるが、それらが禍に堕する前に持っていた能力を行使可能となるのだ。
今回の場合、壊されたイツキの身体を修復するために『大いなる禍』の主人格となっている意識、『黒竜王焔帝』の竜言語と、『聖女アイナノア』の神聖魔法を使用可能とするために、まずは受肉が必要ということだ。
本日中に第019話『神敵受肉 下』を投稿予定です。
主人公&第二使い魔復活。
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