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第016話 邂逅 上

 ここまでの怒りに支配されたのは、間違いなく生まれて初めてだ。


 それが死に際してというのがいかにも間抜けで俺らしいが、()()が途絶えぬ限り俺はまだ死んでいないということなのだろう。


 ここまでの激情に焼かれていてもなお、完全に冷徹な思考が頭の片隅に常にあるのは奇妙な感覚ではある。


 あるいは(マガツ)を支配する『審禍者(さかわ)』としての能力が関わっているのかもしれん。

 今の俺の怒り、その成れの果てである(マガツ)どもを(つかさど)る存在が『審禍者(さかわ)』である以上、その苛烈な呪詛に意識が取り込まれないようにするのは大前提だというのは理解できる話だ。

 そのせい、あるいはおかげで、俺は今までビビっていようがキレていようが、どこか冷静な部分を常に持ち得ていたと考えた方がなるほど納得がいく。


 正直なところ自分ばかりかアディまで殺されているこの状況下で、ここまで冷淡に思考できているのが己の為人(ひととなり)ゆえだとは思いたくないというのもある。


 今俺が怒っているのは狂気にすら近い激情であり、嘘でもフリでもない。

 それでいてこんな思考も別ラインで走っているとなれば、マルチタスク派なんですというのも少々無理がある。


 我ながらキモい。

 『審禍者(さかわ)』の能力であってくれ。


『怒れる審神者(さにわ)、我らが(マガツ)の王たる者よ。御身はなにゆえにそうまで怒っておる。我らは御身の意志に従いなにをなせばよい?』


 突然そんな言葉がそのまま、俺の脳内に展開される。


 視えず聴こえず話せずの状態にされているはずの俺と意思疎通が可能というだけで、この問いを発した存在がただ者ではないということは明白だ。

 それはとりもなおさず聖シーズ教の秘奥の一つであろう拘束術式を、一時的にとはいえ無効化してのけているということに相違ないからだ。


 怒り狂った俺の意志に呼ばれて参じた(マガツ)だと名乗っておられる。

 本当でしょうか?


「我が力となれ!」


 だが怒り狂っている俺の表層意識は、深層意識におけるこのような疑問や思考を無視して脊椎反射的に怒鳴るような思考で反応する。


 我ながらふわっとした指示である。

 これでは従う気がある(マガツ)さんたちも困惑するだろう。


 大体俺がどうして怒っているのかを訊いておられることに関しては完全に無視ですよ。

 まあ怒っている人ってな、大概そういうものではあるけれど。


『我ら(マガツ)はもとより御身の力。その力を以てなにをなせばよい?』


 我慢強い。

 とても我慢強い。


 大きい声を出せば偉いと思っている人のような俺の表層意識に対して、我慢強くだからなにすりゃいいのと重ねて問うてくれている。


「殺せ! 俺を殺したものを! 俺の相棒(アディ)を殺した者すべてを‼」


 そうだ殺せ。


 お前が何者であったとしても、俺の意志に応える力だというのであればそれを以て殺しつくせ。


 聖シーズ教を。

 冒険者ギルドを。


 俺と相棒(アディ)を殺した、この世界そのものを。


 こればかりは怒り狂っている表層意識であろうが、冷静ぶっているこの深層意識であろうが関係ない。

 同じ一人のイツキ・ツチミカドの意志として揺ぎ無く統一されている。


 これ以上ないくらい具体的な指示だろう。

 自称(マガツ)とやらがそれを可能とする力を持つというのならば、今すぐそれを成せ。


『御意に。しかれども御身は未だ死しておらず、御身の使い魔(ファミリア)殿も肉体は失えど滅してはおらぬ。殺すべき相手が存在せぬが?』


 ――なんだって?


 いや俺が()()死んでいないことは自分でも認識できている。

 だからこそこうして『審禍者(さかわ)』の権能を駆使し、(マガツ)を呼び寄せることもできているのだろうから。


 だがそれとても時間の問題だと思っていたのだが。

 『奈落』に突き落とされて死なないと信じられるほど俺は強くない。

 ()()死んでいないというだけのはずだ。


 だがこのやり取りが死の間際の妄想ではないというのであれば、状況は激変したといっていい。

 この自称(マガツ)とやらと俺が、邂逅したその瞬間に。


 よし、落ち着け俺。俺氏。

 ヤケクソで怒りに任せて怒鳴り散らしている場合じゃない。


 この自称(マガツ)が言う使い魔(ファミリア)とやらがアディのことで、まだ死んでいないというのが真実となれば、俺がブチ切れている理由もなくなる。

 その上俺も死んでおわりになるというわけではないのであれば、アディを一人にしておくわけにもいかない。


 きちんと対話をする必要がある。


「――まて。オマエはなんだ?」


 なんとか怒り狂う表層意識を落ち着かせ、思考の再統合を成し遂げる。

 アディが生きているかもしれない、俺もまだ助かるかもしれないという強烈な情報は、無理やりにでも激情を抑え込むには充分だ。


 ここで喚き散らかし続けるようでは、生き残っても遠からずどこかで死ぬだろう。

 冷静さは大事だ。


 それに落ち着いて話し合うには、お互い最低限の情報共有は最低限だろう。

 まず自称(マガツ)さんの正体を問うてみる。


本日20:00前後に第017話『邂逅 下』を投稿予定です。


明日の18話でやっとこさヒロイン候補が受肉します。

ちなみに先輩使い魔殿は人化しません。

後輩使い魔殿はいろいろと混ざっているのでロデムのように変化します。


気に入ってもらえるといいのですが。


※書きあがっている着地点までは基本的に毎日1話以上投稿します。

 複数投稿をするとしたら、お休みの日を想定しています。


楽しんででいただけると嬉しいです。


【恐れ入りますが、下記をどうかお願い致します】

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と思っていただけましたら、ブックマークや評価をぜひともお願い致します。

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書き貯めて投稿開始した本作ですが、面白いと思っていただければ最初の着地点を越えて続けていきたいと思っております。ぜひ応援よろしくお願いします。

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