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ツギハギでも家族になる為に

「コハクの父親にか、それって……!」

クリスの顔が赤くなっていくのと、アメリアが真っ赤な顔で、しきりに空いている手を顔の前で振るのが、同時であった。

「ち、ちがっ……! 別に私と結婚して欲しいとか、夫婦になって欲しいとか、そういう事ではありません! 便宜上です! コハクちゃんの教育上の!!」

「そ、そうだな……。そのつもりで言っただけだ!」

「そ、そうですよね! ははは……」

アメリアの乾いた笑いが辺りに響く。コハクが身動ぎしたのを機に、二人は話を元に戻した。

「私は構わない。それが、コハクの教育にもいいだろうからな」

「ありがとうございます。クリスさん……!」

アメリアはコハクを抱いたままで、頭を下げる。クリスはアメリアの肩を叩くと、頭を上げるように促した。

「私は子供が居ないから父親として、わからない事も多く、迷惑もかけると思うが……。よろしく頼む」

「クリスさんだけじゃありません。私も結婚した事が無ければ、子供もいません。私もわからない事だらけです。だからこそ、一緒に、コハクちゃんに相応しい親になりましょう」

こちらこそ、よろしくお願いします。とはにかむように、アメリアは笑う。

クリスも笑みを浮かべると、空を見上げた。

アメリアもつられて空を見上げると、空の高い位置には月が登っていたのだった。


「月って、あんなに小さいんだな」

「そうですね」

「人で居る時は、空を見上げる余裕が無かった。いつでも、見上げられると思っていたからかもしれない。だが、ドラゴンになって、空を見上げる余裕が出来て、月が小さい事を改めて知った」

「そう、ですか……」

アメリアはクリスの横顔を見つめる。

月明かりに照らされて、クリスの首筋辺りの鱗が輝いていた。


「不思議なものだな。これまでと立ち位置が変わっただけで、世界がまた別のモノのように見える。同じ世界なのにな」

クリスは視線を戻すと、愛おしそうにアメリアを見つめた。

その慈愛に溢れる眼差しに、アメリアの心はドキっと大きく跳ねたのだった。

「ツギハギの家族か……」

「おかしいですか? 言い得て妙だと思ったんですが……」

「言い得……? ああ、そうだな。ぴったりだと思う。私達らしいな」

納得したように頷くクリスに、アメリアも頷き返した。


「私達は血の繋がりがあるわけでも、以前からの知り合いでもありません。今日出会って、今日家族になりました。何の接点もなく、バラバラだった私達は、ツギハギを合わせたように一つになったんです」


「……異世界人と、魔女と、ドラゴンとして?」

「そうです!」

やや含むように混ぜっ返してきたクリスに返しながら、アメリアは頷く。

「異世界人でも、魔女でも、ドラゴンでも、関係ありません。私達は家族として一つになれたんです。私達は『安心出来る場所』を得られたと思っています。……そうなれるようにしたいです」

「私も、ここがそんな場所になれるようにしよう」

安心させるようにクリスは笑う。アメリアも笑い返しながら、続けたのだった。

「家族なんて、ある事が当たり前のものだと思っていたのに、改めて欲しいと思ってもなかなか得られないものなんですね」

「私もだ。人間だった頃は、当たり前過ぎて、何も考えていなかった」

「これが、『同じものでも、立ち位置が変わっただけで別のモノのように思える』でしょうか?」

「そうだな」

そうして、クリスは立ち上がってアメリアの正面に回ると、手を差し出した。

「そろそろ、家に戻らないか? 夜風に当たり過ぎると風邪を引くぞ」

「そうですね」

アメリアは手を取ると、クリスに手を引っ張ってもらった。

「そうは言っても、私は風邪を引くのかわからないがな」

「そうですね……。ドラゴンって風邪を引くのでしょうか……? あっ! クリスさんとコハクちゃんのベッドを用意しないと!」

「私は掛布さえあれば、外でも、床でも、構わないが?」

「だ、駄目ですよ〜。身体が痛くなります!」

二人は自宅に戻りながら、話を続けた。

話ながら、クリスはさりげなく、アメリアからコハクを預かってくれた。

「コハクちゃんは、私のベッドでもいいかな? 小さいから一緒に寝られそうだし」

「ああ、コハクなら、アメリアと一緒に寝られそうだな」

そうして、アメリアは自宅のドアを開けると、家の明かりを灯したのだった。

「さあ、どうぞ。入って下さい。クリスさん、コハクちゃん」

「ああ。邪魔をする……いや、違うな」

アメリアは首を振って、笑みを浮かべる。

「そうですよ。ここは、今日から私達の家なんですから!」

クリスはしばし、躊躇ったが、やがて、呟いたのだった。


「……ただいま」


「おかえりなさい」


アメリアは柔らかく微笑むと、二人を出迎えたのだった。

パタンとドアは優しく閉まった。ドアの隙間からは、淡い光が漏れていた。

やがて、パタパタと二人の足音と、一人の寝息がドアから漏れてきたのだった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 心情や情景、それぞれの事情などがわかりやすくまとまっていてよかったと思います。 [一言] 最後まで一気に読ませてもらいました。 捨てられた3人が新しい名前で家族になる、あたたかい話で読んで…
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