娘の話
私はこことは違う世界からやってきました。
どこが違うのかと具体的に聞かれても困りますが、まるで違うのです。
私は元々いた世界では、OLをしていました。
OLって何かというと……そうですね。
会社……はこの世界には無いので、働いている人達を補佐する仕事、と言えばわかりやすいでしょうか?
その日も、いつもの様に仕事に行って、上司に怒られて、家に帰って美味しいものを食べて、明日に向けて寝るだけ……。
だと、思っていました。
私は自宅のベッドに寝ていた筈でした。
しかし、目が覚めると、そこは見慣れぬお城の一室でした。
目が覚めた私はメイドに連れられて、王様の前に連れて行かれました。
そうして、ここが異世界である事、私はその国を救う為に異世界から召喚された事を知りました。
正直、「国を救う」と言われても、何をすればいいのかわかりませんでした。
私を召喚した魔術師達は、「異世界から召喚された者は、何か常人とは違う能力を一つ持って召喚される筈だ」としきりに話していました。
しかし、私には何も能力がありませんでした。
知力、体力、魔力、何でも試しました。
けれども、私には何もありませんでした。
最初は苦笑いだった魔術師や王宮の人達だけではなく、次第に王様まで愛想を尽かしました。
そうして、再度、召喚の儀式が執り行われたのです。
私と同じ異世界からやって来たのは、十八、九歳くらいの女子大生でした。
彼女はこの世界に召喚された時から、類稀なる魔力と能力を持っていました。
そうして、その国の危機を救ってしまったのです。
彼女を祝福するパレードの最中、私は自分が惨めでなりませんでした。
私は何も役に立たなかった。
出来損ないだった。
彼女と比較されて、無能だと言われている様でした。
この時は、毎日がとても辛くて、そこにいるのも、生きていることさえ辛かったです。
国を救った彼女は、王様から第一皇子との結婚を勧められていました。
その一方で、私には王様の代理でやってきた魔術師から、ある取り引きを持ちかけられました。
「救世主でも、何でもない貴方がこの国に居ても、これ以上、役に立つ事はないだろう。それどころか、異世界から来た人間が二人居てもややこしいだけだ」
そうして、魔術師はこう告げたのです。
「この国を出て行って欲しいと」
そうして、私は多額のお金とーーといっても、私にはこの世界の物価や貨幣価値がわかりません。生活するのに必要な品々をもらって、国を出ました。
国境付近までは、国から派遣された兵士達が付き添ってくれました。
それからは、一人で旅をしました。
私は安心して暮らせる場所を求めて、旅をしました。
正直に言って、 女の一人旅はとても怖かったです。
ここは、私が住んでいた世界ーー国とは違って、魔物や野盗が当たり前のように存在していたので。
私は早く安心して暮らせる場所が欲しかったです。
ーー出来れば、異世界から来た人間や、救世主のなり損ないと言われない。安寧の地を。
ところが、私はこの国の人達と違うことに気づきました。
生活水準や識字率ではありません。
見た目から違っていました。
この世界には、黒髪と黒目の人種はいなかったのです。
誰もが明るい髪色と瞳の色をしていました。私がその中に入ると、悪目立ちをしてしまいました。
私はただ穏やかに暮らしたいだけです。
なのに……時には、見世物のようにされた事もあります。
そうして、いくつもの国を旅して、私はこの国に辿り着きました。
この国と周辺の諸外国に住んでいる人達は、黒髪に近い、藍色や紺色系の髪と瞳を持った人ばかりです。
私はその中でも、とりわけそういった人達が多い地域で、私を珍しがらない村の外れに住むことにしました。
今、住んでいる家は、元々は年老いた魔女一族が住んでいたそうです。
今は魔女が亡くなって、空き家になっているとの事で、私は格安でーーといっても、私にはこの国の貨幣価値がわからないので、おそらくですが。家を譲って頂きました。
今は、村の手仕事ーー簡単な畑仕事や、識字率の低い村なので、代筆や子供達への教育をして、日々の生活に必要なものを、必要な分だけ分けてもらって生活しています。
貴方に渡した洋服も、その一つです。
別の品物を後払いで貰う予定でしたが、事情を説明して、男性用の衣服を分けて貰いました。
そうして、村外れでの生活と手仕事に慣れた頃でした。
私は、私が持っている能力に気づきました。