貴方はどっちですか?
「人間じゃないって……。でも、貴方は人間でしょう?」
「元。な。今はドラゴンだ。ドラゴンは人間とはまた違う。だから、私には人間は育てられない」
ドラゴンは水色の瞳で洞窟に差し込むオレンジ色の光を見つめた。
外はいつの間にか、紫色の空に変わっていた。
いつもなら、もう夕飯を作り始める頃だろう。
「ドラゴンでも、子供を育てる事は可能です。貴方には人間だった頃の知識が心があるでしょう」
「それでも、駄目なんだ!」
ドラゴンは眠ってしまった少女を起こさないように、小声で強く否定した。
「私では、少女に人並みの幸せや生活を送らせる事が出来ない。彼女に人間らしい事を経験させてられない。だから、駄目なんだ……」
「人間らしい事って?」
「私では……。人では無い私では! 彼女の家族になれないんだ……!」
辛そうに顔歪めて、俯くドラゴンの顔を娘は悲しげに眺めた。
しばしの沈黙の後、娘はドラゴンの顔に歩み寄ると、頬をくっつけたのだった。
「なれます」
「何を……?」
「例え、ドラゴンと人間でも家族になれます」
「そんな話は聞いた事が無い。ドラゴンは人間を喰うんだ。そんな危険な事を……」
慌てたドラゴンは娘達から離れた。
「ドラゴンさんは、私達を食べたいって思っていますか?」
「いや」
その返事を聞いた娘は笑みを浮かべた。寝ている少女を起こさないように、少女を抱えたままドラゴンの顔に近づく。
そうして、空いている手で、ドラゴンを抱きしめたのだった。
「私達三人で、家族になりましょう。そうして、三人一緒に幸せになりましょう」
「何を言っているんだ!? 私はドラゴンで……!」
「貴方は私達の事を食べないと言いました。だから、私達は家族になれると思って」
「それは、だが……」
離れようとするドラゴンを強く強く抱きしめて、娘は優しく続けた。
「私は家族になるのに、種族なんて関係ないと思います。貴方には人間の心がある。それで充分」
娘はドラゴンの顎の辺りを愛撫する。何度も撫でる内に、ドラゴンは気持ち良さそうに目を細めた。
「それに、姿形はまやかしだって、聞いたことがあります。大事なのは気持ちだって。心だって……!」
「それは……」
激情になるドラゴンに負けないように、娘は声を振り絞った。
「だからこそ、私は敢えて聞きます。貴方は……」
娘はドラゴンから離れると、その水色の光をじっと見つめた。
「貴方は、人ですか? それとも、ドラゴンですか?」
「わ、私は……」
ドラゴンはしばらく、口籠もったが、覚悟を決めて言い放った。
「私は、人だ……私は人間だ!」
そうして、ドラゴンから真っ白な霧が溢れてきた。
娘は腕の中の少女を庇いながら、その場に伏せたのだった。